エピソード9.6 兄上は主人公
七つ目と八つ目の候補地、無人島の高島と高島山の一帯に滞在中の狭野尊 (以下、サノ)一行に基づく伝承が他にもあるので、ここで紹介したい。
ここで、長兄の彦五瀬命 (以下、イツセ)が噛みついてきた。
イツセ「ちょっと待てい! なんや?! 9.6ってなんや!? 10やろう?」
そのとき、作者に代わって、三代目水先案内人の宇津彦命が解説を始めた。
宇津彦「すみません。すぴんおふ・・・とかいうやつらしいので、9.6になったんだとか・・・。」
イツセ「いやっ、これまでも『すぴんおふ』的な話は、ぎょうさん(たくさん)あったやないかっ!」
そこへ、サノの息子、手研耳命 (以下、タギシ)がなだめにきた。
タギシ「伯父上! 残念だが仕方がない。ま、そういうことだ。」
イツセ「タギシ! なんで上から目線なんやっ!」
サノ「まあまあ、兄上。とりあえず、話を進めましょうぞ。」
宇津彦「前回紹介させてもらった亀石から、東へ2キロの地点に、イツセ様を祀る、安仁神社があるんですよ。まあ、だから、今回はイツセ様が主人公ってことなんですかね・・・。」
イツセ「どうだっ! サノっ! わしだけが祀られた神社やっ!」
そこへ当然の如く、次兄の稲飯命と三兄の三毛入野命 (以下、ミケ)が文句を垂れてきた。
稲飯「兄上だけずるいですぞっ!」
ミケ「そうっちゃ! ずるいっちゃ!」
宇津彦「安心してくださいっ。お二人も、ちゃんと祀られてますからっ。」
稲飯・ミケ「えっ!?」×2
宇津彦「主祭神はイツセ様ですが、お二人も祀られてるんですよ。」
稲飯・ミケ「初めて祀られたっちゃっ!」×2
イツセ「ちなみに、古来は兄神社と表記されてたらしいな。」
宇津彦「そうなんですよ。ちなみに、現在の地名でいうと、岡山市東区の西大寺一宮に鎮座しております。宮城山という山の中腹に作られた神社です。」
イツセ「それから、安仁神社の近くには、かつて稲戸という地名があったそうやな。わしが兵糧を備蓄したことが由来らしい。」
サノ「な・・・なして、今はないんや?」
イツセ「字名といって、かなり狭い区域を指す地名やかい(だから)、住所では使われんようになったみたいや。残念だが仕方がない。ま、そういうことだ。」
タギシ「伯父上・・・パクリはいけませぬぞ・・・。」
イツセ「華麗にスルーで、次に紹介するのは、安仁神社から北に5キロほどいった地点の山間部にある、麻御山神社っちゃ。」
タギシ「華麗にスルーで・・・伯父上。これは何の神社ですか?」
イツセ「これはな、麻を植えて、それを元に東征のための服を作ったという場所なんや。現在の地名でいうと、岡山市東区の邑久郷になるっちゃ。」
宇津彦「ちなみに、山そのものも麻御山っていいます。」
サノ「兄上っ! これも兄上に関することなんですか?」
イツセ「そうやっ! わしがいろいろ段取りしちょったことが分かったやろ?」
サノ「よく分かったっちゃ。兄上のおかげで、東征が続けられたんやな・・・。」
イツセ「そういうことや。他にも、船を造った大工に『御船』という姓を与えたという伝承も残ってるんや。」
そこに、一代目水先案内人の椎根津彦 (以下、シイネツ)が、突如乱入してきた。
シイネツ「イツセ様・・・。今回の主人公は、イツセ様だけではないっちゃ。」
イツセ「なっ!? それはどういう意味っちゃ?」
シイネツ「うちを祀ってる神社もあるっちゃ!」
サノ「一代目だけを祀ってるんか?」
シイネツ「そうっちゃ!」
サノ「物好きなやつやなぁ。」
シイネツ「そんなこと仰らず、説明を聞いてほしいっちゃ。では、三代目。頼むぞっ。」
宇津彦「かしこまりました。亀石から北に3キロほどの地点にある神社です。その名も神前神社です。」
シイネツ「現在の地名でいうと、岡山市東区の神崎町っちゃ。」
満足気なシイネツの傍らで、サノが一同を見回した。
サノ「さてと、これで、紹介はほとんど済んだのか?」
宇津彦「はい。これで岡山県の伝承はおしまいです。」
一同「おかやまけん?」×10
宇津彦「華麗にスルーの方を習得してくださいっ!」
サノ「兎にも角にも、高島宮の候補地やら、兄上の神社やらの紹介をしている間に、吉備の地に水稲耕作が浸透したみたいやな。」
ここで、筋肉モリモリの家来、日臣命が会話に加わってきた。
日臣「では、そろそろ吉備の地を発つと?」
サノ「名残惜しいが、そうなるっちゃ。」
イツセ「これからは厳しい旅となるやろう。皆、気を引き締めていかにゃならんぞっ!」
一同「おうっ!!」×9
サノ「あれっ? ×9ってどういうことっちゃ。一人足りんぞ?」
宇津彦「すみません。僕はここまでです。」
サノ「なして、そうなるんや?」
宇津彦「僕は水先案内人として、芸予海峡 (広島県と愛媛県に挟まれた海峡)の先導が仕事でしたので・・・。」
稲飯「吉備まで付いてきてもらっただけでも、出血大サービスっちゅうやつなんやな。」
一同「さあびす?」×10
宇津彦「最後まで、様式美のボケをやってくださり、感無量です。旅の安全と、宿願成就を祈念致しております。」
サノ「これまで本当に世話になったっちゃ。」
宇津彦「こちらこそ・・・。それと、これが家島までの地図です。ここで四代目が待っています。彼には国津神スマホで連絡してますから、安心してください。」
こうして、三代目こと宇津彦は、地元の大崎下島に帰っていった。




