21話・勇羅side
―篠崎家リビング。
『大体の事情はわかった…。けどこれじゃ、お兄ちゃんが勇羅君に義姉さん任せた意味ないじゃないの』
「…酷いや京香姉ちゃん」
夕方。自宅に帰った勇羅は、和真の妹で同じ学園に通う水海京香と携帯で連絡を取り合っていた。これまでの一連の経緯を全て京香に話した所、勇羅が予想していた通りの反応が返って来た。
『でも、幸い義姉さんにはばれてないんでしょ?』
「まぁ…うん。姉ちゃんにバレても、絶対に和真兄ちゃんの私情による介入あるから、タダ事じゃ済まされないし」
普段は自分のやりたい事に真っ直ぐでも、自分の姉砂織の前ではバカップル全開の和真だ。自分にとっては能天気で腐女子で阿呆な姉でも、和真にとっての砂織は物心つく頃からの幼なじみで、大事な恋人でもある彼女に危害を加えられたとなると、それは確実に全力で対象を潰す。
勇羅から見る和真兄ちゃんは間違いなく、己の全権力を行使してでも目の前に立ちはだかる障害を潰す。絶対に潰す。
『でも、東皇寺の聖域かぁ…私、ちょっと心当たりあるかも』
「えっ」
例の聖域に心当たりがあると話す京香が意外な家の名前を出し始めた。
『宇都宮って知ってる? 財界でそれなりに有名な家系なんだけど、その東皇寺学園に宇都宮一族分家の息子が通ってるの』
宇都宮一族? テレビの方は余り見ないのでよく知らないが、確かネット上では何かと悪い意味で噂に上がっている家だった。
「宇都宮家って良い噂聞かないんじゃなかったけ? 何だか裏社会とかと色々繋がりを持ってるとかなんとかってさ」
『……実は半分正解。東皇寺学園は私立校だけど、周りの噂を気にしてサイト自体運営してないし、学園側は殆ど関与してないと思える。そうだとしたら例の掲示板、多分宇都宮家が運営してるんじゃないかって思う』
東皇寺学園は学園では直接サイトの運営をしていない。検索してもなかなか見つからない事に辻褄がいった。気味が悪く不愉快なホームページを宇都宮家が、学園の名前を語って運営している。悪い噂が絶えず流れてるならば、あり得ない事もない。
『私。前に東皇寺に通ってる宇都宮の息子を、見合い相手に紹介されたー…って、言うか向こう側のお偉いさんが無理矢理紹介して来たの』
京香が宇都宮分家の息子とお見合い? 自他共に認める勝ち気な京香が、良いとこのお坊ちゃんとお見合いをするなんて、あまり想像が付かなかった。
「結果は」
『…当たり前の事聞かないで。速攻断った』
携帯の向こうから溜め息の混じった声色に、速攻お断りとは何とも京香らしい返答。この当たり流石は猪突猛進の和真と、血の繋がった兄妹だなと感じる。
『その息子と顔合わせた時、目を見ただけで分かった。『あいつは人を何とも思ってない、人を人して見ていない』って』
宇都宮分家の息子はまさに京香が嫌うタイプの男。いくら容姿が良くても人を人とも思わない男など、京香から見れば頑としてお断りだろう。
「そのお断りした相手の名前は」
『……宇都宮夕妬。東皇寺学園一年生徒会役員で、次期生徒会長候補』
「ちょっと待って、一年で生徒会役員? 普通一年生が生徒会に入るなんてあり得ないよ」
宝條の生徒会役員は二年と三年が中心で一年は一人もいない。非能力者だけでなく異能力者含めた、大勢の生徒を纏めなければいけないので、とにかく生半可な覚悟では、宝條の生徒会役員は務まらない。
会長や副会長などの重要部分は除く、役員だけなら立候補なしでも入れる。ただし熱意や好奇心・生徒会と言う名前の肩書きだけで生徒会に入った生徒は、生徒会の膨大な仕事量に根を上げ、一週間も経たずに生徒会から去っている。
『まぁ、信じられないでしょう。私はきっぱりと見合いを断ったのに、向こうは未練がましく興味無い事ばかりペラペラ話してさー。あんな安っぽい笑顔で女が落ちるとでも思ったのかしらね』
安っぽい笑顔とは、ありきたりな今の少女漫画にあるベタベタな口説き文句と一緒に、ドヤ顔を放つようなものか。どんな笑顔なのか安易に想像できる。水海兄妹の両親は当初、自分達の結婚を双方の家族に反対されていたと聞く。お互い愛し合っている二人は、冷戦状態に陥っている両親を納得させる為に、駆け落ち同然で強引に籍を入れ結婚した。
籍を入れた直後に生まれたのが和真さん。まさかのデキ婚。ただ子どもが生まれた事で父方の家族が折れ、初孫と言う事で母方の家族も折れ、結果的には家族と和解する形になったそう。自分の両親見たいな駆け落ち恋愛に憧れている京香にとって、宇都宮の息子などドブ川に流れている小石なのだろうと勇羅は思った。
『…っと、いけない話がずれちゃった。でも私の方もお兄ちゃんに相談してみるわ。あの強欲な一族の事だから、最悪義姉さんの方にも危害が行きかねないし』
「ありがとう、こっちも色々話してすっきりした」
『くれぐれも気をつけてね、相手は表でも裏でも訳ありの宇都宮一族よ。自分達が興味持ったものは、どんな汚い事使ってでも手に入れる。事件が解決するまでは絶対に気を抜かないで』
「わかった」




