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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
篠崎勇羅の宝條学園事件簿
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39話・茉莉side



―同時刻・神在総合病院。


「茉莉さん。こんにちは」

「こんにちは奏ちゃん。久しぶり~」


体調を崩し入院している母を見舞う為、神在総合病院を訪れた茉莉と琳。琳がいつもの病棟へ母親の見舞いに行っている間、茉莉は一階の待ち合いロビーで休憩中の奏と世間話をしていた。


「茉莉さんと顔合わせるの二ヶ月ぶりですね。お元気そうで何よりです」

「そういや病院は何かあったの? 何だか皆そわそわしてるわね~」


病院の中に入った直後から、なんとなく疑問に思っていた事を茉莉はさらりと口に出す。異能力者故に場の空気を感じる力が強い所為もあるのか、奏を含めた看護師や患者達の雰囲気に、違和感を感じている。患者を含め病院内を通る周りの人達は不安げな表情で、何度も病院の外を見ているのだ。


「ここ数日の所。病院の外周りに数人の不審者が彷徨(うろつ)いてるんで、患者さんやお見舞いに来てる人達が心配で…」

「やだ、物騒ね」


神在総合病院は施設も充実してる分、警備も行き届いていて内部のセキュリティもかなり厳しい。そんな鉄壁の監視がなされているこの病院の中を、堂々と彷徨き回る場違いの不審者を見てみたいものだ。


「その件で上の人達もしばらくの間警備を強化しようか、って相談してるんです」

「不審者の特徴は」

「全員若い男の人。龍や薔薇の刺繍の施された学生服を着て、髪を金や茶色に染めていたり腕や腰には竜のチェーンを付けてました」


異質な刺繍を施された服を着た若い男のグループ。そんな改造学生服に、腕や腰に派手なチェーンを付けているなら尚更この場所では目立つし、ましてやここは病院だ。あらかさまに不良と分かる見た目の男達が用もなく複数で集まって居たら、それは周囲に不審がられてもおかしくない。


少し俯きながら考えていると、待ち合いの外から複数の男女らしき声が聞こえてくる。耳を立てると複数の男性の笑い声に対し、それとは真逆な女性の悲鳴じみた抗議の声だ。何かあると判断した茉莉と奏は、顔を見合せて頷き、周りの迷惑にならないように声のする方向へと早歩きで歩く。


「はっ、放してください!」

「なに言ってんだよ? 大体お前が俺達をこの場所へ誘って来たんだろ?」

「ふざけないでください! これ以上触らないでよっ! な、ちょ、どこ触ってんの!? ちょっと気持ち悪いったら!!」


奏と同年代の女性看護師に絡んでいるのは若い男達。看護師は絡んでくる男達へと、必死に抵抗しているが、彼女の周りには既に数人男の仲間が取り囲んでいて、女性単独で逃げるのは最早容易ではない。


巡回中の警備員が近くに居ない事。天井際の至る所に設置されている、監視カメラの配置が丁度死角に入っている事。看護師が絡まれている場所が、あまり人が通らない場所である事。連中はそれを全て計算して狙って事に及んだらしく、状況を察した茉莉は隣の奏に耳打ちする。


「奏ちゃん、すぐに警察に通報して。後婦長さんと院長」

「は、はいっ!」

「ん…奏?」


奏の名前を聞き、看護師を取り囲んでいる複数の男の内の一人が、端正な顔立ちに太めの眉をピクリと動かす。


「待てよ」


男の艶のある声が茉莉達の方へ響く。その声を合図に男達は看護師からあっという間に離れ、茉莉達の方へと集まって来る。


「お前が夕妬の言ってた奏か?」

「な、何ですか?」


男達の『何か』に気付いた茉莉は奏を庇うようにして、即座に男達の前に笑顔で立ちはだかる。茉莉の行動をすぐに察したのか、奏は男達の隙を突いて既に奏達の方へ駆け寄って来た看護師と共に、二人で婦長室の方へと走り出した。


「根性のある素敵なお兄さん達は、この私がお相手してあげるわよ」

「俺達、あんたみたいな年増に用はないんだよね~。行き遅れのオバサンは引っ込んでなよ」


『オバサン』の言葉に反応したのか、茉莉はこめかみをヒクつかせながらも笑顔を崩さず、即座に男の手首を力の限り掴み握り閉める。


「な、てっ、てめ! 何しやがる!?」

「お姉さん嬉しいわ~。年頃の女性の扱いを分かってないのはあなた達の方じゃなくて? 清純無垢なレディはもっと優しくエスコートしてあげないと~」


茉莉は笑顔を一片も崩さずに、男の手首を握りしめる腕に更に力を込める。茉莉の女性と思えない驚異的な握力に気を取られていた男達は、茉莉の背後後方へ走って行った奏達を追いかけようとするが、既に奏達の姿は見えなくなっていた。その奏達と交代するかの如く彼女の弟の響が、男の手首を強く握り続けている茉莉の前に現れる。


「これは…」

「あら響君。丁度良かったわ~」

「さっき其処で婦長室の所行く姉さん達に会った。病院内に複数の不審者がいるって。茉莉さんの所へ行ってやってくれって」


どうやら丁度良いタイミングで、響は逃げていた奏達と会ったようだ。


「く、くそっ! このアマ、さっさと手を放しやがれっ!」

「あら、ごめんなさい。すっかり忘れてたわ~」


茉莉は笑顔で男を見つめながら握り続けていた手首をぱっ、と放す。いきなり手を放された男は、今まで手を引き剥がそうとしていた反動で床へ倒れそうになる。


「お、おいっ。これ以上此処にいたら不味いぞ」

「くそ…わかってるよ」


男達は恨みがましい目を向けながら、この場が病院と言う事を気にも止めず、ダカダカと大きな足音を立てながら出口の方へ走り去って行った。


「全く。一体何だったのかしらね~」

「……あいつら」


顎に手をやりながら少しだけ首を傾げる茉莉に対し、響は男達が走り去った方向を険しい目付きで見つめている。


「響君。彼らに心当たりが」

「刺繍付けてますけど、学生服を見るかぎり全員東皇寺の連中です。宇都宮や生徒会が直接手を出せない場所は、基本的に彼らが行ってる。正直この神在まで手を伸ばすとは思いませんでした」


逃げた男達は皆、奏が話していた龍や薔薇の刺繍が施された学生服を着ていた。その改造学生服は響が今着ているものと同じ学生服。決定的に異なるのは制服をキッチリ纏っている響に対し、男達は原型を留めてない位に制服を着崩していた事。


「ウチの地区では悪い意味で相当噂になってます。地下グループ『聖龍』、と」

「……そう」


茉莉が顔を上げると、去った別の方向から母親との面会を終えた琳が、小走りでこちらへ向かって来ていた。



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