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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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125話・瑠奈&ルシオラside



「模倣······だと?」


異能力・模倣(イミテーション)。ルシオラは自らが救出した同志や、外部構成員の能力を大方把握している。対象の思念を感知して調べるだけで、一人一人の同志達がどのような系統の異能力を使うのかも。ファントム内でも優れた感知能力を持った、サイキッカーでもあるルシオラは、それすらも把握していた。だが充だけは違った。ルシオラがどんなに思念を感知しても、充個人の思念の中に混ざって、あらゆる複数の念をも混じっているのか、彼の持っている異能力そのものが把握出来なかった為、何故か充の能力を知る事が出来なかった。どうやら泪は充の使う能力の情報をも、宇都宮から受け取っていたようだ。


「彼が本来所持する能力を知ったのは、偶然が重なっただけに過ぎません···。や、奴は···宇都宮管轄の······っ。あ、暁研究所に、所属していた、異能力者達の情報も、既に···手に入れて、いたようです···。それも···大分前から、瑠奈の精神干渉能力(サイコダイブ)に···目を付けていた。す、全ては······全て···奴、個人が行っている···研究の、為だと······。自分達の元にいる、精神干渉能力者は···既に···使い物に、ならないと言って、いました···。


充は···あなたが救出した、能力者達も···あなたが表立って、ファントム総帥として活動している裏で···っ。あなたを純粋に慕っている、同志達すらも取り込んで···自分の研究の、実験体として扱って·········殺して、いました」

「っ!!」


迂闊だった。裏社会を通じてファントムの存在を知り、外部構成員の伝手を使い入った玖苑充が、自分達に仕えている傍ら、その裏で何かを企んでいる事は、充が入団してしばらく後に離反した伊遠を通じて知っていた。伊遠から遠回しに充を警戒し、決して隙を与えるなと伝えられたルシオラ。その後は己の目的の為に聖域に入った伊遠から、異能力者狩りを始めとした様々な情報を受け取りながらも、充を暫く泳がせつつ玄也やルミナ達とも協力し、玖苑充と言う腹の底が見えない男の膿を出させる筈だった。


まさか充を放置して、彼が隠している化けの皮を剥がすつもりが、いつの間にかルシオラ達は、充に隙を与えすぎてしまっていたのだ。その結果がルシオラ自らが研究所を襲撃し、救出した同志達の命すらも奪う事になってしまうとは。


「···余り喋らない方が良い、傷が開く」

「宇都宮一族も玖苑充も、瑠奈を···欲して、いる···。ただ自分達の欲を、満たす為だけに瑠奈を···っ。あの娘は···この争いに何も関係ない······。僕と、関わってしまったばかりに···あの娘は······瑠奈は、巻き込まれて···っ」


自分の知っている情報の全てをルシオラへ伝えようと、苦しげに話す泪の声は、いつの間にか翠恋へと聞こえてしまっていた。瑠奈が争いに関係ない所まで聞いていたのか、持っている銃を降ろし翠恋は茫然とした表情のまま立っている。


「······何で? そ、そんな······なんで······? なんでっ···なんで···。なんで真宮なのよっ!? 泪は······泪にはあたしじゃ駄目なの!?」


翠恋の悲痛な叫びが広場中に響く。その甲高い叫び声は最早悲鳴に近かった。


「何でっ、どうしてなのよっ!! なんで真宮なのよっ!? なんで泪の隣があたしじゃないのよっ!? 今ここで泪が傷ついてるのは、全部そいつのせいじゃないっ!!」


大きく響く翠恋の声に、眉を動かすルシオラ。相変わらず表情に変化はないが、一瞬ルシオラからは不快の思念が発せられた。


「ねぇどうしてっ!? どうしていっつも真宮が···っ。真宮ばかりが泪の中心にいるのよっ! あたしだっていつも泪の事を想ってるのに!? あたしの方が泪の事を、ずっと前から泪の事好きだって想ってるのに······初めて会った時から、泪の事ずっと大好きなのにっ!!! ねぇ······どうして真宮なのよっ!!!」


撃たれた傷の痛みに苦悶する泪の代わりに、口を開いたのはルシオラの方だった。


「······君は泪の事を本当に理解しているのか?」

「そんなのっ······。あっ、あんたに関係ないでしょうっ!! あたしは真宮のせいで、ずっと苦しめられた泪の事を助けたいのよっ! それだけなのよっ!!」


目の前の少女が泪を救いたいならば、泪はもう後戻り出来ない場所へ、踏み込んでいる事を知っている筈だ。この期に及んでもまだ、彼女は泪が苦しんでいる事実を、純粋に能力者同士の争いに巻き込まれただけの、瑠奈のせいにしようと言うのか。


「···赤石泪は二度と日常生活へ戻れない。もしかして君は、それすらも理解せずにこの場所へ来たと言うのか」


「何よ、いちいち偉そうなこと言ってうるさいわねっ!! あんたなんかに泪の何がわかるのよっ!! そんなの真宮が付いた嘘に決まってるわっ!! 泪は絶対にあたし達の所へ戻ってくるんだからっ!! あたしは泪の幸せを守る為に戦うのよっ! 一体それの何がいけないのよ!? 他人のあんたも泪の事なんか何も知らない癖に、知ったような事言わないでよっ!!」


充に何を吹き込まれたのかは知らないが、充が彼女に刻み込んだ甘言は相当根深い。彼はルシオラ以上に、他者の心を掌握する術に長けているのだ。それも対象の心が不安定であればあるほど、充の甘言に容易く呑み込まれてしまう。


「みんなっ。みんな······みんなあんたのせいよっ!! あんたが素直に充さんの所に行ってれば···」

「三間坂···」


瑠奈は翠恋を、ルシオラとクリストフは無言で充を睨む。不器用ながらも泪を思うが、翠恋は『特別でない人間』であるが故に、泪の真実を何も知らされない。泪の真実を知った故に、瑠奈は充と共にする翠恋の行動が全く理解出来ない。玖苑充がどのような男なのか、充の本性を知る周りの人間に聞かされている以上、目の前の男の私欲にまみれた要求を、聞く必要など毛頭ない。


「そういう事なのですよ。この事件の全ての元凶は、真宮瑠奈にあるのです。さぁルシオラ、彼女を私に渡しなさい」


玖苑充は余裕満々だった。彼のバックに政府がいる以上、何れは内部から自らの手でファントムを潰せる、全てを支配出来ると確信を持っているのだ。充は泪を楯に瑠奈を追い詰め、全ての業を瑠奈に押し付けようとする。


「断る。貴様らの要求は頑として受けん」

「どうしてよっ!! あたしは泪を助けたいのよっ!! 真宮が充の所へ行けば、泪の事を助けられるのよっ!!」


「泪に任されたからだ」

「······っ」


ルシオラの側で翠恋を睨み付ける瑠奈の目は全く曇っていない。今も騙されている翠恋への憤りもあるのだろうが、それ以上に自分の大切な人達を弄んだ、充や宇都宮一族への怒りに満ちている。


「ふざけた事言わないでっ!! だっ、大体···そ、そう。あ、あんただって、自分の仲間かもしれない泪を助けたいんでしょ? なら真宮が充さんの所に―」

「だからと言って、瑠奈を充に渡す訳にいかん。そもそも今、貴様が行っている行為そのものが、泪の意に反していると気付いていないのか」


ルシオラも少しづつ泪に歩み寄っている。異能力研究所での非情な仕打ちを受けた者同士、ルシオラなりに泪を理解したいと言った。翠恋への呼び方が、『君』から『貴様』へと変わっている事から、一方的に自分の考えだけを押し付け、泪の本当の心情を理解しようとしない、翠恋に対して苛立っているのだ。


「あんたに関係ないわよっ!! あたしは泪を助けたいだけなのよっ!! それの何がいけないのよっ!? 大体そいつが泪を虐めたせいで、泪はいつまでも苦しんでるのよっ!?」


いつまでも自分達の思い通りにいかない状況に対して、喚き騒いでいる翠恋を、玖苑充は宥めるように翠恋を片手で制する。


「およしなさい翠恋さん。どうやら彼らに、これ以上の交渉を行っても無駄のようですね」

「で、でもっ···でも、あたしっ、あたしはっ! 泪が···泪がこれ以上苦しんでるのは見たくないのっ···。だ、だから······」


「ルシオラ。事態は一刻を争います、そのお嬢さんを早く此方へ引き渡して下さい。そうすれば撃たれた泪君の治療と、身の安全は私が保障しましょう」


自分達が泪にとっての救いの神であるかのように語る充。何かを察したのかルシオラは、自分の側にいるクリストフに小声で話掛ける。


「クリフ···。瑠奈を連れて、すぐにここから逃げろ」

「!?」


クリストフはどう言うつもりだと言った顔で、目だけでルシオラの顔を見る。


「もしも充の要求を呑んだとしても、奴は始めから我々の約束を守る気など無いだろう。下手をすれば私や瑠奈だけじゃなく、お前や今この場に残っている、他の同志達も研究所へ連れ戻され、研究材料に逆戻りだ」



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