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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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137話・瑠奈side



「ちっ···」


愛姫親衛隊リーダー格とも呼べる男・晴が、小さく華奢な身体の愛姫を、両腕に抱き締めたまま地面に倒れている。晴が横に割って入らなければ、愛姫を仕留める事が出来た。時緖は愛姫達へ銃口を向けながら、忌々しげな表情で地面へ倒れた二人を睨みつけている。


「き···き···きっ······貴様ぁぁぁぁっ!!よくも愛しき姫を···よくも俺達の夏々乃を!!」


上半身だけを起こし、愛姫目掛けて銃を発砲した時緖へ、ヒステリックに怒鳴り始めた晴を始め、愛姫と晴の周りに親衛隊達が集まる。


「余所見してて良いのか?」


身体を震わせる愛姫を、過剰に心配する親衛隊達を他所に、あくまでも時緒は冷静だった。敵意と殺気全開で睨み付けてはいるものの、対象を仕留めそこねたからと言って取り乱したりしない。時緖は茫然とした表情で、自分の背後で立ち尽くす響達へ目線をやる。


「お前らは早く研究所へ行け。あのバカ共の相手は俺がする」

「だ、大丈夫ですか?」

「時間がないのはお前らも同じだろう。早い内に研究所へ向かわないと、連中も間に合わなくなるぞ」


奏でだけでなく泪達も救出するなら、急いだ方が良い。充が異能力者狩りとも繋がっている以上、時間の猶予もないのだ。瑠奈達も互いの顔を見合わせ、無言で頷くと。


「逃がすか異物共!!」


立ち上がり動き出そうとする晴へも、空かさず発砲する時緒。わざと狙いを外し、ただの威嚇として撃ったのだが、時緖の発砲に反応したのは晴でなく愛姫の方だった。


「きゃあぁっ! いやっ! こ、怖い···怖い······こ、こわい···です···っ」

「姫っ!!」

「駄目だ! 姫を恐がらせるな! 俺達が愛姫を守るんだ!!」


時緖の持つ銃を見ただけでも怯える愛姫。晴達は異能力者狩りに属しているにも関わらず、戦いの経験すら皆無。愛姫を過剰に甘やかす様は、お姫様ではなく人形扱いだ。


「早く行け!!」

「行こう」

「うん」


襲い掛かって来た、数人の親衛隊達と応戦する時緖。親衛隊と交戦する時緖を見ながらも、瑠奈達は全速力で駆け出して行った。



―午後九時半・神在郊外異能力研究所。



「時緖大丈夫かな」


時緖と別行動を取る事になった瑠奈達三人。ファントムでも有名な異能力者狩りブレイカーの内部分裂。ファントムでも畏怖されている実力派異能力者狩りならば、単独でも問題ないだろうが、響共々時緖もブレイカーを離反した以上、最早予断を許さない状況だ。


「あの取り乱しっぷりから見て、連中本当に実戦経験ないようだね」

「うん。僕の知ってる限りだと、あいつら愛姫の周りを取り囲んでるだけで、上に指示された任務にも一切出なかったよ」

「道理でファントムでも、要注意リストに載らなかった訳だ」

「自分から戦わない癖に、他人を取り込むのだけは上手いんだ。見た目と上っ面だけはいいからね。新入りの大半はあいつらに絆されて取り込まれたよ」


「いるいる。評価出来るのが見た目だけで、中身はとことん最悪。茉莉姉からの又聞きだけど、『真面目系クズ』だったっけ?」


とんでもない事をぶち撒ける瑠奈に、クリストフと響が苦笑いを浮かべる。


「僕は最初から時緒と組んでたから、取り込まれずに済んだよ。異能力者の知識も戦闘の基礎も、時緖から直々に技術叩き込まれた」

「ブレイカーも色々大変なんだね···」


晴を始めとした愛姫親衛隊は、ブレイカーの構成員も自分達の派閥に取り込んでいたらしい。響から聞いている限りだと、異能力者狩り組織の事情も複雑。


「さっきあいつら夏々乃って呼んで無かった?」

「愛姫が名前なのか、夏々乃が名前なのか···」


晴と言う男は愛姫を夏々乃と呼んでいたが、愛姫は役職名で夏々乃が本名なのだろうか。



「つか私、異能力研究所の中始めて見た···」



瑠奈が侵入した研究所の周囲を見回しながらの感想。昔、泪と会った時に異能力研究所の内部を見ているのだろうが、両親の意向で恐らく行動範囲も制限されていたのだろう。


「目的が目的だけに長居出来ないな。さっさと用事を済ませよう」


三人は周りを警戒しながら、潜めつつ廊下を歩きだす。泪やルシオラ達が捕らえられた研究所を守る、セキュリティシステムを破壊するのも、まずは奏を救助するのが先だ。奏の身の安全を確保しないと話にならない。


「奏さんの場所は?」

「研究所三階奥、幸い捕らえられてるのがこの場所で助かったよ。この研究所に捕縛されてる能力者は、まだ酷い扱いは受けてない」

「【暁】や海外の研究所に比べたら全然マシって奴か···」


響はメモ用紙の切れ端を見ながら、周囲を見回し足を進める。響のすぐ後ろに瑠奈とクリストフが続く。


「でも、どうして奏さんが異能力研究所に···? 先輩は異能力者狩りの事を、奏さんに隠してたんでしょう」


泪の話だと、響は唯一の肉親である奏にだけは、裏で異能力者狩りをしている事自体完全に隠していた。異能力者の事件に巻き込まれたものの、生活を送っている姉にだけは、心配を掛けさせたくなかったのだ。


「···玖苑充だ。どうも奴がブレイカー内の構成員を始め、僕や時緒の周りの情報を突き止めていた。勿論、自分へ牙を剥きそうな面子をピンポイントに狙い打ちしていた」


響にとって、裏の世界とは無縁の奏の存在は最大の弱点となってしまった。響の周りの情報を知った充によって、奏は人質にされた。


「時緒の知り合いも充に狙われたよ。しかもその知り合い、異能力事件の被害者である事が、完全に仇になった。知り合いの家族も充に言いくるめられて、その人は他の病院へ転院と言う名目で、今は行方不明。そっちの方は安否すら掴めてないらしい」

「···異能力者でもないただの人間を。いや、それ以前になんで充がブレイカーに」


クリストフの疑問も最もだ。異能力の事件に巻き込まれていると言え、異能力とは無関係の人間を、意図的に巻き添えにするなんて有り得ない。通路を歩きながら、響が苦悶の表情をしつつ口を開く。


「充は表の顔を使って色々と手を回している。議員秘書でもある自分の存在が、世間で広く認知されているのを活用して、色々な組織や機関とコンタクトを取ってたんだ。時緖の話だと、宇都宮家を通じてブレイカーの存在を知ったって」

「そんな···」


充とブレイカーの話をする内に三人は、ある扉の前に辿り着いていた。扉の前に着いたと同時に、響はなんの迷いもなく自身の間近人物の名を出した。



「姉さん。奏姉さん、そこにいるんでしょ! 姉さん!!」

『ひ、響···っ! そこにいるのは響なの!?』


扉越しから聞こえたのは、間違いなく奏の声だ。声の様子からすると幸い何もされておらず無事。


「よかった、奏さん無事だったぁ!」

『えっ! る、瑠奈ちゃんも居るの?』

「今ここを開けるから。ドアから離れて」

『わ、わかったわ』


部屋から少し足音がして、奏が扉から離れたのを確認すると。響とクリストフはお互いを無言で頷くと。トンファーと棒を力任せに扉へと叩き込み一気に破壊した。



「わーお···」



破壊された扉から現れたのは、間違いなく奏の姿。ほんの少しだけ顔がやつれているが、幸いにも何もされておらず無事だ。


「姉さん、何があったの?」

「私学校に向かう途中で、充って人に声を掛けられたのよ。ほら、朝や昼のワイドショーでも有名な議員秘書の玖苑充。インタビューしたいからお時間宜しいかって。学校もあるし急いでいるから断ろうとしたんだけど、その直後に意識をなくして······気がついたら此所にいたの」


どうやら充はインタビューを口実に、奏に近付いた。勿論奏の方は断ろうとしたようだが、相手はあの玖苑充。訳も分からず奏は気絶させられ、この研究所に連れてこられたらしい。奏自身も充の事はテレビで、噂程度にしか知らないようだった。


「···響、一つだけ聞かせて。あなたが裏で異能力者を、狩ってたって本当? あなたは死んだ父さんと母さんの、復讐の為に異能力者を殺していたって」

「······」


奏は充に聞かされたのだろう。幸いにも充の都合の良いように歪曲されず、響が異能力者を狩っていると言う事実だけを、伝えられていたことだ。


「か、奏さん。響先輩は···」


響は気まずそうに姉から顔を逸らす、響の代わりにと瑠奈が説明、奏は何かを思ったのか少しの沈黙の口を開く。


「···何も聞かないわ。目の前で父さんと母さんを、殺されたのを目撃して響が異能力者に怒りを感じない」

「あ···」


響は目の前で両親を失った。異能力者に対する感情は響本人にしか分からない。自分の見知った人間が、異能力者である事を知ってしまった。



「もういいんだ、姉さん。これが終わったら、僕の口から全部話す。時緒の彼女さんの転院の事は聞いてる? 何か知ってたら教えて」

「···ごめんなさい。連れられてすぐ、この部屋に入れられたから」



時緒の知り合いの居場所は、奏すらも知らされていない。瑠奈は携帯を取り出し、茉莉の番号を開くと携帯のスピーカーをオンにして、すぐに通話画面をスライドする。茉莉はすぐに出てくれた。


「もしもし、茉莉姉」

『瑠奈っ!! よかった、あなたも無事だったのね!』

「あなたも?」

『こっちが話せば長くなっちゃうわね。何があったのか先にあなたの方から教えて』


瑠奈はこれまでのいきさつを、自分の理解出来る範囲で茉莉に説明する。奏の救出と無事も伝えると、今度は茉莉が話し始める。


『大体の事情はわかったわ。こっちも昨日、玖苑充と交戦してうかつに身動き取れなくなっちゃったからね』

「はい? み、充と···交戦? あっ、あの、充と······?」

「ま···真宮先生って、何者?」


携帯越しから充との交戦した時の状況を、あっけらかんと語る茉莉に、クリストフや響は唖然としている。瑠奈も瑠奈で、あの玖苑充と交戦してよく生きていたものだと。


『んも~。私一人だったら、玖苑充相手にとっくにこの世にいないわよ。まぁ三間坂さんさえ邪魔しなければ、あいつが勝ってたわよね〜』

「み、三間坂が!?」


充に騙されている、まさか茉莉にも喧嘩を売るとは思わなかった。異能力者と言え仮にも茉莉は宝條学園の教員だ。クラスメイトから聞きかじった程度だが、翠恋の家庭は両親親族共に、特徴もない一般中流家庭。教師に危害を加えた時点で退学は免れない。



『あの娘。完全に玖苑充の甘言に乗せられたのね···。異能力者の事とか散々教えたのに信じられないわ』



現在の翠恋の状態を茉莉は呆れたように愚痴る。保健室の常連だと言うのは度々聞いていたが、最早翠恋も後戻り出来ない状況にいるのだ。


「今どこに? 琳や父さんと母さん達も、郊外に避難してるのは聞いたけど」

『大丈夫、琳もおば様達も無事よ。宝條や神在を始めとした、異能力者の受け入れを推奨している都市ほぼ全てが、政府へ徹底抗戦を表明したわ』


クリストフと響は、信じられないと言った表情でお互いの顔を見合わせている。


「て、徹底抗戦って!? いくら何でも無茶苦茶だよ!!」

「ファントムじゃあるまいし、政府に楯突くだなんて無謀にも程がありすぎる」

『政府へ徹底抗戦って、聞いた時は私も耳を疑ったわ。だけどあの宇都宮一族も水面下で動いてる以上、これ以外に方法がなかったの』


異能力者受け入れを推奨している、都市全てが国内政府へ徹底抗戦。最早ファントムや異能力者狩りとの戦いだけでは、済まされない所まで来てしまっている。


「茉莉姉、お願いがあるの。奏さんを茉莉姉の所で匿って欲しいの。響先輩が異能力者狩り(ブレイカー)を抜けたから、また玖苑充に狙われるかもしれない」


響が現在の異能力者狩りの方針に反発し、上司である浅枝時緒と共に組織を脱退。姉の奏が充を始めとした、狙われる危険が高まってしまった。証拠に時緒の知人は今も消息不明のまま。情報網の広い茉莉に奏を任せた方が安全だ。


『わかったわ、奏ちゃんの事は任せて』

「ありがとう、そんでもう一つだけ。玖苑充の異能力が何だか知ってる? 少しでも構わない。あいつの情報知っておきたい」


これだけは聞いて置かなければいけない。茉莉が充と交戦したなら、彼の持っている異能力を知っているだろう。



『······そうね。玖苑充の所へ行くなら、あなた達も知っておいた方が良いわね。充の持つ異能力は模倣(イミテーション)。相手の異能力を模倣する異能力よ。簡単に言えば相手の異能力を奪って、その能力を自分のものにしちゃうものよ』



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