25話・勇羅side
「もしもし、忙しい所すみません。逢前先輩、今時間大丈夫ですか?」
『大丈夫だよ。今暇で、十分時間あるし』
食堂での鋼太朗との話において逢前響の事を思い出し、午後の授業が終わると同時に颯爽と自宅に帰宅した勇羅は、以前受け取った響のアドレスにメールを送り、数十分後に返って来た返信で電話の了承を受け取った後、こうして彼に電話を掛けている。
「東皇寺学園のアイドルって知ってます?」
『東皇寺のアイドル? ……知ってる、東皇寺学園一年の生徒会役員・宇都宮夕妬』
東皇寺学園の一年生・宇都宮夕妬。自分と同じ学年でありながら生徒会の役員を務め、京香が見合いを断った訳ありの相手だ。
「はい。ウチの学園の生徒が東皇寺学園一番のアイドルと付き合ってる、って噂が流れてるんです。もちろん、信じてませんが」
『……』
響は沈黙している。東皇寺の少年アイドルに対して、何か心当たりがありそうだ。
「先輩?」
『いや、ごめん。ちょっと考え事してた』
「何か知ってるんですね」
『うん。あいつの事だからやっぱりな、って思って』
やっぱりとは何なんだろう。一体夕妬と言う人物は学園で何をしているのだろうか。
「あの。もし先輩が良ければ知ってる事だけでも構わないんで、教えて下さい」
『そうだな、僕が知ってる所までなら。……宇都宮の奴、自分が目を付けた女子生徒は何が何でも奪う。どんな手段使ってでも』
どんな手段を使ってでも奪う。京香が電話で言っていた発言と、今の響の証言はほぼ一致していた。
『あいつに落とされた女子、学校内じゃ半分以上いってるな。当然宇都宮は同級生上級生問わず男子から反感買いまくってるけど、正直二年三年含めて誰もあいつに口出し出来ない。些細な理由でも安易に宇都宮に喧嘩売った奴は、初めから存在消されたかの様に学園から居なくなった』
東皇寺学園生徒会…いや、宇都宮夕妬に刃向かった生徒は、一片の情けなく壊され消される。こんな事が響達の間近で起こっているのか。
「嘘ぉ…」
『宝條通ってる君からすれば、にわかに信じられない話だろうけど、実際にこの出来事がウチの学園内で起きてる。首筋に何かの痣みたいなもの付けて『自分は宇都宮君の物なんだ』と言った証拠を、堂々と見せびらかしてたクラスメイトの女子もいたし、あり得ない』
あまりにも異常過ぎる。何より今の響の話を聞いて、例のサイトの深い闇がますます信憑性を増してきている。
「だ、誰も逆らえないん…ですか?」
『そこまでは分からない。僕が知る限り宇都宮に反発した生徒は、全員学校から消えた。彼の秘密を探ろうとした生徒も、男子女子問わずあっと言う間に、宇都宮夕妬の支配下に置かれた』
これは響が語れる範囲の、東皇寺で起きている学園内の出来事なのだろう。
「学園の先生達は?」
『…残念だけど、通常の授業以外ではまともに機能してない。生徒会が好き勝手してるのが災いして、間下の生徒ですらも抑えられない状況だしね』
泪の言う通りだ。教師や委員会が生徒一人をどうこうする事が出来ないなんて、東皇寺学園自体がおかしすぎる。
『さっき篠崎君が言ってた、宇都宮が宝條に興味を向けてる。って事はそっちの学園で何かあったの?』
「東皇寺の掲示板…実は俺達あの掲示板、見ちゃったんです。『東皇寺の聖域』。それを見たすぐ後に変なメールが届いて…『全ては聖域の思うまま』って書かれてあったんですが」
響はメールの内容に思い当たる事があったのか、少しの沈黙の後再び話し出す。
『…奴らの常套手段だ。気に入らない生徒を排除する為に外部から周到に罠を張って、少しずつ目を付けた生徒を追い込んで行く。精神的にじわじわ追い詰めてくのが、何ともあいつらしいよ』
やはり東皇寺生徒会の私欲だったのか。しかし聞けば聞く程、響はやたらこの手のやり口に詳しい。
「あの…失礼な事聞きますけど、この手の件かなり詳しいんですね」
『……知り合いがこの手の対策に詳しいんだ。色々教えてもらってるし、実際僕の方も助かってる』
対策に詳しい知り合いがいたのなら納得。法的な事もあるし弁護士とかの職についている人なのだろう。
『もっと詳しい話だったら、明日姉さんに聞いてみようか。神在市の総合病院で今は研修生として勤務してる。姉さんの看護学部、東皇寺生徒の親が管轄してる疑惑がある』
東皇寺学園の連中は、何処まで宝條学園に侵食する気なんだろう。嫌な想像を浮かべてしまうが、彼らは神在市すらも自分達の『聖域』として侵食するのだろうか。




