エピソード17 今日からわしは
八咫烏が先導し、日臣らが道を切り開き、そこを狭野尊 (以下、サノ)一行が通る作戦は順調に進んだ。そして、一行は険しい山から抜け出ることに成功したのであった。
サノ「・・・ということで、ここはどこね?」
主君の質問に対し、先導役である八咫烏 (以下、三本足)が返答した。
三本足「ここは菟田下県ってところで、今いるんは、穿邑っちゅうところだ。」
サノ「二千年後の言い方では、どこになるっちゃ?」
三本足「仕方ねえな。その時代だと、奈良県宇陀市の菟田野佐倉だな。」
そのとき、椎根津彦 (以下、シーソー)が補足説明を始めた。
シーソー「ここに本陣を敷いたので、のちに神社になったんやに。桜実神社っちゃ。」
サノ「立ち寄ったところは、ほとんど神社になってるんやな。」
シーソー「この神社には、一株から八本の幹が伸びる『八つ房杉』がそびえてるんやに。」
サノ「神社の紹介、大儀っちゃ。では、今回の一番の功労者を労うことにするじ。」
三本足「そりゃあ、どう考えても、オラだろ。」
サノ「日臣っちゃ。」
三本足「ええっ!? 何でだよ!?」
唐突に名前を呼ばれた日臣命は、慌てふためきながら対応した。
日臣「えっ?! わ・・・わしでよかと?」
サノ「いっちゃが、いっちゃが(いいよ、いいよ)。汝は忠誠と武勇を兼ね、よく先導の功を立ててくれたんやじ。よって、汝に新しい名前を授けるっちゃ。」
日臣「あ・・・新しい名前? シーソーは嫌ですよ。」
シーソー「それは、わしの名前っちゃ! 嫌って、どういう意味っちゃ!?」
サノ「心配するなっ。汝は、今日から道臣っちゃ。」
今日、この日、日臣は道臣と名前を変更したのであった。
シーソー「さっき、心配するなって言いましたよね? どういう意味っちゃ!?」
三本足「おめえは、まだいいじゃねえか。オラ、一生懸命頑張ったのによお。何も貰えねえんだぞ。」
一人と一羽の愚痴は放っておいて、話を進めよう。小柄な剣根が、勝手に司会役を買って出た。
剣根「では、日臣改め道臣殿・・・。改名の挨拶を御願い致しますぞ。」
道臣「今日からわしは、道臣っちゃ。名前が変わっても、熱い忠義の心は変わらないっちゃ。これからも頑張るんで、応援よろしくっちゃ。」
三本足「じゃあ、改名記者会見も終わったし、そろそろ本題に入るか。」
サノ「本題? どういうことっちゃ?」
三本足「この菟田にも、首長がいるんだ。『記紀』では、魁帥って表現されてる奴らだ。そいつらを恭順させねえと、菟田を平定したっちゅうことにはならねえだろ?」
サノ「ちょっと待てい! 奴らって・・・そいつらって・・・一人じゃないんか?」
三本足「実は首長が二人いてよお。しかも、そいつら兄弟みてえなんだ。確か、兄猾と弟猾とかいう名前だったな。」
サノ「どっちがお兄さんか、すぐ分かったっちゃ。」
シーソー「じゃっどん、名草戸畔や丹敷戸畔の時みたいに、戦になるのは嫌っちゃ。何か、いい手はないんか? 三本足?」
三本足「あだ名が浸透してるんが、気になるところだけんど・・・。まあ、気にしても仕方ねえな。じゃあ、ここに呼び寄せるっちゅう作戦はどうだ?」
サノ「どうやって呼び寄せるんや?」
三本足「簡単なことだ。オラがひとっ飛びで、二人に報せて来っぞ。」
サノ「はっ? そんなこと『日本書紀』には書いてなかったじ。」
三本足「ところが『古事記』では、そうなってんだ。まあ、心配すんな。すぐ呼んで来っぞ。」
こうして、三本足こと八咫烏は、兄猾と弟猾の元へ飛び立っていった。
そのころ、兄猾と弟猾は、都合よく、二人そろっていた。そして『古事記』に書かれた通りのことがおこなわれた。
三本足「今、天津神の御子が、菟田まで来てんだけんどよお、おめえら、家来にならねえか?」
ここで、弟猾がツッコミを入れてきた。
弟猾「ちゃんと、台本通りに言わんかいっ!」
三本足「仕方ねえなあ。今、天津神の御子、いでませり。汝等、仕え奉らんや。」
弟猾「ええで!」
兄猾「・・・・・・。」
三本足「じゃあ、よろしくなっ。」
そう言って、三本足こと八咫烏は、サノの元に戻って行った。
あとに残った兄弟は、お互いの顔を見合わせた。
弟猾「兄上? 返事がありませんでしたけど・・・」
兄猾「汝は行けばいい。僕は行かない。」
弟猾「ちょっと! 何、言うてんねん。」
兄猾「僕は戦いの道を選ぶ。サラバだ・・・弟よ!」
弟猾「兄上! 戦って勝てる相手やないでっ!」
兄猾「正面から戦うとは言ってない。要は、ここの使い方次第だ。」
そう言いながら、兄猾は自分の頭を指差した。
弟猾「な・・・何を考えてんのや・・・兄上・・・。」
兄猾「いいかい。これは内密にしておいてくれよ。絶対、サノに言うんじゃないぞ。」
弟猾「な・・・内密って・・・そんなんできるわけないやろ?!」
兄猾「血のつながった兄が死んでもいいのか?」
弟猾「うっ・・・。」
兄猾「分かったなっ!」
狂気に満ちた兄の顔を見て、弟猾は、寒気を覚えるのであった。




