エピソード18 久米部メジャーデビュー
菟田に至った狭野尊 (以下、サノ)一行。その地を治めていた弟猾は恭順し、兄猾の陰謀は阻止された。
サノ「・・・というわけで、弟猾よ。『記紀』には、汝の心理描写はないが、兄を失くしたんや、何か言っておきたいことはないか?」
弟猾「愚かな兄でしたが、血を分けた兄弟・・・。悲しいです。この悲しみを力に変え、新しき国造りに邁進していきたいと思いまする。」
サノ「本当は兄猾にも協力してもらいたかったんやが・・・。」
弟猾「兄の分まで頑張りまする。御安心くだされ。」
サノ「頼んだじ!」
その後、皇軍と菟田の人々の友好を深めるための饗宴が開かれた。弟猾ら、菟田の人々が用意した肉と酒で、大宴会をおこなったのである。
このとき、皇軍の兵士たち、すなわち久米部の連中が歌を謡い始めた。
菟田の 高城に 鴫羂張る 我が待つや 鴫は障らず いすくはし 鯨障り・・・
作者「ここで、歌の途中ですが、説明を挟んでいきたいと思います。では、弟猾さん、御願いします。」
弟猾「これは、鴫という鳥を獲ろうとしたら、鯨が獲れてしもた・・・という歌やで。鯨となってるけど、鷹のことではないか・・・という説もあるんやで。」
サノ「意外性を持たせることで、笑いを誘う宴会歌やが、他にも、お祓いの意味もあるんやじ。」
弟猾「さすがは我が君! 不可能なことを口にすれば呪力が生まれると考えられてたんで、戦の禍々(まがまが)しさを祓う働きがあるんやで。」
そのとき、歌を謡っている久米部の中央に立つ男が吼えた。目の周りに入れ墨をした大久米命である。
大久米「永遠のセンター、大久米様の歌を聞けぇ! 野郎どもっ。行くぜっ!ここで大胆な転調だぁ!」
前妻が 肴乞はさば 立稜麦の 実の無けくを 幾多聶ゑね 後妻が 肴乞はさば 斎賢木 実の多けくを 幾多聶ゑね・・・
作者「ここで、改めて説明に入りたいと思います。では、五十手美 (以下、イソ)さん、御願いします。」
イソ「久しぶりの登場なんで、忘れている読者のために、まず自己紹介から・・・。剣根の弟の五十手美ですぞ。」
サノ「古女房がおかずをくれと言ってきたら・・・。若女房がおかずをくれと言ってきたら・・・が、韻を踏んでるんやじ。」
イソ「我が君っ。それは私の台詞ですっ。そして、古女房には、痩せた蕎麦の木のような中身のないところを、うんと削ってやれ・・・。若女房には、榊の実の多いように中身の多いところを、たくさん削ってやれ・・・という意味ですぞ。」
ここで、剣根が解説者のひな壇に乱入してきた。
剣根「これはどういう意味ですかっ? 嫁いじめ? 自分の奥さんをいじめてる? 古い女房と若い女房? 正室と側室ってこと? 吾平津媛と興世姫?」
サノ「うちの家は関係ないっちゃ!」
イソ「兄上・・・これは、生命力を得ようとする魂の叫びですぞ。」
サノ「そうやじ。年老いた女房は冬の象徴で、若い女房は春を現してるんやじ。」
イソ「その通りですぞっ。冬と春の対立構造を示し、春が勝利するという普遍性を表現しているんですぞ。これによって、我々にも強い生命力が与えられるというわけです。」
剣根「なるほど・・・。じゃあ、もう一つ質問していいですか?」
サノ「なんね?」
剣根「歌の途中で『ゑ』っていう文字が出てきたんですけど、これはどう読むんですか?」
イソ「兄上・・・読者のために知らぬフリを・・・。分かりました。説明しましょう。この『ゑ』は『え』と読みますぞ。こう見えて、ひらがなですぞ。」
剣根「な・・・なんと、『え』には、『え』だけでなく、『ゑ』もあったということか?」
イソ「昔は厳密に発音が違ってたらしいんですが、徐々に一緒になっちゃって、消えて無くなった可哀そうな奴なんです。異国の英語でも、RightとLightとか、ThinkとSinkとかありますよね。そんな感じですぞ。」
すると、永遠のセンター、大久米命が再び雄叫びを上げた。
大久米「さあ、ラストは一気に盛り上がる構成だっ。心して聞きやがれっ!」
ええ しやごしや 此は いのごふぞ ああ しやごしや 此は 嘲笑ふぞ
イソ「直訳すると・・・ええ、しやごしや! これは、ざまあみろの意味だ。ああ、しやごしや! これは、嘲笑うの意味だ・・・ってことですぞ。」
弟猾「ちょっと待てい! しやごしや・・・の本来の意味は、なんやねん?」
イソ「まあ、悪口・・・的な? 汚い言葉って感じですかね。」
サノ「要するに、よく分からんのやな?」
イソ「ま・・・まあ、かけ声的な?」
そのとき、永遠のセンター、大久米命がまたしても叫んだ。
大久米「これが、俺たちのデビューシングル『ラヴ ミー ドゥー』だっ!」
サノ「勝手に題名をつけるなっ!」
イソ「それって、異国のイギリスっていう国から生まれた、超有名バンドのデビューシングルですよねっ?」
大久米「固いこと言うなっ。」
サノ「汝は、ゆるすぎやじっ。」
ここで、プロデューサーの道臣命が乱入してきた。
道臣「この勢いで、デビューアルバムも作るんやじっ。」
サノ「勝手に決めるなっ!」
大久米「私のことは嫌いになっても、久米部のことは嫌いにならないでっ!」
こうして、宴は盛り上がり、一行は、菟田の人々と友好を深めたのであった。




