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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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127話・瑠奈side



―午後四時半・郊外某所。


「駄目だ。君だけは支部へ連れていけない」

「どうしても?」


辛くも玖苑充による、ファントム支部爆発の難を逃れた瑠奈とクリストフ。爆発を逃れ支部から離れた無人駐車場には、幸運にも鍵を付けっぱなしにし、放置してあったバイクがあった。すぐにそのバイクへ二人乗りして、瑠奈とクリストフは今、ファントム支部郊外の外れにいる。


「あの大きな爆発の後も幾つか思念は感じたから、ルシオラさん達は無事だと思う」

「あぁ······」


クリストフが運転するそのバイクに、掴まってろと言われたので瑠奈は席に跨がる。二人乗りもさることながら、スピード違反すれすれの速度で、運転する彼の背中に振り落とされまいと、必死にしがみつきながら乗っている最中。瑠奈は泪やルシオラ達を始め、複数の思念を感じとった為、彼らの安否は何とか確認した。更に悪運の強い事に、支部が爆発する直前に充達は、何かしらの異能力を使って建物から脱出したらしい。


「それにしても凄いな。僕もみんなの思念を、感じとるのに十分位掛かったのに、瑠奈はその半分の時間で感じとるなんて」

「う、うん···」


この数日で瑠奈の念動力自体、かなり上がっていたようだ。クリストフによると瑠奈はルシオラを始め、強力な異能力者の近くに居た影響もあり、急激に念動力が高まっていたらしく、意識して能力を抑えていないと見つかる危険性がある。今は異能力者狩りや充側に回った構成員に気付かれないよう、二人共思念を限界まで抑えている。しばらくは心配いらないだろう。


「だからって、私一人家に帰る訳には···」

「ルシオからも言われてる。君だけでも安全に家に送り届けろって」


幸いにも自分達の思念で、安否の確認が出来た泪とルシオラ達は、今もファントム支部に残ったままだ。更には充の手引きによりファントムにも、宇都宮一族の権力の手が回された。翠恋に撃たれた泪の事が気がかりだが、恐らく瑠奈が生きている限り、泪自身には最低限の命の保障はされている。



「······ううん、今は家に帰れない。私の事がファントムに知られてる以上、必ず父さんや母さん達にも充の手が掛かる」



遠回しに瑠奈も充に狙われている、と指摘されたクリストフは流石に黙ってしまった。クリストフの複雑そうな表情からすると、瑠奈の身内周りの事も、ある程度聞かされていたようだ。茉莉から聞いた話だと今神在の町全体に、異能力者検挙の手が入っている。そんな状況下の中では、自宅に帰る事そのものが危険すぎる。茉莉や琳を含めた家族や親族は、検査の対象外となっている市外へ避難したと言っているが、今の状態で下手に神在に戻れば、更に自分周りへの危険が高まるかもしれない。


「瑠奈が家に戻れないなら、ルシオのマンションへ行くしかないかぁ」

「そういや角煮大丈夫かな···」


支部で無事を確認した角煮は、クリストフが再びルシオラのマンションへ、角煮を戻していたと聞いた。今も角煮だけはルシオラのマンションに置いて来たまんまだ。


「寄り道になるけど、角煮の様子見に行くか。せめてアイツだけでも、安全な場所に避難させてやらないと」

「そうする」


ルシオラのマンションならば、一部の人間しか知られていないだろうし、瑠奈達が余程ヘマをしない限り、見つかる心配はない。二人はすぐ隣に止めていたバイクに跨がると、再び道へバイクを走らせた。



―午後六時・ルシオラのマンション玄関前。



瑠奈は周辺を警戒しつつ、近くのコンビニでサンドイッチと惣菜パンとお茶を買って、離れた場所で待っていたクリストフと一緒に、少し早い夕飯を食べた。本当ならどこかの飲食店の中で、何か出来立ての料理を食べたかったが、あんな状況ではおそらくは店内でも、ゆっくり飲食することすら、出来そうにないのが辛かった。夕飯を食べた後。クリストフは予めルシオラから教えられていた遠回りのルートを使い、数十分掛けてルシオラのマンションへ到着した。ルシオラの部屋のある玄関の前へ向かうと、そねの場所には思いがけない人物が立っていた。


「お、お前は···っ」

「あっ、逢前先輩···。先輩がどうしてここに」


初夏のじんみりした暑さにも関わらず、黒いライダースーツ着込んだ青年は逢前響だった。驚いたような顔をした瑠奈達とは対象的に、響の方は二人を見て何とも言えない表情をしている。


「何でこの場所が分かったんだ? まさかあんた、僕達の後を付けてたのか?」

「今から話す」


今から話すと言う響に、クリストフは訝しげな顔をする。瑠奈が彼の顔や表の素性を知っている相手とは言え、逢前響は異能力者狩りに所属しているのだから、どうしても半信半疑が拭えない。


「···実は同僚の時緒と一緒に、ブレイカー上層部が管理してる、異能力者や異能力と関係している情報を、幾つか持ち出して来たんだ。既に異能力者狩り構成員の半分以上、宇都宮一族の息が掛かっている。ここ最近動いてる異能力者狩りの大半が、宇都宮に懐柔された構成員だった。数年前からウチの組織にも、内部から宇都宮一族の手が回っていたんだよ。この場所を探し当てたのも、ぶっちゃけた話、宇都宮の連中が集めた情報を持ち出して来た」


響の口から宇都宮一族の名前が出てくる。充派の構成員達ではなく、宇都宮一族がルシオラが秘密裏に、潜伏している場所の情報を掴んでいた。だからこの場所へも予め先回りが出来たのか。


「そ、そっちにも宇都宮一族が···」


「宇都宮一族は、ウチの組織にも一族専属の工作員を送り込んでいたんだよ。そいつらは異能力者狩りの女性構成員や若手構成員。新人構成員達を次々に、自分達の手元へ懐柔して取り込んで、宇都宮一族の一勢力として使っている。今じゃ宇都宮の甘言に乗らされた、半数近くの異能力者狩りは、とっくに宇都宮一族の忠実な手駒だよ。宇都宮が中から思い切り、やらかしてくれたおかげで、異能力者狩りと言う組織が、事実上崩壊してる見たいなものだ。

聖域(サンクチュアリ)】が管理していた、『箱庭』の聖女候補者達を、自分達の管轄下に措いている、異能力研究所の被験者として、候補者を使い潰したのも奴等だ。『箱庭』の聖女候補者は、一部を除いて全員消息不明、生死すらも分からない状況らしい。宇都宮一族は最終的に、聖域の象徴とされる聖女を、自分達の傀儡として取り込む予定だったそうだ」


「聖女···? そっ、そうだっ。お前らの愛姫って奴はその、聖域の聖女じゃないのか」

「そう、愛姫は『聖女』じゃない。彼女は宇都宮一族から送り込まれた親衛隊の奴らが、勝手に祭り上げていただけの紛い物だ。本物の聖女はその聖域内部に居るって噂」


響の口からは次々と、自分達が今まで知る事すらなかった、衝撃的な情報が飛び出してくる。現在の異能力者狩り・ブレイカーの半数近くが、宇都宮一族の支配下に置かれている事。ブレイカー唯一の異能力者である、愛姫と呼ばれていた少女は、聖女でもなんでもなく普通の異能力者。それでも彼女が危険な能力を持った、異能力者である事は間違いない。そして本来の聖女は【聖域】と言う組織に居る。


「この町と神在の間を挟む郊外に、政府管轄下の異能力研究所がある。そこで政府からの依頼で、秘密裏に異能力の研究を行っているんだ。神在周辺の異能力者達は、その研究所に連行された可能性が高い。そこの研究所から情報を盗み出せば、政府が行おうとしてる研究の情報とかも入手出来る」

「そうか。その研究所へ行けば、そこにルシオ達が連行されている可能性があるって事か」


過去に被験体となった異能力者達の連行先は、ほぼ間違いなく異能力研究所しかない。異能力研究所の存在は、世界規模で隠ぺいされている。何らかの理由で、放置されている建物にしか見えないのだから。


「早速その異能力研究所へ行きましょうよ先輩。研究所から情報を入手して、ついでに皆を助け出せれば一石二鳥です」


響の情報を聞いて、あっさりと彼の申し出に応じるばかりか、躊躇いなく一緒に行こうと告げる二人に、響は驚いた風に目を丸くさせる。


「···僕の事信じるの? 僕は今まで異能力者狩りに属してた人間だ。異能力者にとって異能力者狩りは」

「······君、ぶっちゃけ裏仕事に向いてないよ。大体敵対する相手に、自分の組織の情報あれこれとリークし過ぎ」


悪戯っ子のような笑みを見せるクリストフ。宇都宮一族と言い聖域の聖女と言い、敵地へ向かおうとしている瑠奈達に、塩を送りすぎているのは敵対する構成員としてどうかと思う。


「先輩。一つだけいいですか?」


瑠奈に真剣な表情で質問をされ、怪訝な表情になる響。


「逢前先輩が異能力者狩りの存在を知ったのは、いつ頃になりますか」


響の表情からして、自身が異能力者狩りに入った事は、あまり聞かれたくない質問らしい。だが響は少し沈黙の後、一度考える風に頷いてから口を開き始めた。


「僕が異能力者狩りの存在を知ったのは、身内に異能力者狩りをしている人間が居て、その人が異能力者を狩っているのを目撃して偶然知った。僕は自分から異能力者狩りに入るって志願したけど、その人から異能力者狩りをやる事を当然反対されたよ」


響が異能力者狩りの存在は知ったのは偶然。だが響は面識のある人間から、当然反対に遭ったようだ。顔見知りに情報を話しすぎる事と言い、クリストフから直々に、裏仕事に向いていないと言われただけある。


「異能力者狩り集団の人間は、認知されない異能力者相手とは言え、実際に『人間』を手を掛ける。当然表の世界ではやっていけない。だから普通の感性を持つ人間からは、敬遠されている。時緒は僕が本当はその手の仕事向いてないからって、見抜いてたんだろうな」


響もまた異能力者を狩った事で、越えてはいけない一線を越えてしまっている。泪と同じく元の日常へ戻れなくなってしまったのだ。


「真宮さん。これが終わったら、絶対に元の生活に戻るって約束して。君の周りの人は、君が元の生活に戻る事を望んでる」


響もクリストフも瑠奈が、前と変わらない日常に戻る事を望んでいる。今この場にいない泪やルシオラを始め、二人ももう元の日常に戻れない。瑠奈には待っている家族がいる、瑠奈の無事を望む友達がいるのだ。



「······わかった」



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