12話・勇羅side
―…午後四時・東皇寺学園正門前。
「ここが東皇寺学園か…」
「学校の建物はごく普通。外観は宝條と余り変わらない」
翌日放課後。
勇羅・雪彦・万里の三人は東皇寺学園正門前に佇んでいた。ここへは泪達に黙って来ている。勇羅達の目的は当然、東皇寺学園内部の情報収集。ここに来る途中でもし泪にバレたら、良くて顧問の茉莉に報告されるか、最悪泪本人に無理やり連れ戻されるのがオチだ。
本来なら勇羅と雪彦二人だけで行くつもりだったが、待ち合わせ場所の神無駅前へ向かう途中、雪彦が学校の廊下で待ち伏せていた万里に捕まり、結局三人で東皇寺へやって来た。雪彦個人にしてみればトラブルメーカーに近い、万里の同行を許可したのは雪彦も万里なら問題ないと判断したのだろう。
「そうだね。建物見た感じは普通の学校なんだけどねぇ」
「外観だけじゃ、学校内で悪評が流れてる様には見えないよね」
宝條は初等部から中等部、高等部と多数の生徒が入り乱れている。宝條より建物の規模は小さいが学校らしい小綺麗な校舎、どうも悪い噂が流れている様には思えない。現在丁度下校時間もあってか、学園の正門からはぼちぼちと東皇寺学園の生徒達があちらこちらへ歩いている。
「君達、その制服…。宝條学園の制服だよね」
ぼんやりと正門を眺める勇羅達の前に居たのは一人の男子生徒、背は雪彦より少し低い位。水色の長い髪を、邪魔にならないようにポニーテールで纏めている。
「い、いつの間に!?」
「いや、さっきからずっと居たけど」
紺のブレザーからして男子生徒は東皇寺学園の生徒だ。勇羅達の白い制服が近隣で見慣れないものなのか、物珍しそうに眺めている。
「宝條の生徒以前に、他の学園の生徒がこの学園に来るのが珍しいし」
「え?」
男子生徒の口から出た他の学園の生徒は珍しいと言う発言。ふと周りをよく見ると、この場所は複数の学園が建ち並ぶ学園都市にも関わらず、東皇寺の周りには自分達以外に、他の学園の制服を着ている生徒は見ないし、何よりも先ほどから学園生徒自体の出入りも少なく感じる。
「何故だ。ウチの学園が珍獣扱いされてる」
「何て言ったら良いのかな…」
男子生徒は何だか答えに迷っているようだった。
「どういう事?」
「ウチの学園のネット掲示板見た事ある? もし見てるのならウチの学園がどんな事になってるのか、嫌でも分かる」
「その掲示板って、匿名の奴?」
「まぁ、そんな感じ。誰もかれも好き勝手なこと書いてある…し」
「あの。話しづらそうなら、無理に言わなくても良いですよ」
「ううん。こっちこそ」
男子生徒は申し訳なさそうに勇羅達に謝る。少しその男子生徒と話をした後、勇羅達と男子生徒は別れた。これ以上学園前で立ち往生しても、有益な情報は得られそうにないと判断し勇羅達も駅へ向かう。
「結局、東皇寺の危険な事件の事は聞きそびれてしまった」
「噂の事も詳しく分からなかったね」
「だけど、さっき話した学園の人。掲示板が何とか言ってたよ」
「一辺調べて見る? 東皇寺学園のネット掲示板」
東皇寺学園のネット掲示板に何かが隠されてある。男子生徒が学園の事を言いづらそうにしていた理由が、何か分かるかも知れない。
「ネット掲示板だから自分達で見れるんじゃない?」
「そうだね。見たら感想教えて」
「面白そうなスクープが取れたら、宝條の全校生徒に一斉にばらまいてやろう」
「流すな」
万里に突っ込みを入れながら歩く雪彦を尻目に、勇羅はなぜか本能的に嫌な予感を感じ取っていた。




