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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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132話・瑠奈side



「あ、あんたは···」


見た目はアンティーク調でありながら、どこか影を纏う雰囲気に、そぐわない店へと現れたのは、美しい紫色の艶やかな長い髪をした一人の少女。スーパーモデルを思わせる、すらりと伸びた長い足に、均整の取れたスタイルは見る者全てを魅了する。口を出せば誰もが美少女と言いたくなりそうだが、誰もその場を動かない。そんな瑠奈達の前に現れた長髪の少女は、間違いなく宇都宮と名乗ったからだった。


「ここが例の人気と、呼ばれるパティシエのお店なのね? これは随分と物騒な場所に建てましたね。手作りスイーツが自慢のパティシエならば、もう少し上品な場所に店を構えた方が、きっとお客も増えるだろうに···」


紫の髪の少女は店の周りを見ながら、興味深く店内を観察しているが、つまらなさそうに語る。店主はカウンターから、無言で招かれざる訪問者を睨み付けている。大勢の客がいる中で必死に堪えているだろうが、自分の店を馬鹿にされて(はらわた)が、煮えくり返ってるかもしれない。



「···おい。なんで『非能力者』が、この場所に居るんだよ?」



するといつの間にか、立ち話をしていたりテーブル席やカウンター席で、飲み物や軽食を嗜んでいた店内の客達が、店の前で少女の進行を妨害するように立ち往生している、紫色の髪の少女へ次々と注目の視線を向け始める。


「おいこの(アマ)。この場所がどういう所か、分かってないんじゃないのか」


客達が向ける少女への視線は一人一人。いや、注目している全員が侮蔑と嫌悪に満ちていた。中には少女へ向けて殺気まで放っている者もいるらしく、一瞬にして戦場染みた雰囲気と化した店内に、勇羅や瑠奈は青ざめ、恐らく一番場慣れしているだろう響もまた、殺伐化した店内に呑まれ冷や汗をかいていた。店主を含めた店内の客は勇羅と響を除いて、全員が訳ありの異能力者なのだ。勇羅と響は店主が信用出来ると判断してくれたのか、周りも一歩距離は置いているものの、勇羅達とも普通に接してくれたから、能力者達の放つ殺気が余計に、不安を感じさせている。


「てめぇまさか俺達全員。『奴ら』に通報する気じゃねえだろうな?」

「きっと研究所や政府の連中に、この区域に居る私達の場所をばらす気なのよ」


一斉に向けられる自分への敵意に対して、少女は全く動揺する事もしない。それどころか少女は、敵意を向けてくる客達に対し、あらかさまな侮蔑の視線を向ける。


「あなた方は自分達が政府にとって、醜く無様で愚かな薄汚い存在であると、全くもって理解していらっしゃらないようね。それが遥かなる高みの世界へ向かう、我ら宇都宮一族への侮蔑と受け取っても宜しいのですね」


政府と発言した途端、周囲の異能力者達の少女に対する、敵意の視線が思念を通じて更に増す。鋼太朗から聞いたのだが、闇に潜みながら暮らす異能力者達にとって、普段から政府の存在そのものが最大の禁句(タブー)なのだ。ルミナや薫からも聞いたが、政府は異能力者の存在を決して認めない。この世界にとって異能力者は、ただの【災害】に過ぎないのだ。


「やっぱりてめェ、政府の回し者なんだな!?」

「俺達が異能力者だって言うだけで。好き放題迫害しておいてぬけぬけと!!」

「じゃあ今ここに住んでる私達も、人間にとって裏切り者だって事なの? 何の能力もない人間如きが好き勝手な事、ほざくのもいい加減にしてよっ!」


異能力者達は立て続けに、彼らへ侮蔑の視線を向けている少女を責め立てる。彼らは同じ苦しみを味わっている同胞を、裏切り者呼ばわりされて許さないのだ。



「自分達の立場を、分かってらっしゃらないのは、社会の(ごみ)であるあなた方の方よ。我が遥かなる高みの世界を目指す、宇都宮一族に歯向かう下劣な異能力者は―」


「お前ふざけんなよっっ!!!」



殺伐とした店内に響く怒鳴り声。瑠奈のすぐ近くから聴こえたので、周りを見ると怒鳴り声の主は勇羅だった。


「さっきから黙って聞いてりゃ、べらべらべらべらべらべらとありもしない事···。あんたいい加減にしろよ!! 異能力者が人間に何やらかしたんだよ!! 異能力者が人間に敵対する存在だなんて、そんなのお前らお偉い様の勝手な思い込みだろっ!!


つかあんた宇都宮当主代行って言ったよねっ!? お前らが裏でも表でも何やってるのかわかってんの? 自分らの身内の不祥事何もかも、金で揉み消した癖に偉そうな事よく言うよねっ!! 自分達に都合の悪い事があれば何でもかんでも権力権力権力金金金金金金っっ!!!!! お前ら一族様は金と権力でしか事件を解決出来ない訳!?


大体お前ら宇都宮のせいで何の罪もない、一般市民が重税で苦しんでるのがわかってて、自分らの権力好き勝手振り回して、愉悦の笑み浮かべて自分達は高い所から、庶民の苦しむ様を眺めて楽しんでるってか!? お前ら宇都宮の連中の方が、異能力者よりもずーーっと、ずーーーっっっとずーーーーーーっっっっっと!!! 悪い事やらかしてる分、性質悪すぎなんだよっっ!!!!」



勇羅は一気に捲し立てるように、自分より背の高い少女へ言い放った。勇羅の両目尻からは悔しさから出てしまったのだろう、僅かに涙が滲み出ている。兄のように慕っている人や今でも仲良くしてる友達が、こんな偏見の塊のような連中に、迫害されている方の怒りが強かったのだ。


瑠奈や麗二だけでなく、クリストフや響までも唖然と勇羅を見ている。上から目線の少女へ、ガンガン捲し立てる勇羅に気圧されたのか、少女に敵意を向けていた客達も、ポカンとした表情になりながら、一斉に鎮まり返ってしまった。


「あ、あなたは······。一体······」


自分より背の低い少年に、物凄い勢いで怒鳴り込まれたのが相当堪えたのか、少女は立ったまま半分放心している。



「俺は···―」



勇羅が更に言葉を続けようと。突然、閉まっていた店のドアがまた勢いよく開かれた。喫茶店のドアを開けて、駆け込んだのは一人の男。男から思念を感じた事から、彼もまた裏通りの異能力者だ。



「たっ、大変だマスター!! う、うっ裏通り前に···っ。い、い、い···異能力者狩りが集まって来てる!!」



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