19話・勇羅side
-宝條学園・一年C組。
翌朝。結局勇羅は昨日の宛名不明メールの件で一睡も出来なかった。不気味なメールは勇羅が画像ブラウザを閲覧した途端に送られてきたのだ。何故メールの送り主は自分達の事を知っている?
東皇寺学園の生徒には一片足りとも、個人情報など漏らして居ない。昨日会った響先輩は掲示板の事を話すとあらかさまに表情が曇っていたし、紙に書いた自分のアドレスを直接渡してきたからほぼシロに近い。
もう一つ気になったのは、メールに探偵部部長である泪の名前が入っていなかった事。後は万里が東皇寺学園の彩佳先輩に茉莉のアドレスを渡したが、送られてきたメールには宝條学園教諭である茉莉の名前もない。東皇寺学園の連中は二人の存在をまだ知らない、と言う事になる。
「おっはよー勇羅……って! ちょ、どうしたのその酷いクマっ!?」
C組教室の自分の席で色々考えていると、いつの間にか近くの席の瑠奈が声を掛けて来た。余りの勇羅の顔つきの惨状に、瑠奈は思わず目を丸くする。
「あ、あはは、ちょっと考え事を……ねー。そうだ、そっちの彩佳さんの方は上手くいってる?」
「こっちの方は何とか。泪先輩から聞いたんだけど、雪彦先輩達と東皇寺学園に行ったんだって?」
瑠奈は泪を『お兄ちゃん』と呼んでいるが、学園では泪の事を先輩呼びしている。詳しい事情は知らないが、何でも泪とは昔からの顔馴染みなのだと言ってる。とはいえ自分の今の深刻な状況を、瑠奈達に話せばどうなるのか。既に自分達だけでなく瑠奈達まで目を掛けられ始めている。しかも二人に対して連中がよからぬ事を考えてるのは、メールの内容を見て直ぐに理解した。
「……あ、あのさ? 誰かに監視されるって、凄く気分悪いよね」
「監視? それで結局。東皇寺学園で何があったの?」
「ちょっと、ここじゃ話づらいから放課後部室で。出来れば琳ちゃんも呼んで」
「?…わかった」
幸い泪と茉莉の素性はばれていない。それに自分は泪のもう一つのアドレスに連絡が取れる。もし泪のアドレスがバレても、泪のもう一つのアドレスに連絡を取り合えれば良いのだから。
―放課後・探偵部部室。
「しっ……し、し、し………信じられない、っ!!」
「……」
一連の事情を話せば、勇羅の予想通りに返って来る泪と茉莉の反応。泪は何とも言えない表情で勇羅を見つめ、茉莉に至っては悲鳴に近い声をあげ顔面蒼白になっている。部室には予め全員に集まって貰った。
昨日自分に届いた『聖域』のメールを見て貰わなければいけないからだ。部員全員で勇羅に届いたメールを一通り見た後、何故か雪彦が意外な反応をした。
「……その、勇羅ちゃんに届いた聖域のメール。僕と万里の所には来てないよ」
「えっ?」
てっきり雪彦達の所にも、自分の様な怪しげなメールが来ていると思っていた。
「あっ……貴方達も聖域のサイト見たんでしょう?」
「は、はい。僕の方は一人でサイト見てる途中、父さんや母さんに見つかって…。すぐ後に一緒に閲覧して『通報した方が良い』って、話になったから」
そう言えば雪彦の方は途中で両親の介入が合ったと聞いた。しかも下手に雪彦に手出ししたら、雪彦の立場からして相手側が火傷しかねない。
「万里先輩は?」
「私も雪彦と同じく途中で親に見られた。それ以上に……あのサイトは見ているだけで、吐き気を催して気持ち悪い。まさに人類全体への冒涜に値する」
どうやら万里も家族に見つかったようだ。更に自他共に変わり者と言われている万里から、堂々と聖域サイトは『吐き気を催して気持ち悪い』発言。だが両親に見つかった雪彦と万里にはメールが届かず、一人で聖域を閲覧した勇羅だけがメールを送られた。
「何だかおかしくない? 勇羅にだけメールが来て、雪彦先輩と万里先輩には来てないなんて」
「そうね、少し考えれば変だわ。メールには雪彦ちゃん達の名前も書いてあるし、ご丁寧に『委員会を通じて知っている』って書いてあるのに、肝心の二人にはそのメールが来てないなんて…」
「ユウ君。和真先輩達には?」
「…まだ言ってない。昨日いきなり送られて来たから滅茶苦茶動揺してたし、怖くて言えなかった」
姉達にも迷惑を掛ける訳に行かず、実際に昨日は実際大学から帰って来た姉・砂織にも、メールの件を言う事が出来なかったのが正しい。
「この件。いくつか穴がありそうね」
「僕と万里の方はもう一度母さん達と話し合ってみる。ウチ権力争いには馴れてるから」
「弱肉強食の争いは任せてくれ」
雪彦や万里は流石に学園間レベルの争いになると、冷静に対応している。結局パニックを起こしているのは自分だけか、と勇羅は内心情けなくなる。
「私の方も東皇寺学園管轄の都市の委員会に報告入れておくわ。東皇寺学園自体、以前から何度も市内の委員会に報告されてる様だし、大騒ぎになるのも時間の問題かもね」




