エピソード11.6 長髄彦の議
狭野尊 (以下、サノ)一行が敗北を喫した孔舎衛坂の戦いより、数日前か数か月前にさかのぼり、ここで、いったん、中つ国の方で何が起こっていたのかを紹介したいと思う。
中つ国を治めていたのは、饒速日命 (以下、ニーギ)と『記紀』には記されているが・・・。
ニーギ「その通り。私が中つ国を治める饒速日だ。」
そこに、息子の可美真手命 (以下、ウマシ)が異論を唱えてきた。
ウマシ「おとん・・・。残念や。おとんは、もう死んではるんや。」
ニーギ「ど・・・どういうことだ?」
ウマシ「実は『先代旧事本紀』では、おとんは死んでるんや。」
ニーギ「な・・・なんだと?」
ウマシ「天の磐舟で降臨したあと、おかんと結婚したんやけど、わてが産まれる前か、産まれた直後くらいに死んだことになってんねん。ちなみに、降臨した場所は、現在、磐船神社になってます。大阪府、交野市の私市にある神社だす。」
ニーギ「華麗にスルーさせてもらうか・・・。では、私は生きているようで、実は死んでいる・・・。どこかの聖書みたいな状況になっているということか?」
ウマシ「よう分からへんけど、『先代旧事本紀』の記述が事実やったら、わてが中つ国を治めてたことになるわな。」
ニーギ「ふっ。これでは道化だよ。」
ウマシ「どないしましょ? わてが治めてる体で、話、進めましょか?」
そこに、饒速日の妻、三炊屋媛が乱入してきた。
三炊屋「だんなはん、何を気落ちしてはるんや。死んでても、生きてることにしたらええやないの。」
ニーギ「だが、死んでいるのに、出演してしまっては、話がややこしくならないか?」
三炊屋「都合のええ時は出演して、都合が悪うなったら退場すれば、ええんだす。」
ニーギ「そ・・・そういうものか?」
ウマシ「おかんの言う通りやな。都合が悪うなったら、わてが主君になるっちゅうことで、行きましょか。」
ニーギ「すまんな、ウマシ・・・。まさか、死んでいたとは・・・。」
三炊屋「それより、だんなはんの一番上の息子はんは、どこに行ってはるんです? 高千穂のサノとかいうやつが、中つ国を狙ってはる時に、何をしてはるんです?」
ニーギ「天香語山のことか? あいつなら、また熊野に行っているんじゃないか?」
三炊屋「その名前は、降臨する前の名前でっしゃろ? 今の名前で呼んでおくれやす。」
ニーギ「あ・・・ああ、高倉下だったな。」
三炊屋「どんだけ、木が好きなんでしょ。あの子は・・・。」
ニーギ「血がつながっていないとはいえ、母として、あいつを育ててくれたこと、心から感謝しているぞ。三炊屋・・・。」
三炊屋「突然、何だす? 気色悪い・・・。」
ニーギ「い・・・いやっ、読者向けにだな・・・。」
そこへ、三炊屋媛の兄がやって来た。長髄彦 (以下、スネ)である。
スネ「あにさん、遅れてすんまへん。」
ニーギ「えっ? いや、呼んでないが・・・。」
スネ「あっ! そうでしたな。わてが勝手に来たんでしたわ。」
ニーギ「どうした? 何か急な報せでも届いたのか?」
スネ「高千穂のサノとかいう、天孫もどきのことだす。」
ニーギ「サノ殿が、どうした?」
スネ「ついに本性を現しましたわ。わてらのシマ、奪おうと、軍船引き連れて来たんだす。」
ニーギ「い・・・いやっ、それは、汝が勝手に最後通牒を送ったからではないか。」
スネ「とにかく、わてらのシマを荒らすやつは、何人たりとも許さへん。叩きのめしてやりますわ! あにさん、吉報を待っててください。」
こうして、長髄彦は勝手に軍勢を整え、鳥見の白庭山に陣を敷いた。現在の奈良県は生駒市の上町である。今は、長髄彦本拠地と書かれた石碑が立っている。
ニーギ「鳥見の白庭山とは・・・。私の本拠地ではないか?! 勝手に、ここに陣を敷いたということか?」
スネ「あにさんを守るためですわ。すんまへんけど、堪忍してください。」
こうして、孔舎衛坂でサノ一行を打ち破った長髄彦は、意気揚々と凱旋した。このとき、長髄彦軍は勝鬨の声を上げた。その場所が、勝鬨坂として伝わっている。
スネ「今の生駒市、白庭台にある坂や。白庭台幼稚園の側面の道やな。かえで通りとちゃうで、その道とティー字路で重なってる道や。」
一同「てぃーじろ?」×3
スネ「わてらも、そのネタやるんですか? あにさん?」
ニーギ「い・・・いやっ、一度やってみたかっただけだ。それで、サノ殿・・・もといサノを打ち破ったわけだな?」
スネ「へいっ。とことん追い詰めちゃろ思いましたが、天孫もどきっちゅうんは、弱腰の弱兵ですな。ピーピー泣き叫んで逃げ惑ってるん、見てたら、追い討ちかける気もなくなりましたわ。」
長髄彦によって、山越えに失敗したサノ一行。矢傷の重い彦五瀬命 (以下、イツセ)。彼らは中つ国に辿り着くことができるのか?
サノ「主人公なのに、ここでようやく登場っちゃ。」
イツセ「わしらの進軍を阻んだんわ、長髄彦やったか・・・。」
サノ「とりあえず、わしらは迂回して、中つ国に向かうっちゃ。敵の側面を突くんやじ。それじゃあ、来週も見てくれよなっ!」
謎の男「ふっふっふっ・・・。ようやく、それがしの出番というわけですな。」
サノ「汝はまだ早いっちゃ、天道根(以下、ミチネ)!」
ミチネ「正体ばらしちゃってるじゃないですか!」
イツセ「日像鏡と日矛鏡を祀る場所を探すため、わしらとは別行動で、諸国遍歴の旅に出ている天道根やな。」
ミチネ「イツセ様・・・。全部言っちゃいましたよ・・・。」
サノ一行は、迂回行動を取り、現在の和歌山県へと向かっていく。この地で、どのような出会いがあるのか? 天道根命に遭遇するのは、間違いない。




