エピソード15.6 スマホを借りただけなのに
紀元前663年、狭野尊 (以下、サノ)一行は熊野の海で嵐に遭遇した。そして、この状況に耐え切れず、二人の兄は海に飛び込んでしまったのであった。稲飯命は常世の国に行き、鋤持神となったが・・・。
もう一人の兄、三毛入野命 (以下、ミケ)は、荒れ狂う波にもまれながら、遥か故郷の方に目をやった。
ミケ「この海の向こうに高千穂がある。もう一度、故郷を見てみたかった・・・。」
そんなことを考えていた三毛入野であったが、ふと、弟や甥たちのことが気になった。
ミケ「そ・・・そうじゃ。サノたちが助かるように祈願しよう。我が祖母が祀られている添利山の方に向かって祈ろう。確か、二千年後は祖母山と呼ばれていたっけ・・・。大分県と宮崎県の県境とか、作者が言ってな・・・。」
吹きすさぶ風波の中、三毛入野の意識は遠退いていった。
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謎の男「ミケ様! ミケ様!」
ミケ「うっ・・・。こ・・・ここはどこじゃ?」
謎の男「ここは木国の名草です。読者向けに言えば、和歌山県ですね。」
ミケ「そ・・・それで、汝は誰や?」
謎の男「誰って、比古麻ですよ。天道根の息子です。エピソード14で、ちょっとだけ登場したでしょ?」
ミケ「その比古麻が、なして(なぜ)ここにおるんや?」
比古麻「それはこっちの台詞ですよ! 地元の人たちが、岸辺に流れ着いていたミケ様を見つけ、ここまで運んできたんです。何があったんです?」
ミケ「じ・・・実は、かくかくしかじか・・・。」
比古麻「えっ!? 海に身を投げた?! そ・・・それで、サノ様たちは?」
ミケ「分からん。無事であれば良いのだが・・・。」
すると突然、三毛入野の天津神スマホが着信音を奏で始めた。画面を見てみると、知らない番号である。
ミケ「も・・・もしもし?」
サノ「兄上! どういうことっちゃ!」
ミケ「サ・・・サノか? 無事やったか!?」
サノ「無事っちゃ。それより、これは、どういうことね?! なして、兄上がっ!」
ミケ「ゆ・・・許せ。この旅に疲れ、汝を置いて逃げてしまった・・・。」
サノ「それについては済んだことやかい(だから)、気にしてないっちゃ!」
ミケ「はっ? じゃあ、何に怒っちょるんや?」
サノ「祖母山の伝承についてや! あれは、わしが船の上で祈ると嵐が鎮まったっちゅう話やろ? なして、兄上が祈ってるんや!?」
ミケ「い・・・いやっ。あれは、作者が、このあと筑紫 (今の九州)に帰るんやかい、わしが祈った方が劇的になるち、言うてやなぁ・・・。」
サノ「げ・・・劇的? 筑紫? 帰る? どういうことっちゃ!?」
ミケ「実は、わしは筑紫に帰って、いろいろ伝承を残してるみたいなんや。」
サノ「じゃあ、このまま合流せずに高千穂に帰るっちゅうことか?」
ミケ「じゃが(そうだ)。」
サノ「そ・・・それが、タケミーの言っていた、スポンオフとか言うやつか・・・。」
すると電話の向こうから、天種子命の声が響いてきた。
天種子『我が君! スポンオフやありまへん。スピンオフにあらしゃいます。』
ミケ「天種子も元気みたいやな。それで、タケミーっちゅうのは誰ね?」
サノ「あっ! 言い忘れてたっちゃ。タケミーは武甕雷神っちゃ。」
ミケ「なっ!? そんな大御所が、なにゆえ、そこに?!」
サノ「いろいろあったんやじ。稲飯の兄上は鋤持神になったじ。」
ミケ「稲飯の兄上は常世に行かれたか・・・。」
サノ「それから、天照大神様にも会ったっちゃ。」
ミケ「なっにっぃぃぃ!!! わしも会いたかったぁぁ!!!」
サノ「海に飛び込むかい(から)、こんなことになったんやじ。」
ミケ「わ・・・分かっちょる・・・。許せ・・・。」
サノ「伝承が残ってるんやかい、仕方ないっちゃ。兄上、お達者で・・・。」
ミケ「サノもな。他の者らにも、息災で・・・と伝えておいてくんない(ください)。」
サノ「分かったっちゃ。兄上も、高千穂に帰ったら、吾平津媛や岐須美美に、皆、元気にしちょると伝えっ・・・あっ! 何するっちゃ!」
ミケ「ど・・・どうした? サノ?」
すると、三毛入野が初めて聞く、男の声が届いてきた。
知らない男『長電話禁止ぞ! そもそも、これは、わしのスマホじゃっ!』
サノ「まだ話の途中っちゃ。ちょっとぐらい、ええやないか!」
そこに、サノの息子、手研耳命 (以下、タギシ)の声も聞こえてきた。
タギシ『ち・・・父上! タケミー・・・じゃない、武甕雷様のほっぺた引っ張ってはダメっ・・・ツー ツー ツー。』
唐突に電話が切れ、あとには静寂が残った。
ミケ「・・・・・・。」
比古麻「なんか・・・にぎやかでしたね。」
ミケ「ま・・・まあ、元気にしちょるということで、わしは、わしの物語を進めにゃな。」
比古麻「もう旅立つんですか?」
ミケ「作者、曰く、紙面の都合っちゃ。」
比古麻「分かりました。ミケ様もお気をつけて・・・。」
ミケ「ところで、今回、なして汝が登場したんや?」
比古麻「一回限りの登場は悲しいよねって、作者が仰って・・・。ミケ様が上陸した場所とか、伝承では何も語られていないんですが、確実に、そういう描写が必要だということで、急遽、私が登場することになったわけです。友情出演ってやつですね。」
ミケ「それで満足なんか?」
比古麻「えっ?」
ミケ「このまま、わしと共に筑紫に向かおうぞ。」
比古麻「いいんですか? 伝承には全く登場しないんですよ?」
ミケ「いっちゃが、いっちゃが(いいよ、いいよ)。一人やと淋しいかい(から)、わしとしても気が楽になるっちゃ。」
こうして、三毛入野命は比古麻と共に筑紫に向かうこととなった。




