表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
269/283

123話・瑠奈side



これは泪を助ける為に行うのだと、翠恋は銃を握り締めたまま、銃口を瑠奈に向け引き金を引き始める。


「三間坂っ!」

「あ、あんたがっ! あんたがいなくなればあああぁぁっ!!」


瑠奈を射とうと、翠恋は拳銃のトリガーに指を掛けてはいるが、その細い指は激しくカタカタと震えている。だが泪を救う為ならば今の翠恋は、躊躇いなく瑠奈を撃つ。


「う、撃つんだから···っ。あたしは······あたしが泪を助けるんだからあっ!!」

「瑠奈···!!」

「えっ? うあっ?!」



―···ガァァァン!!



泪の声と共に瑠奈が突き飛ばされたと同時に、一発の銃声が廊下に響き渡った。


「ったた······お、お兄ちゃんっ!」


泪に下へと突き飛ばされたと同時に、視界が床へとやられてしまい、意識を保ったまま床へ突っ伏してしまった。しかし瑠奈は、すぐに目を開けてその場から起き上がり、銃弾を撃った翠恋や泪がどうなったのか確認するべく、素早く埃を払いながら立ち上がる。瑠奈の目に写った先には、先程まで瑠奈が立っていた場所に泪が床へ倒れていた。銃で撃たれた傷が痛むのか、泪は倒れたまま苦しげに身体を動かし、瑠奈の方へ向けながら口を開く。


「る······瑠奈···っ。無事で、良···かっ、た······っ」


自分が突き飛ばした瑠奈が、何もなく無事である事に安堵したのか、泪はそのまま意識を失った。


「お兄···!」

「待て」


銃弾で撃たれた痛みで、意識を失っているだけ。銃で撃たれた泪の腹部からは、じわじわと少しずつだが血液が流れ出していく。しかし迂闊に動けば、充に隙を与えてしまうと判断したルシオラは、倒れた泪の元へ向かおうとする瑠奈を止めた。



「る···い······? 泪······どう、して······?」



翠恋は拳銃を構えた姿勢のまま、床に沈んだ泪を見つめ呆然とした表情になり微動だにしない。


「ぁ······あ···ああ······ああああぁ······あ······ぁ······っ」


翠恋の口から声にならない声が漏れる。翠恋自身の手で助けると誓った赤石泪が、自分の目の前で身体をくの字に曲げ、血を流しながら床に倒れている。


「おやおや。どうしたものですかねぇ? このままでは大切な『お兄ちゃん』が、死んでしまいますよ」

「······っ」


翠恋の隣に充がいる以上、瑠奈達は安易な行動を取る事が出来ない。凶弾に倒れた泪の元へ向かおうと、寸での所で瑠奈を止めたルシオラもまた、迂闊に動く事が出来ないのだ。


「あ···あた、あたし······あたし······っ。ど、どうすれば···っ。どう、すれば···る、泪が···泪がぁ······っ」


今この場から一歩でも動けば、拳銃で泪を撃ってしまい混乱状態に陥った翠恋が、持っている銃を再び発泡する危険がある。瑠奈達には翠恋の銃に、弾が何発残っているかもわからないのだ。


「三間坂······」


泪が自分を庇って翠恋の拳銃で撃たれ、うずくまる形で地面に倒れている。泪を撃った翠恋を、瑠奈はなぜか責める気になれなかった。どんな理由であれど、瑠奈を撃つ為に翠恋は拳銃を撃ったのだ。翠恋の泪への想いは、不器用だが本物だと知っている。方法を間違っていたとしても、少しでも泪に近付く為に翠恋は此処までやって来たのだ。だが泪が生まれた時から、ずっと背負っているものを、全て受けとめるには瑠奈にも翠恋にも荷が重すぎるのだ。


「···ルシオラ。今ここで貴方と取り引きをしましょう。真宮瑠奈を私の元へ渡しなさい。彼女を私の元へ渡してくれれば、赤石泪の命も彼女の命も。ファントムの者達の安全も保障致しますよ」


これはルシオラにとって最悪の取り引きだ。どう転んでも充にしか有利に働かない。充の目的はファントム支部、全ての異能力者達を確保する事なのだ。恐らくその対象には無関係の瑠奈をも含まれている。


「どうです?」

「······」


床に倒れたままの泪が、うっすらと目を開き意識を取り戻す。泪が意識を失っていたのは、ほんの少しの間だけのようだ。拳銃で撃たれた腹部からは、じわりじわりと鮮血が滲み出て、今も服を染め続けている。


「ルシ、オラ······瑠奈、を···」

「『生塵』に言葉を出す義務はありません」


充は倒れている泪の腹を靴で踏みつける。充が踏みつけた所は丁度、翠恋に撃たれた場所だ。



「ぐぅ、っ!!」

「お兄ちゃんっ!!」


「やっ、やめてっ!! 泪をっ、これ以上泪を傷付けないでっ!!」



瑠奈と翠恋の叫びが同時に響き渡る。瑠奈の声も聞いた翠恋は、すぐに瑠奈の方へ顔を向け思いもよらない事を言い始めた。


「まっ、真宮っ! は、早く充のっ! あんたが充の所に来るのよ!」

「なっっ!?」


何を翠恋はトチ狂った事を言っている。ここでほいほいと充の所に行けば瑠奈だけでなく、瑠奈の周りの人達の人生も終わる。それ以前に私利私欲の為だけに、ルシオラへ取り入った挙げ句、何のためらいもなく異能力者集団ファントムを裏切った玖苑充が、泪の命の保障など確約する筈がない。


「あんたが充の所へ行けば、泪が助かるんだから! は、早く充と一緒に行くのよ」

「嫌っ、絶対に嫌だっ!! 毎日ヘラヘラと他人見下して、人の命をなんとも思ってない、いっつもニタニタ笑ってばっかで、気持ち悪い加齢臭全開の、脂ぎった中年男と一緒に暮らすなんて···。絶っっっっ対いやっっっ!!!」


泪を踏みつける充へ思いつく限りの罵詈雑言を、容赦なくぶちかます瑠奈。無意識に充への本音が飛び出している。泪の意思に関係なく、充の元へなど本気で行きたくない。十以上も年の離れた中年男との、二人きりの生活なんて想像したくないし、瑠奈にだって相手を選ぶ権利がある。ましてや人の命を、何とも思っていない人間など頑としてお断りだ。充はやれやれと小馬鹿にした感じで、両手を軽く上げる。


「おやおや···。私も随分彼女に嫌われたものですねぇ」


このまま銃で撃たれたままの泪を放置すれば、泪の命はないのは明らかだ。だが充や宇都宮一族の、思惑通りになるのはもっとご免だ。自分が宇都宮に利用される事こそが、今も宇都宮一族に弄ばれ続けている泪にとって、一番望んでいない事態なのだ。


「三間坂。私はそいつの所になんか絶対いかないよ」

「何でよっ! どうしてよっ!! あんたが充の所に行けば全部···―」


「どうせお兄ちゃんもそいつらに殺される。私が行った所でそいつは、あんたの約束なんて守る気ないでしょう」


ルシオラも瑠奈の言葉に同意するように無言で頷く。充が他人の約束を守ることがない事など目に見えている。冷静に考えれば充の背後に、宇都宮一族がいると言う事は、泪の命は最低限保障されているとも取れる。充がどんなに泪を殺したがっても、都合の良い兵器を扱いたい宇都宮側は、自分達にとって今も忠実な兵器である泪を、心身共に生かさず殺さずの状態に、留めておきたいのだから。既に泪自身が宇都宮の呪縛から、少しずつ抜け出し掛けているとも知らずに。


「な、何言ってんのよ!? この人がそんな卑怯な事する訳ないじゃない。政府議員の秘書よっ! この人が政府のお偉いさんなら、今まであんたのせいで苦しんだ、泪の事だって絶対に助けてくれる!!」


切迫詰っている、翠恋の言動から今の彼女は、完全に充を信じきってしまっている。東皇寺事件の時は、泪や麗二の言葉に耳を傾け、翠恋自身も自分が周りに迷惑を掛けている自覚もあった。しかし今。普通の学生以前に異能力者ではない翠恋が、異能力者の泪達と同じ土俵に、立てなくなって来ている事で、翠恋は精神的に余裕がなくなって来ているのだ。


翠恋はあくまでも『普通の女の子』だ。瑠奈や鋼太朗のよう『異能力者の家系』として、物心つく前から家族の教えで力を隠して暮らしていた訳でもなく、泪やルシオラのように重大な欠陥を背負った『サイキッカー』でもない。そして篠崎姉弟や京香、芽衣子のように『異能力者の存在を理解し受け入れる』立場でもない。翠恋は目的の為には手段を選ばない充の手で、無理矢理この闇にまみれた舞台へ、上がらされただけに過ぎない。異能力者達と深い関わりを持たない翠恋は、決して異能力者達と、同じ舞台へ上がる事が出来ないのだから。


「ぜ、全部···全部っ······。全部、何もかもあんたのせいよっっ!!」


翠恋は握っていた銃を床へ捨て、ズカズカと歩き出し瑠奈の正面に立った途端。いきなり瑠奈の頬へ強烈な平手打ちをお見舞いした。



―···パァン!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ