エピソード17.5 菟田釣天井事件
八咫烏 (以下、三本足)より、兄猾と弟猾の兄弟が恭順したとの報告を聞き、狭野尊 (以下、サノ)は上機嫌であった。
サノ「今回は戦にならずに済んだっちゃ。良かったっちゃ!」
こうして、紀元前663年8月2日、サノ一行は、兄弟と会談することとなった。ところが、やって来たのは、弟猾だけであった。
弟猾「お初にお目にかかりまする。弟猾にござりまする。」
サノ「あれ? お兄さんの方は?」
弟猾「そ・・・それが、兄は・・・。」
サノ「何か、言いにくいことみたいやな?」
弟猾「正直に申し上げます。私の兄、兄猾は、反逆を企てております。天孫一行が到着したと承り、兵を起こして襲撃しようとしたのですが、皇軍の威風を見て、正面から戦っても勝てないと考え、ある詐計を立てたのです。」
サノ「詐計? どういうことっちゃ?」
弟猾「密かに伏兵を用意し、仮の新宮を作って、その御殿の中に、からくりを設けたのです。そして、饗宴にお招きして、罠に陥れようとしております。どうか、お気をつけください。」
サノ「なるほど・・・そういうことか・・・。」
すると、そこに筋肉隆々の道臣命が口を挟んできた。
道臣「荒事なら、わしの出番やじ。ちょっと、見てくるっちゃ。」
サノ「よしっ! 道臣よ! 行けい!」
ここで、道臣の息子、味日命も乱入してきた。
味日「俺も行くってばさっ!」
サノ「汝は『記紀』に登場せんやろっ!」
味日「そう、固いこと言わないでさあ。」
道臣「息子の将来のためにも、お願いするっちゃ。荒事の何たるかを教えてやるんやじ。」
サノ「分かりました。分かりましたよ・・・。行けい! 味日!」
味日「頑張るってばさっ!」
こうして、道臣命と味日命、そして部下として編入された大久米命が兄猾の屋敷へと向かった。
道臣「ところで、兄猾の屋敷って、どこっちゃ?」
そこへ、三本足こと八咫烏がやって来た。
三本足「おめえら、居場所も分からずに飛び出しちまうんだもんなあ。」
道臣「あっ! 三本足! 教えてくれるんか?」
三本足「そのつもりで来たんだ。兄猾の屋敷だけんどよお、オラたちの本陣から、北東に1.5キロほど行ったところだ。二千年後で言うと、宇賀神社があるところだ。」
道臣「宇賀神社? 誰が祀られてるんや?」
三本足「今は、言えねえな。」
大久米「我々の誰かが、ここで命を落とすのかも!」
味日「台本に登場しない俺以外ってことだな。」
大久米「はっ! そうだった! で・・・では、私か、道臣・・・。」
道臣「いや・・・えっ? ちょっ・・・えっ?」
そんなことを言っているうちに、三人は兄猾の屋敷に辿り着いた。
兄猾「これは、これは、天孫御一行様。来たのは、御三方だけですか? あとの方々は?」
道臣「ふっ・・・。アカデミー賞なみの演技ではないか・・・。」
兄猾「あ・・・あかでみいしょう?」
道臣「汝の企みは、ことごとく、まるっと全て分かってるんやじ。」
兄猾「なっ!? 何!?」
道臣「卑しき奴原よ! 汝が作った建物に、汝自身が入ればいいっちゃ!」
殺し文句と共に、剣の柄に手をかける道臣。大久米は弓に矢をつがえて引き絞り、味日は矛の刃先を兄猾に向けた。
兄猾は、自業自得で言い逃れもできない。ましてや、逃走することも不可能。追い詰められた兄猾に残された道は、一つしかなかった。
兄猾「アンタの言う通りだ。悔しいけど・・・僕は負けたんだな。」
道臣「観念しろい!」
兄猾「兄猾っ! 行っきまぁぁす!」
颯爽と御殿に入っていく兄猾。それと同時に、天井が勢いよく落ちてきて、兄猾は圧死してしまったのであった。
天井に潰されて死んだだけでも、充分に悲惨であるというのに、道臣は、更に酷いことをやってのけた。兄猾の遺体をメッタ斬りにしたのである。その血は流れて、踝までひたした。
道臣「そこで、この地を菟田の血原と呼ぶようになったんやじ。」
大久米「血原の血は、真っ赤な顔料の水銀朱を暗示していると思われます。」
道臣「どういうことっちゃ?」
大久米「宇賀神社から見田・大沢古墳群にかけての地域は、古墳時代前期にさかのぼる、国内最大級の大和水銀鉱山が集中してるんですよ。」
味日「弥生時代から古墳時代には、墓の内部や遺体に朱を施して、死者の再生や魔除けを願う風習があったけど、もしかして・・・それを確保するためだったってことか?」
大久米「その通りっ。我が君は、資源確保のために菟田を平定したんでしょうね。ちなみに、水銀朱ですが、別名、賢者の石とも言います。辰砂が一般的ですかね。」
味日「大陸の辰州でたくさん産出したから、辰砂って言うみたいだな。」
大久米「さすがは味日! その通りですよ!」
道臣「我が国では、丹と呼ばれてたんやじ。覚えておいてくれよな。」
味日「ところで、宇賀神社に祀られてるのは・・・。」
道臣「兄猾ということやな。例え、敵対した者でも、死ねば、神として祀るんやじ。そうすることによって、地元の人々との対立を避けていったんやろな。」
とにもかくにも、兄猾の陰謀を阻止することに成功したのであった。




