表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/81

予兆

この世界のお日様には「お日様」という名前しかない。

太陽ではないが、つい太陽と言いたくなる。

月は「お月様」で二つ大きいのと小さいのがある。

小さいのが日本で見る月よりちょっと小さいかなぐらいで、大きいのはちょっと大きいぐらい。

でも年に何度か二つが近いこともあって大きさの違いがわかる。

天文学はようわからんので、異世界だからなのか、ここがどこか遠い星なのかも定かではない。

とにかく夜に星空を見上げて、月が二つあると「ここは異世界なんだな」と実感する。


1年の長さはこの世界のどこでも共通である。

ほぼ400日ぐらい。

毎年違うらしい。

四季があり、名前はそれぞれの国と地域で違うが、俺は日本の「春・夏・秋・冬」を使っている。

クリューガー村ではクリューガー王国時代の暦を使っているようだが、「一季二季三季四季」という呼び名なので、俺が勝手に使っている。

だんだんと村のみんなが俺の真似をして「春・夏・秋・冬」と言い出した。

もちろんみんな意味はわかってない。

そういえば俺も語源は知らない。

でも「一季」より「春」の方が情緒があるというか、しっくりくるんだよね。

1年の始まりでもある元日もそれぞれの国や地域で違う。

クリューガー王国の暦では春先が元日だ。


人の年齢は数え年で、生まれた年は0歳。

元日を迎えると1歳になる。

誕生日を基準としないのは、カレンダーが庶民には浸透していなくて月日が正確にわからないことと、孤児が多いことが理由だろう。


今日、クリューガー村は元日を迎えて、宴をしていた。

俺、8歳。

レイラ、13歳。

フェラリー、8歳。

クレア・・・30歳ぐらいにしか見えない。

本当はいくつなんだろう?

昔、飲み屋で「いくつに見える?」とお姉さんに聞かれて、ことごとく外した俺には女性の年齢はわからない。

もしもクレアに聞かれたら「27歳?」と答えておこう。

理由は経験則だ。

俺がイケメンだったら、こんなどうでもいいことを考えることはなかっただろう。


フェラリーは魔法を使えるようになっていた。

俺が転移した時に見た白装束の魔道士と、同じくらいの魔法をすでに放つ。

俺がヤ〇ルトなら、フェラリーはすでにドラム缶ぐらいの魔力は余裕でありそうだった。

絶世の美少女で、天性の魔法使い。

末は魔法少女確定だな。

王家は勇者の末裔を名乗ることから、優れた魔道士を輩出することが多いと聞く。

もうフェラリーは王家でいいや。

心の中で「姫」と呼ぶことにする。

姫のためなら~姫のためなら~

・・・サル顔の俺にピッタリじゃないか。


レイラは孤児院の子供たちのリーダーになっていた。

レイラより上の子供たちは、すでに孤児院を卒業し、大人として自立させられている。

リディが村を出て以降、村を出た子供たちはいない。

彼らは皆、大人としてクリューガー村で過ごしている。

この世界では15歳が大人としての一つの目安のようであった。

昔の日本も12~16歳で元服だったのだから、違和感はそれほどない。

大人の手が足りない世界では子供を早く大人にする必要がある。

それだけ大人が死にやすい危険な世界だという証拠であり、医療の未発達も意味していた。

53歳は爺さんだな。


レイラは13歳になってもおてんば娘のままであった。

大人に交じった模擬戦でもほとんど負けることもなく、フェラリーほどではないにしろ魔法も扱う。

狩りの主力であり、孤児院には住んでいるだけで子供たちといっしょに訓練することはない。

なのでレイラが俺離れしてるかというと、そうでもなかった。

村にいるときはほとんど俺の近くにいる。

何をするわけでもなく、当たり前のように隣にいる。

着替えも平気で俺の目の前でする。

いい加減に色気づけよ。

少しは恥じらいとかないのか?

困ったもんだ。


俺はというと、そこそこ強くなってはいるようだ。

それでもフェラリーを除く村の子供たちの中で一番弱かった。

何しろ俺とフェラリーがこの孤児院での最年少に変わりがないからである。

この村には夫婦が住んでいない。

村の若者同士がめでたく結ばれ、夫婦になるとこの村を出ていくのだ。

夫婦になると村を出なければいけない掟でもあるのだろうか。

村の建屋も簡素で、この地にずっと根付いていくというつもりは無さそうだ。

今や子供は9人。

村人全員でも50人ぐらいである。

これって子供を育てるだけの村なんじゃなかろうか?

というよりはフェラリーを育てるだけの村。

そう考えるとしっくりくるんだよな。

いつかフェラリーを旗頭にクリューガー王国の再興に立ち上がる、なんてこともありそうだ。

そのとき俺は姫を守る騎士になろう。

・・・あれ?勇者は?

ま、いっか。

そのときになったら考えよう。

臨機応変という名の行き当たりばったり。

うん、俺らしい。


俺の魔力は若干上がっていた。

ヤ〇ルトからオ〇ナミンCぐらいにはなったかな。

俺の魔力は体力強化の方に使うことにした。

そういう方法をクレアの本から学んだのだ。

魔力を血液に溶け込ますイメージで筋力を上げる。

一種のドーピングにも似てる。

ただしデメリットも多い。

とにかく燃費が悪い。

俺の容量だと全身強化で3秒も持たない。

魔力の回復も魔素の濃さにもよるが、たっぷり1時間はかかる。

さらに翌日の筋肉痛もひどい。

8歳の子供の体には負担が大きかった。

メリットは呪文の必要がないことだ。

魔力を別のものに具現化させる必要がないので、触媒としての呪文も必要ないのだ。

まだ腕だけとか足だけなどの局所強化はできていないが、これも訓練していこう。

使いどころをうまくすれば実戦でも使えるはずだ。


スキルと魔法の違いについてもわかったことがある。

魔法は魔力を消費し、魔力がなければ使えない。

しかしスキルの方は特に何も消費しないし、単純にできることなのである。

獲得の仕方は様々だが、一度できるようになれば制限なく使うことができる。

う~ん・・・特技?

詳しく書かれている本は見当たらなかったが、伝説の勇者は何らかのスキルを持っていたようだ。

「絶対切断スキル」は何でも切断してしまうということだしな。

・・・欲しいな。

チートスキル三つ目は欲張り過ぎか。

獲得条件とか何を獲得するかは、まったくわかってないようだ。

俺だって何で二つもスキルを獲得できたんだか・・・謎だな。


狩りから帰ってきた村人が騒いでいた。

狩りの途中で魔獣に出会ったそうだ。

兎の魔獣だったようで、そこまで強くはなかったらしい。

おかげで、狩りのメンバーだけでも討伐できたということだ。

魔素が濃く溜まると、魔素が魔物を生み出すことがある。

魔素だけで魔物を生み出すには魔素の量と時間が必要になるらしいが、魔素溜まりに野生動物が遭遇した場合には、その動物をベースとした魔獣になってしまう。

昆虫が魔獣になることもあるようだ。

魔獣は生き物がベースになっているので元の生き物と同じものを食べるが、魔力もエネルギーとして必要となる。

魔力そのものは単体で自然に存在するものではなく、必然的に魔力を持つものを襲うようになる。

それはこの世界の人間だ。

この世界の人間は魔素の中で生きているので、どんな人間でも体内に魔力を有している。

人間の魔力というのは何世代も受け継がれているので質がいいらしい。

そのため魔獣は人間を襲う。

魔獣の発生の報告は、このクリューガー村のように小さな村だと壊滅の恐れもある重大事件である。

今回はたまたまベースが兎だから事なきを得たが、ベースが熊だったら、虎だったら、鷹だったら、魔獣の数が多かったら・・・危険が目の前に迫ってきていた。


翌日から狩りのメンバーの他に、魔獣が現れた時に備えて戦闘用のメンバーが追加された。

レイラは狩りのメンバーではなく、戦闘用のメンバー抜擢された。

確かにレイラはこの村でトップクラスに強い。

でもまだ13歳の女の子だ。

多分レイラは魔獣との戦闘は初めてのはずだ

兎の魔獣相手に何をしたかは本人から聞いていないが、レイラが何か活躍してたら嬉々として話している。

話さないということは何もしてないということだ。

心配だな。

何とかついていくことはできないだろうか。

・・・8歳じゃ無理だな。

村で一番弱いし。

まだ俺のスキルのことを村のみんなは知らない。

足手纏いにしか見えないだろう。


レイラが狩りについて出ている間は定期的に時間を停止して、様子を見に行こう。

スキルがバレたらバレたでしょうがない。

隠したままじゃ勇者にはなれないからな。

「勇者に おれはなる!!!!」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ