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君はセレナイト  作者: 梓蝶×菜ノ 風木
1/1



天幕の付いたベッドの上、王城の豪華で大きな窓から外を覗く

太陽の光が差し込み、部屋の床に六角形の輝きを映した

ドアノブが回されて部屋の扉が開かれる音がして甲冑を見に纏った騎士が一人現れる

其方を見遣ると柔らかな笑みを向けられた



「エリス様、外の空気を吸いましょう? 引き篭ってばかりだとお身体に障ります」


「フィン殿……本日はダン殿ではないのですね」


「あの者は所用が有ります故、私で御勘弁を」


「私は何も言っておりませんよ」



静かに手を取られて立ち上がるように言われる

大人しく従うと、ゆっくりと部屋から連れ出された

エリスの歩調に合わせて大庭園へと向かうと、すれ違う度にメイドや衛兵から頭を下げられ居心地の悪さを感じる

暖かいとは言い難い程の日光が降り注ぎ装飾の施された壁や、ステンドグラスが色鮮やかに輝きを持っている


この地は砂漠地帯という訳では無いが太陽光が強い特徴を持っていた

一部は砂漠化している所もあるが、緑豊かで作物も豊富に採れる恵まれた土地だと言える

大庭園には多種類の植物が彩りを持たせて目を楽しませた



「エリス様はその花がお好きなのですね」


「何故、そう思うのです」


「よく手に持たれて観察をしていらっしゃるのを見受けますので」


「……えぇ、私とそっくりの花ですから」



小さな黄色の花が付いた枝を自身の方へと引き寄せて香りを嗅いでいると、フィンが話し掛けてきた

エリスが何かに興味を抱いているのを感じて嬉しそうにしている

彼女は物欲も殆ど無く、綺麗なドレスや装飾品を贈ろうとも、美しく咲いた花束を贈ろうとも、その土地の特産品や美味だと言われている菓子や料理を食べさせようとも表情を全く変えずに無関心を貫いていた

そんな彼女がある小さな花に対して触れ、そして何時もと違う口調で話していることに喜びを感じていたのだ



「そっくり、ですか。それは見目でしょうか、それとも育つ過程や花言葉がでしょうか?」


「後者の方ですよ」



ひとつ、その花を枝から摘み取るとフィンへと差し出す

畏まった様子で花を受け取るとよく観察をし始めた

そこまで花言葉が有名な花ではなく、かと言って全く見た事のない花で他国から輸入されたような品でもない



「申し訳ありません。私では知識不足でした」


「……言いなりになる、ですよ」


「え? 言いなり、ですか」


「はい。私はあの方々の言いなりになるしか能の無い、操り人形(マリオネット)磁気人形(アンティークドール)ですから」



何の感情も映し出さぬその瞳を彼に向ける

今日は気温が高いのだろうか、単なる暑さによる汗なのか、彼女に見られた故の冷や汗なのか分からないものが背筋を流れた

指先が凍ってしまったかの様に動きが鈍くなり、ひゅっと唇から吐息が漏れる

どうしたら良いのかは分からない、けれど、エリスをこのままにしておいてはいけない気がしてフィンは彼女の許へと移動した

目線を合わせて跪き、じっと見詰めあった



「……貴方が初めてです」


「初めて、とは」


「この花を渡したのも、花言葉を教えたのも、私の事を話した事も全てが初めてです」


「ダンにも話しておられぬのですか?」



一度だけ首を縦に降って頷いた

高貴な家の出身であることは分かっているがエリスの性格も、今までの生活も、本質も理解出来ている人間などこの城には居ないと言っても過言ではない

そんな彼女の事を知ることが出来るきっかけになる話を僅かでも聞けたことに驚きを感じ、また、一番親しいと思われるダンという騎士にも話していない事を知れたことに優越感を感じた


この城に貴族の娘として送られてきたのならば、きっと彼女は王子の誰かに嫁がされることとなるのだろう

その事を考えると胸の内にもやもやとした違和感を感じた

必死に消そうと無心になり、悟らせないように彼女には笑顔を必死で取り繕う

それでも消えない、消せない、更に悪化する一方であった



「私がエリス様を支えましょう」


「意味が、分かりかねます」


「今は分からぬとも構いません。唯、私のこの言葉を覚えておいて頂きたく存じます」


「……努力致します」



エリスの両手を握り、紳士な瞳で見詰めた

彼女は無表情を貫きながらも何処となく不可解で不安げな様子を醸し出す

美しい庭園で独特の雰囲気を纏う二人を、ある三人が覗き見ていた


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