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魔獣

この村で最初の魔獣、兎の魔獣を討伐してから季節が変わろうとしていた。

あれ以来、魔獣を見つけたという報告はない。

俺も時間停止をして周辺の偵察をしていたが、特に何も異変らしきものは見つけられなかった。

俺の場合、そもそも索敵能力もない上に時間停止をしているから森の動物すらほとんど見つけられない。

もっとも8年でようやく1体の兎の魔獣が出現したぐらいなのだから、2体目3体目が次々と出現したのでは、この村はとっくになくなっている。

そう村人が油断しだした頃だった。

「ま、魔獣が出た!!」

狩りに出ていた一人の若者が叫びながら村に戻ってきた。

最近孤児院から卒業した15歳の少年で、腕にケガをしている。

村長やクレアがすぐに駆けつけ、クレアが治癒魔法を少年にかけた。

「”我は力を行使する この者の体の力に呼応し この者の傷を癒すべし”

・・・ヒーリング!」

クレアが少年の傷口に両手をかざすと、淡い薄緑の光が患部を包んだ。

腕のケガを直してもらった少年が、魔獣のことを村長とクレアに説明した。


場所は村の北側の森の奥地。

今日はなぜか獲物が少ないということで、いつもより奥地まで狩りに出た。

手ごろな鹿を見つけたので皆で仕留めようとしたところ、多数の猿に囲まれてしまったのだという。

獲物が被ったのかと思い鹿を諦めて移動したのだが、多数の猿は木々の上から狩りのメンバーを囲うようについてきた。

いままでこのような行動をする猿の群れには出会ったことがなく、狩りのメンバーと戦闘メンバー合わせて10人がひとかたまりになって猿たちを警戒した。

すると森の奥地から猿の魔獣が現れたのだという。

すぐに狩りのリーダーは、足の速いこの少年に村に危険を知らせるように命令した。

少年は猿の包囲網を突破する際に攻撃を受けたが、仲間が弓矢で援護してくれたおかげで何とか村まで戻ってこれたのだそうだ。

レイラは戦闘メンバーとして、猿の魔獣たちと戦っているはずだ。

おそらくボス猿が魔獣化して、猿たちを率いているのだろう。

猿の魔獣の大きさは人間の倍ぐらいというから3mほどか。

デカくて速そうで危険そうだな。

すぐにでもレイラの加勢に向かいたい。


村長とクレアが相談している。

実質的な村長はクレアなんじゃないか?

「子供たちと戦えない者は集会所に全員避難。戦えるものの半分は集会所の護衛。あとの半分は私と一緒に出ますよ。すぐに準備をはじめて」

そう言ってクレアは砂時計を懐から出して逆さに置いた。

砂時計が落ち切る前に準備を整えろ、という意味だ。

俺たち子供たちと女たちの大半が集会所の中に入っていった。

男たちは剣や革鎧の装備をしに散って行った。

フェラリーが俺の腕にしがみついてきた。

不安そうに「レイラ・・・大丈夫かな・・・」と呟いたので、俺はフェラリーの頭を撫でながら「レイラは強いから、大丈夫!」と力強く言った。

フェラリーにしがみつかれて嬉しいのだが、今は早く一人になりたい。

かといって今にも泣きそうなフェラリーを放ってはおけないし。

しがみつかれている状態でも時間停止はできる。

でも全く同じところに戻らないと、フェラリーの腕の中で俺が消えることになる。

どうする?

いや、レイラの命と俺のスキルバレとどっちが大切なんだ?

とにかく様子だけでも見に行こう。

今は武器も持ってないし、状況だけ確認してから戻ってこよう。

(止まれ)

俺はスキルを発動させた。


村の北側の森を木々を通過しながら飛んで行った。

やっぱり飛ぶと早いな。

物音が一切しないから、どのあたりだか全然わからない。

散々迷ってようやく見つけた。


開けている場所ではない。

むしろ木々が密集しているので動きにくそうだ。

狩りと戦闘のメンバー9人は弓矢を持つ狩り組の3人を中央にして、その周囲で剣を持つ6人が猿たちの攻撃に備えている。

レイラもいた。

レイラには傷は無さそうだ。

何人かの肩に傷があるが、重傷者はいないようだ。

木々の上には猿たちがいて、歯をむき出しにして威嚇しているようだった。

20匹、いやもっといるようだ。

攻撃に移ったのか空を飛んでいる猿も見える。

ボスの猿魔獣はどこだ?

・・・いた。

レイラの視線の先、10mほど離れたところにいる。

でけえ・・・

3mはある細長い巨体。

猿と言うより縦に引き伸ばしたゴリラだぞ。

これの子供だと思われたのか、俺は?

似てねえじゃねえか!

猿魔獣は手が異様に長く2mは楽にありそうだった。

剣のように長く尖った爪、下あごが張り出て長い牙が2本見える。

赤目でレイラを凝視していた。

この中で一番魔力が高そうなレイラに目を付けたのか。

やばいな。

ボス猿もそうだが、周囲の猿が厄介だ。

20匹以上いるので一人が2匹を相手にしても手が足りない。

猿たちは木の上からヒット&ウェイで攻撃するようだ。

しかも素早い。

猿だけなら攻撃力も低く、一撃で瀕死になることはなさそうだから各個撃破で問題はないのだが、猿に気を取られているとボス猿が突っ込んできそうだ。

魔獣なので魔法を使うかもしれないし、どんなスキルを持つかも不明だ。

何せスキルは個体ごとに違うことが多い。

種族によってある程度は決まっているところもあるが、スキルに関してはわからないことが多すぎる。

初見殺しのスキルなど山ほどある。

俺か。


危険な状況だが、1秒を争うほどではなさそうだ。

戻ってしっかり装備をしよう。

俺は一度真上に高く飛び森の上に出てから、周囲を確認する。

すぐに戻れるように景色を覚え目印を記憶する。

多少迷ったところで時間停止中なのだから、大勢に影響はない。

ただ迷うとどうしても精神的に焦るというかよろしくない。

心身とも万全の状態でいたいのだ。


村に戻りフェラリーにしがみつかれている俺を見つけた。

フェラリーは相変わらず美少女だ。

泣き出しそうな顔もまたかわいい。

・・・見とれてないで、さっさと元に戻ろう。

自分の体に重ね合わせて(動け)

人々のざわめきが突然復活する。


泣き出しそうなフェラリーを見ると・・・あれ?怒ってる?

「・・・ケイン、何でニヤついてるの!レイラが心配じゃないの?!」

やべ・・・さっきまでフェラリーに見とれてたせいだ。

レイラは心配だが、間に合う自信はある。

ボス猿はまだ様子見状態で、10分は持ちこたえるだろう。

「大丈夫。俺に任せときな」

「・・・ケインに何ができるの?」

あ、思わず本音が出てしまった。

「と、とにかく孤児院の中に入ろう」

俺はフェラリーを引きずるように集会所の中に入っていった。


「フェラリー、ちょっとごめんよ。何があってもいいように着替えてくるから」

腕にしがみついているフェラリーを無理矢理剥がし、俺は寝室へと向かった。

集団生活の孤児院だが子供が減ったおかげで、寝室は個室になっていた。

俺は雨用の黒い外套を纏い、護身用のスティレットを手に持った。

スティレットとは刃の無い刺突専用の短剣である。

刃の横断面は三角で全長は30㎝ほどで携帯しやすい。

外套は返り血を防ぎ、万が一姿を見られても顔までは見られないように身に着けた。

今回の戦いでは小回りの利くスティレットの方が使いやすい。

・・・暗殺者だな。


チャラチャ~、チャッチャッチャッチャ~ラチャラチャ~チャラララ~♪

頭にトランペットのBGMが鳴り響く。

気分は必殺仕〇人だ。




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