20話・伊遠side
―サンクチュアリ日本支部・伊遠の研究室。
「聖域を語ってる連中が居るだぁ?」
『ええそう…。単純にウチを知らないだけなら良かったんだけど、異能力者の情報が至る所で検閲されてるのを逆手に取って利用してるのか、組織の名前を使ってる裏掲示板があって、其処で色々好き放題してる命知らずが居るの』
電話の話し相手は当然の事ながら茉莉だ。普段はメールでのやり取りを好む伊遠だが、茉莉の方が『聖域』の事で話があると、元々少ない友人とのやり取りで使用している自分の携帯から、直接相談を持ちかけて来た。彼女が持ち掛けて来た話と言うのは、茉莉が保険教諭として勤めている学園の生徒達が、『聖域』と名乗る他校の生徒から目を付けられていると言った内容。今の所相手側に大きな動きも無いものの、目を付けられた生徒の中には自分の身内もいるらしい。
茉莉に『聖域』が運営していると言う例のホームページを教えて貰うと、中身は何とまぁ。自分が組織として所属している【聖域】からは、まるで程遠いやりたい放題の無法地帯。
人を人とも思わない、実名による誹謗中傷の数々は勿論だが、過去に異能力研究所実験台経験者の伊遠ですら、顔を背けたくなるレベルのグロテスクな画像が、『聖域』サイトの至るところに飛び交っていた。
「……勝手に【聖域】を名乗ってる犯人は?」
『ウチの生徒が調べてくれたから大方察しが付いてる。あそこの学園都市区域、異能力者の迫害頭二つ以上飛び抜けて酷いでしょ』
例の学園都市か、しかも【聖域】マーク済の問題校・東皇寺学園と来た。所詮政府の暗部を知らぬ命知らずの成金集団の集まりに過ぎない。伊遠は胸糞の悪いサイトを一通り確認した後、茉莉から更に詳しい経緯を聞く。
『聖域』の連中は自分達が気に入らない相手であれば、異能力者だけでなく非能力者すらも『壊している』らしく、中でも目にすら通したくない凄惨な画像は女性の被害者が多数を締めていた。茉莉の話だと自分達の周りに直接的な被害が出ない内に、カタを着けたいそうだ。
「その方が良いな。サイトの内容通りだとすると、語ってる連中は異能力者だけじゃなくて、非能力者まで食い物にしてやがる。正直このサイト、見てるだけで胸糞悪い」
『…異能力者関連の情報は、『非能力者側が有利かつ異能力者側が不利な場合を除いて』徹底して検閲されてるから、逆にやりたい放題だったんでしょうね』
「ガキ共が…。所詮連中が国家権力と繋がりのある組織名乗り出した時点で、詰み確定なんだよ」
『い、伊遠ちゃん…貴方まさか』
「問題ないって、直接被害が出ない内に『聖域』の連中だけ潰せば良いんだろ? 上手くやるさ」
電話越しの茉莉の声は心なしか引きつっている。伊遠が何か企んでる事を電話越しに感じたのだろう。茉莉との電話を終えた後、伊遠のボックスには一通のメールが届く。
そのメールの宛名はまぎれもなく『聖域』のものだった。話を聞いた時点で喧嘩を買う気満々だった為、躊躇いなくメールを開封する。
『To:聖域へようこそ
文:はじめまして、傍観者さん。君達の事は遥かなる高みを通じて全て知っているから、何をどう足掻こうとしても全ては無駄に終わる。全ての事柄は僕達が更なる高みを目指す聖域の思うままに動く。
この聖域は僕達が支配者、僕達が全て、僕達が永遠を与えられる存在。君の大切な人もいずれ僕達の美しい聖域に招待してあげる…きっと彼女も喜んでくれるよ。
by.聖域の支配者』
メールの内容を見た伊遠は凄まじい形相で画面を睨み付け、これ程とない低い声で呟く。
「………【本物の聖域】の恐ろしさ。思い知らせてやるよ」




