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お客様

猿魔獣を倒してから、フェラリーとレイラの態度が目に見えて変わった。

フェラリーは常に俺を見ている。

遠くからなら、本人はバレてないと思っているのだろう。

バレバレですやん。

視線に気づいた俺がフェラリーの方を振り返ると、逃げたり隠れたり顔をそむけたり。

かわいい・・・けど、めんどくさい。

追っかけても逃げるだけだし、無視すると機嫌が悪くなる。

どないせぇっちゅうねん?

そういえば友人の娘でこんな態度をとった子がいたよな。

あの時はどうした?

確か・・・あ、友人が「気にしなくていいから」と言って、その子を連れてどこかへ行ったんだった。

俺はオッサンのくせに、そのあたりの経験値は低すぎて話にならなかった。


そういえば、フェラリーのスティレットまだ借りっぱなしで返してなかったな。

ちゃんと返そう。

「フェラリー、フェラリーはどこ?」

後ろから見ているのは知っていたが、あえて違う方向に声をかけた。

「・・・ケイン・・・呼んだ?」

顔を赤らめ、ちょっともじもじしながらフェラリーが俺の後ろから出てきた。

くぅ~~っ、かわいい。

「これ、返すよ。 俺のは見つかったんだ」

そういってフェラリーのスティレットを両手で差し出す。

スティレットにはピンクのリボンを巻いておいた。

「・・・これは?」

フェラリーが不思議そうに自分のスティレットを見つめる。

フェラリーの髪はレイラのワインレッドとは違い、マゼンタのような鮮やかな赤だ。

ピンクのリボンはフェラリーのイメージにぴったりだと思った。

「フェラリーに似合うかと思って」

フェラリーは俺の顔を見ながら呆けていたが、すぐに満面の笑顔になり、

「あ、ありがとう!大切にするね!」

スティレットを胸に両手で抱え、フェラリーは踵を返して走って行った。

武器にリボンって変か?

・・・誰か俺を「正しい」と言ってくれ。

間違っているなら、どうすればよかったのか教えてくれ。

俺には敷居が高すぎる。


レイラはもっとめんどくさかった。

何しろ絶対に目を合わせない。

正面に立って話をしていても、顔は横を向いたままだ。

よっぽど俺の胸で泣いたことが恥ずかしいらしい。


俺が模擬戦で倒れて、擦り傷で血が滲んだことがあった。

すぐに俺のところに駆け寄ってくるのだが、顔はそっぽを向けたままタオルを俺に突き出して、

「血が出てる。洗ってきなさい」

と顔を真っ赤にしながら、ぼそっと言った。

傷口を洗って、渡されたタオルで拭いた後、レイラに、

「ありがとう」

と言ったら、

「べ、別に大したことないんだからね!」

と言って、走って逃げてしまった。


あまりにも露骨に顔を背けながらレイラが話をするので、

「人と話をするときには、ちゃんと相手の目を見なさい」

と強引にレイラの顔を両手で持って、至近距離で正面を向かせた。

チューしてやろうか?

ふざけて目を閉じて、口を突き出してやった。

「は、離せ!バカ!不潔!変態!」

と俺の手を強引に払いのけて、顔を真っ赤にして俺を罵りながら逃げて行った。

・・・デキの悪いツンデレか?!

今度レイラが狩りから帰ってきたら、甘い果実水でも持って出迎えてやろう。

娘を二人持ったみたいだ。


なかなか二人と以前のように自然に接しられない。

どうしたものかと悩んでいた、ある日の夕方のことだった。

これから食事だというところで孤児院の外から騒がしい声が聞こえた。

見張り番をしていた男と誰かが騒いでいるようだった。

「誰か来たんでしょうか?」

クレアが孤児院の外の様子を窺いに出て行った。

「まあ!ずいぶんと久しぶりに!」

クレアまで騒いでいる?

「さあ、中に入って!」

お客さんでも来たのかな?

子供たちも状況がつかめずに、お互いを見合わせたり首を傾げたりしている。

中に入ってきたのは・・・

「よおぅ、みんな元気か?」

3年前に村を出て行ったリディだった。


リディは30歳ぐらいの鎧をつけた茶髪の女性といっしょだった。

俺はこの女性を知っている。

いや、覚えている。

「ヘレンも、久しぶりですね」

クレアがヘレンと呼ぶ女性は、リディにドラゴンスレイヤーを渡した騎士だ。

いっしょに行動してるのか。

リディは勇者を目指す旅の相棒として、ヘレンを選んだのだろう。


リディは18歳、くすんだ金髪を長く伸ばし、首の後ろで縛っている。

身長は190㎝ぐらいになり、イケメンだ。

・・・ずるい。

俺の嫉妬の視線に気が付いたのか、リディは俺の方を見ながら言った。

「ケインも・・・久しぶりだな」

笑顔である。

俺の嫉妬などどこ吹く風、と言わんばかりのさわやかなイケメンぶりだった。

リディは俺の頭をわしゃわしゃしながら、

「ちゃんと修行してるか?」

と笑顔を向けている。

「リディ兄ちゃんこそ、ちゃんと強くなってるんだろうな?」

俺は強がって言った。

「勝負するか?」

リディの挑発に、

「望むところだ」

と、俺は右拳を突き出した。

「よし、明日お前がどれくらい強くなったか、相手してやる」


俺とリディがじゃれあっていると、フェラリーとレイラが割り込んできた。

フェラリーが、

「旅の話とか珍しいもののお話を聞かせて」

とリディの右手を引っ張り、レイラは、

「ワタシとも勝負してよ!」

とリディの左手を引っ張る。

文字通りの両手に花だな。


「さあ、いつまでも騒いでないで、食事にしましょう」

ワーッとみんなが席に着く。

もちろんリディもヘレンもいっしょだ。

リディの両隣りにはフェラリーとレイラが座った。

ようやく二人から解放されたか。


・・・さびしくなんかないんだからね!




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