エピソード18.5 吉野地方の三変人
前回は宴会の模様を紹介させてもらった。久米部の歌う唄は、来目歌と呼ばれ、宮中の儀式で歌われることになる。今でも、唄に合わせて舞う久米舞が、天皇即位後に挙行される、大嘗祭にておこなわれている。
ここで、永遠のセンター、大久米命が説明に加わってきた。
大久米「二千年後も歌われているんですから、イギリスの某有名バンドにも負けない歌い手だと思いませんか?」
すかさず、本編の主人公、狭野尊 (以下、サノ)がツッコミを入れる。
サノ「そのネタ禁止にするっちゃ。ビートルズの真似事は、これでおしまいっ!」
大久米「せ・・・せっかく、名前は伏せておいたのにっ!」
そのとき、夜麻都俾 (以下、ヤマト)が乱入してきた。
ヤマト「我が君っ。それよりも、今回は吉野周辺の視察旅行が本題ですよ! 早く行きましょう!」
サノ「わ・・・分かったっちゃ。では、出発するっちゃ!」
サノたちは、菟田の穿邑から、軽装兵を引き連れて巡幸した。ちなみに、巡幸とは、天皇が各地を旅行することである。
一行は、紙面の都合で、あっという間に吉野河の河尻に到着した。吉野川の最下流、現在の奈良県五條市北部と考えられている。
到着した一行が景色を眺めていた時、すぐ傍の井戸から、人が出て来た。井戸といっても、後世でいう地中を掘ったものではなく、川岸に桁を出したものと思われる。桁とは、木を井の字形に組んだものである。よって、川から上がって来たという意味であろう。
ちなみに、その人は、光り輝き、尻尾があった。
サノ「なっ・・・なんや? だ・・・誰ね?」
その人「アタシは、国津神の井光だよ。」
サノ「台本にはないが、説明も頼むっちゃ。」
井光「うん、分かった! アタシは、吉野首部の始祖だよ。『古事記』では、井氷鹿と記載されてて、『新選姓氏録』では、水光姫っていう女神とされてるよ。」
サノ「なんか情報量が多いっちゃ。『新選姓氏録』は、平安時代の815年(弘仁6年)に編纂された書物やな。しかし、驚いたっちゃ。女かもしれんということか?」
井光「そうだよ。そんで、アタシの本拠地は、今の奈良県川上村だよ。読み方は違うけど、井光っていう地名もあって『井氷鹿の里』と呼ばれてるよ。『もりもり館』っていう施設もあるんだよ。アタシを祀った井光神社もあるよ。」
サノ「そうか・・・。それで、汝は何しに来たんや?」
井光「道案内に来たよ! プランも立ててるよ!」
大久米「どんなプランなんですか?」
井光「土地神谷を過ぎて、休石に腰かけた後、御船山の尾根にある拝殿で、波々迦の木を燃やして、鹿の骨で占って、御船の滝の上に宮柱を立てて、天乃羽羽矢っていう、高天原で作られた矢を納めて、皇軍勝利を祈願するってプランだよ。」
ヤマト「いろいろ廻るんですね。ところで、波々迦の木ってなんですか?」
井光「上溝桜のことだよ。今でも、大嘗祭に用いる米を作る田んぼを決める時に、この木が使われてるんだよ。」
サノ「ちなみに、天乃羽羽矢の使用許可、出した記憶ないけど・・・。」
とにもかくにも、井光の案内で周辺を視察した一行は、しばらくして、新たな人物に遭遇した。その人は、磐石を押し分けて現れ、またもや尻尾があった。
サノ「次は汝かっ。 誰ね?」
その人「おいらは、国津神の磐排別。天孫が来ると聞いて、お迎えに上がっちゃったのさ。ついでに、説明すると、吉野国栖部の始祖さ。奈良県吉野町国栖の出身さ。今でも、国栖の里っていわれてて、奈良県景観資産になってるのさ。」
サノ「紙面の都合とはいえ、一気に説明してくれて、ありがたいっちゃ。それで、尻尾があるっちゅうのは、どういうことね?」
磐排別「木こりなどが、獣の革で作った尻当てを垂らしてるでしょ? あれを見て、尻尾と思われたんじゃないかって説が出ているね。」
サノ「なるほど・・・。」
その後、一行は、川に沿って西へと向かった。そこで、簗を作って魚を獲っている人がいた。ちなみに、簗とは、竹で編んだ筒状の漁具である。
ここで、マロ眉の天種子命が、サノにツッコミを入れた。
天種子「我が君、声をかけんと、あかんのや、あらしゃいませんか? 声をかけて欲しそうにしておりますよ。」
サノ「そ・・・そういうもんか? 汝は誰ね?」
魚獲る人「俺か?! そう、俺が、国津神の苞苴担ってんだ。阿太養鸕部の始祖なんだなあ。奈良県五條市の東部に、東阿田、西阿田って地名があるんですがね、まあ、そのあたりの出身じゃないかと思われてるみたいですなあ。」
サノ「それで、汝もお迎えに上がろうかなぁってことで、ここに?」
苞苴担「まあ、簡単に言うと、そういうことですな。」
ヤマト「ところで、養鸕って難しい文字が使われてますけど、鵜飼ってことですよね?」
苞苴担「さすがだなあ。その通りでござんすよ。お兄さん、物知りだねぇ。」
ヤマト「そんな古くから、鵜飼による漁法ってあったんですか?!」
苞苴担「太古の昔から、やってたみたいですよ。」
天種子「ところで、苞苴担殿。五條市の原町に、阿陀比売神社があらしゃいますが、汝と関わり合いがありますのか?」
苞苴担「祭神は阿陀比売ですが、この神様が、なんと、木花開耶姫とも言われてるんですなあ。」
サノ「えっ? ひいひいばあちゃんが!?」
苞苴担「息子の山幸彦も祀られてますよ。サノ様のひいじいちゃんですな。その兄の海幸彦も・・・。隼人の阿多君の祖と言われてる人物ですな。隼人は薩摩の人のことですよ。」
サノ「なるほど、阿多と阿陀・・・。何か関連がありそうっちゃ。」
苞苴担「天武天皇の時代に、南九州から近畿への移住が始まったと考えられてるんで、それが伝承に反映されてるんじゃないかと・・・。」
サノ「いろんな時代のことがつながってるんやな。」
こうして、サノ一行は、吉野の三人と邂逅を果たしたのであった。




