エピソード12.5 彦五瀬の最期
和歌山県は紀の川河口近くにある水門吹上神社は、彦五瀬命 (以下、イツセ)が雄叫びを上げた地として伝わっている。
ここで、本編の主人公、狭野尊(以下、サノ)が雄叫びを上げた。
サノ「もう一回、叫ぶんですね! 兄上!」
イツセ「慨哉 (意味:残念だ)! わ・・・わしは・・・ますらおでありながら・・・卑しい賊の手にかかり・・・仇も討てずして死ぬとはっ!」
一同「・・・・・・。」×9
イツセ「嗚呼、スッキリした。」
サノ「これから死ぬ人には見えないっちゃ。」
イツセ「ち・・・ちなみに、水門吹上神社があるのは、現在の地名でいう和歌山市の小野町っちゃ。覚えておいてくれよな。」
そのとき、三兄の三毛入野命 (以下、ミケ)が説明を始めた。
ミケ「この神社より南の地に、竈山神社があるっちゃ。」
サノ「竈山神社?」
ミケ「この竈山が、イツセの兄上が亡くなられたとされている地なんや。」
サノ「えっ?!」
イツセ「じゃ・・・じゃが(そうだよ)。『日本書紀』では、竈山に来た時に、陣没したことになっちょるんや。」
ミケ「神社の裏手には、兄上を葬った陵墓があります。円墳で、直径約6m、高さ約1m。命日とされる5月8日には、雄誥祭がおこなわれてるっちゃ。」
ここで次兄の稲飯命が補足説明を始めた。
稲飯「竈山神社には、今は枯れちょるが、桜川という川が流れていて、兄上が傷を洗ったという伝承も残ってるんやじ。」
更に、マロ眉の天種子命も説明に加わった。
天種子「神社周辺には、木野、笠野、鵜飼の三家があり、代々、竈山のイツセ様の墓を守ってきたそうにあらしゃいます。」
次に、サノの息子、手研耳命 (以下、タギシ)が加わった。
タギシ「鵜飼氏は、かつて神職を継承してきたそうやじ。今も氏子の多くは、三家の苗字らしいっちゃ。」
一代目こと椎根津彦 (以下、シーソー)も参戦。
シーソー「笠野家には口伝で、長髄彦との戦いの記録が伝わってるそうやに。苦戦ぶりを語り継いでるそうや。下記、参照くだされ。」
<神武一行が船から上陸しようとするたびに、生駒山上から烽火が上がり、それを合図に攻撃された。そのためになかなか地上で戦うことができなかった>
サノ「船から下りられんかった? ちょっとおかしくないか?」
天種子「まるで、ノルマンディー上陸作戦みたいやおわしまへんか。」
一同「のるまんでえ?」×9
天種子「すみませんなあ。二千年後ネタをやってしまいました。」
サノ「そんなことはどうでもいいっちゃ。それより問題なんわ、船から下りられんほどの矢攻めにあってたら、わしらは盾津で盾を立てて叫べんやないか!」
稲飯「人の記憶っちゅうもんわ、時が経つにつれて曖昧になるもんや。前後が逆になったり、無かったことが有ることになったり・・・。」
イツセ「じゃが(そうだ)。『記紀』の方が間違ってるかも分からん。盾津ではないところで、叫んだのやも・・・。」
サノ「なるほど。」
イツセ「い・・・いかん。そろそろっちゃ。お迎えが来たみたいや・・・。」
サノ「そ・・・そんな、今回は兄上が亡くなるということで、出演者総出で話を進めようと思ってたんやじ。まだ死なないでほしいっちゃ。」
イツセ「そ・・・そんなこと頼まれたんわ、人類史上、わしだけやな・・・。」
ここで、慌てて参加してきたのが、小柄な剣根であった。
剣根「イツセ様! こんな形でお別れになるとは(泣)。」
そして、目の周りに入れ墨をした大久米命。
大久米「イツセ様の敵は必ず取りますっ。ですから、安心して常世にお旅立ちくださいっ!」
最後に筋肉隆々の日臣命が参戦。
日臣「悲しいっちゃ。つらいっちゃ。台本を書き換えてほしいっちゃ(泣)。」
そして、天道根命 (以下、ミチネ)が参加。
ミチネ「イツセ様、もっとたくさん共演したかったっちゃ(泣)!」
サノ「なして、汝がここにおるんやっ!」
ミチネ「もう我慢できずに出ちゃいましたよ。わしは、日像鏡と日矛鏡を祀る場所を探すため、別行動で、諸国遍歴の旅に出ておりました。ようやく良き場所を見つけたので、報告に来てみたら・・・。なんということですかっ!」
サノ「わざとらしいっちゃ。」
ミチネ「そ・・・そんなっ。」
イツセ「よかよか。ミチネとも、最後に話せて良かったっちゃ。」
ミチネ「イツセ様ぁ(泣)。」
イツセ「天照大神が岩戸隠れ(いわとがくれ)をなさった折、石凝姥が鋳造した二つの鏡。鎮座すべき地が見つかったと知り、わしも安堵したじ。ミチネも、ようやくこれで神宝から解放されるんやな。」
サノ「あ・・・兄上、それは、どういう意味っちゃ?」
イツセ「わしよりも、ミチネ本人が説明する方がええやろ。」
ミチネ「分かりました。実は、わしは、塩土老翁に負けんくらいの『じいちゃん』でして・・・。高天原にいた時、二つの鏡を祀る係に任命され、ニニギ尊と共に降臨した際も、鏡を持参して降臨したのです。そして今日まで、鏡を祀る係として、頑張って参りました。」
サノ「そ・・・そんな昔から祀ってたのか!」
ミチネ「木国 (今の和歌山県)の木本郷にしばらく滞在し、いろいろ廻っておりましたが、ついに美しき土地を見つけました。あとは我が君に、御確認いただくばかりっ。」
イツセ「し・・・死ぬ前に・・・間に合って・・・良かっ・・・た・・・。ガクッ。」
ミチネ「イ・・・イツセ様?!」
サノ・稲飯・ミケ「あにうえ!」×3
タギシ「伯父上!」
他の家臣たち「イツセさまぁ!」×多数
こうして高千穂の軍師、作戦参謀とも呼べる男が息を引き取った。悲しみに包まれる一行。涙が枯れる暇もなく、一行は、神宝鎮座候補地を目指すのであった。




