131話・瑠奈side
―午後七時・神在郊外裏通り喫茶店。
現在の瑠奈達一行は、神在郊外裏通りの喫茶店にいる。どうやってあの大規模な爆発から脱出したのかは知らないが、玖苑充が学校の旧校舎の近くに居る事を、思念で察知したクリストフからの提案だ。優れた異能力者の玖苑充が居ると分かった以上、勇羅達も長い間学園の近くに、居る訳にはいかないと判断し、瑠奈達の強い希望で話す場所を変えたのだ。
この裏通りの喫茶店は、鋼太朗が異能力研究所などの情報収集の為に、頻繁に訪れていたあの喫茶店。この場所自体、基本異能力者でない人間は店の中に入れない。当然響と勇羅は異能力者ではないのだが、瑠奈が店主に事情を説明すると、店主は瑠奈一行の様子から、ある程度察してくれたのか、何もなく二人を店内へ入れてくれた。
「やっぱり君、異能力者だったんだ」
「······」
クリストフに指摘され、麗二は嫌そうな顔をしながら口を尖らせる。東皇寺学園での事件以来、麗二が同伴している事に何となく違和感が合ったので、薄々感づいていたが、やっぱり麗二も異能力者である事を隠していたようだ。
「麗二が能力持ちだって事。ファントムも知ってるの?」
「僕は又聞き位だけどね。彼はウチの集団でマークしてた、異能力者の一人だった。でも彼の周りに厄介な一族が関わってるから、ルシオでも接触すら出来なかった」
「出来なかった?」
「ファントムの情報網使って、幾つか調べて分かったんだ。彼の家庭環境の背後に何かあるらしい。それ以上彼の周りを詮索すれば、ウチの構成員も危険に晒される可能性もあったから、うかつにコンタクト出来なかったんだよ」
表情で話すクリストフから、バツが悪そうに顔を逸らす麗二。麗二が能力者として、ファントムにマークされていたと言う事は、瑠奈も勇羅も始めて聞いた。しかも世界中にコネを持つ、ファントムですら安易に接触出来ない程の、環境の中にいたのも今ここで始めて聞いたのだ。
「真宮先生達、大丈夫かなぁ···」
「そうだ。二人共学校の正門から、飛んで来るみたいに走って来てたけど、茉莉姉に何があったの」
瑠奈達が勇羅達の姿を見た時。勇羅と麗二は学園の正門から、飛び出して来るように走って来ていたのだ。あの電話以来、茉莉ともまともに連絡を取っていない。琳や家族共々郊外に避難したと聞いているものの、学園や神在の街周辺がどうなっているのか。それ以外の状況が、玖苑充や異能力者狩り一同から、現在絶賛逃亡中の瑠奈には分からないのだ。
「真宮先生は今、三間坂達と戦ってるよ。三間坂の方は、何か充って男に騙されてるみたいだった」
三間坂が充に騙されていると聞き、瑠奈は俯きながら何かを思い詰めたような表情になる。充と行動を共にし茉莉達にも牙を向けたと言う事は、遂に彼女も踏み込んではいけない所へ、踏み込んでしまった事を。
「そうだ、充に騙されてる三間坂の事なんだけどさ。その、あいつ···」
「そうそう。俺達、三間坂の事も聞きたかったんだ。一体あいつに何があったんだよ? 俺達や真宮先生が、瑠奈に騙されてるとか言ってさぁ···」
「その三間坂、なんだけどさ。る、泪先輩を······お兄ちゃんを、拳銃で·········撃った」
「·········え」
泪が翠恋に拳銃で射たれた。勇羅は飲みかけのアイスカフェラテの入った、グラスを持ったまま固まった。正確に言うと翠恋は持っている拳銃で、瑠奈を撃とうとしたが、直後前に出て瑠奈を庇った泪が、銃で脇腹を撃たれたのだ。
「み、三間坂が······。泪さん······撃ったって······?」
「その、正確に言うとね···。三間坂は私を撃とうとして···お兄ちゃんは、私を···庇って······っ」
「そ、そんな···っ。そんな事って······」
勇羅もそうだが、隣の席に座っている麗二もまた、呆然として勇羅と似た表情になっている。慕っていた人物が見知った人間に、撃たれたと言うだけで衝撃が大きいのだ。
「る、泪さんは···。ぶ、無事······なのか?」
「相手はお兄ちゃんの異能力に、利用価値を見出だしてるから、おそらく生かされてる」
優れた能力者の泪は、幸い生かされてるとの返答を聞き、勇羅と麗二は揃って安堵の息を吐くが、やほり知り合いが撃たれたと聞かされただけあり、勇羅達も落ち着かない。
「三間坂はお兄ちゃん···。泪先輩を助ける為に、自分から異能力者間の争いに踏み込んだ。玖苑充···政府議員秘書が、国内の異能力者達を捕まえる為に、あちこちの場所で働きかけてる。三間坂は泪先輩の事情、全部知らされた上で多分···玖苑充に利用されてる」
「る、泪さんの···事情、って?」
「泪先輩···玖苑充や政府に、色々情報を渡してたんだよ。私達の身の回りの安全と引き換えに······。でも結果的に塩を送る羽目になって、お兄ちゃんは···」
勇羅と麗二は信じられないと言った表情で、瑠奈の話を聞いている。泪が自分達の為に自らを犠牲にしていたとは、全く持って思っても見なかったから。
「······あのオッサン。表でも裏でも、悪どい噂立ってるって聞いてたけど。お前らの話聞いてて、まさかここまでやからしてるとは思わなかったよ」
「それ充の事か」
麗二の溜め息じみた意味深な発言に、クリストフや響は麗二を凝視する。響達に吊られるように麗二へ注目する、勇羅や瑠奈を見て表情を僅かに曇らせるが、大きく溜め息を吐き少しの沈黙の後、瑠奈達へ顔を向け再び口を開く。
「あのオッサンの一族、政界や財界じゃあ凄い有名だよ。玖苑一族は大体著名政治家を、輩出してきた一族なんだってさ。ネットで調べればすぐに名前出るぞ。これは俺の知ってる範囲なんだが、充も国内政府現役議員の息子なのは確かだけど、正確に言えば奴は議員の愛人の子どもなんだとさ。だが周りの環境が原因で、かなりひねくれて育ったって噂」
「······宇都宮夕妬と同じじゃん」
充の家庭環境を聞いた勇羅が、不貞腐れながらボヤく。家庭内の不備で生まれた人間と言うのは、どうもねじ曲がった奴が多いのは気のせいだろうか。
「君も宇都宮の事知ってるの」
「···イヤって位ね。前に分家の奴と直接対峙したんだよ。大体宇都宮って物凄い粘着質だし、それよりも異常な程に一人の人間に固執する奴始めて見た」
宇都宮の一族は粘着質だとブツブツ文句を垂れながら、遠回しに夕妬の事を語る勇羅。
「後···。泪さんが三間坂の事嫌ってる理由、なんとなく分かった気がする」
「えっ、え? ちょ、私それ初めて聞いた···。三間坂が、泪先輩に嫌われてる···って?」
泪が翠恋の事を嫌っているのは初耳だった。泪の翠恋に対する対応とは、相手が必要以上の接触を仕掛けて来たら、泪側がやんわりと断っている位で、それ以外では泪自身普通に翠恋と会話しているのだ。
「泪さん。三間坂から貰ったプレゼント毎回捨ててたんだよ」
「っ!」
全く知らなかった。泪への感想は翠恋の口から聞くだけだったが、全て曖昧だった。泪は受け取ってこそいたが、まさか食べもせず捨てていたとは思ってなかった。泪は誰に対しても柔らかく対応していた。知り合いである筈の鋼太朗に対し、辛辣気味な態度を取っていたが、考えれば鋼太朗には自身の個人アドレスを渡していた。瑠奈は鋼太朗から泪の個人アドレスを、無理やり聞き出したのだ。
鋼太朗から強引に聞き出した事を白状すると、流石に苦笑していたが、泪は何も聞かないでいてくれた。間接的と言え、嫌われていると告げられた、翠恋に対して瑠奈は何も言えない。泪が内に抱えているものは、余りにも重すぎるのだから。瑠奈が自分の一生全てを捨てて、泪を支えきれる覚悟を持つこと。それが出来なければ泪を救えない程に。
「姉ちゃんや和真兄ちゃんからの又聞きだけど、泪さん見た目良いし、成績も凄く良くて運動も、水泳以外は何でもこなすから。宝條入学当時は女子生徒に結構声掛けられてたって。でも泪さん本人は遠回しに断って、周りと距離置いてたから、感の鋭い先輩とかは早い内に必要以上に、泪さんへ声掛けなくなっていった。俺は三間坂以外の女子や、先輩達から貰った所も、何回か見かけたけど、それにも一切手を付けなかった。形があるものがすぐに無くなるのを知ってるから、って···」
「······」
異能力者や勘の鋭い人間は、泪の『何か』に気付いて早い内に、彼と距離を置いていったのだろう。不審な点があるとすれば、瑠奈が泪に距離を置かれてからだ。瑠奈や距離を置かれ始めるとは逆に、普段はあまり関わろうとしない翠恋や、寧々には接触的に接触し始めたのだ。
「···でも。和真兄ちゃんから貰った誕生日プレゼントと、瑠奈から貰った奴だけは絶対捨てなかったから」
「和真さんのプレゼント?」
「誕生日のプレゼント初めて貰ったから、これだけは捨てたくないって。外から確認出来ないけど、泪さんそれ肌身放さず付けてるんだ」
「······」
和真からの誕生日プレゼントが、どんなものなのか気になる。恐らくは泪にとって、生まれて初めて貰った誕生日のプレゼントなのだろう。一行が沈黙していると、入り口の扉から、カラカラと音がなり店の扉が開かれる。
「郊外裏通り市民の皆様。この夜半お騒ぎ中の所を、大変失礼致します。私は宇都宮一族当主代行・宇都宮小夜と申します」




