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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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122話・瑠奈side



「何のつもりですか、三間坂さん」


泪が前へ歩き出そうとすると、翠恋は瑠奈の頭へと銃口を強く突きつける。


「だ、駄目よ泪っ。うっ···う、う、う、動かないでっ!!」

「いいっ、痛たたたっ! ち、ち、ちょっ。あ、あ、あっ、あんたそれ本物のっ?!」


痛みと共に頭ごしに伝わってくる金属の感触から、瑠奈の声も反射的に裏返る。翠恋が持っている拳銃は、紛れもない本物の銃だ。拳銃を持っている人間が素人とは言え、頭に銃を突き付けられている瑠奈も構えた状態の泪達もまた、動くに動けなかった。


「あ、あんたもそのままでいなさいよ! でっ、で、でないと···っ!!」


充の甘言に騙されている、今の翠恋の不安定な精神状態で、瑠奈も泪も下手に口を出せば、翠恋は混乱して引き金を引きかねない。


「三間坂さん。あなたは僕に何を望んでいるんですか」


この自分の命が掛かってしまった状態から、内心どうやって抜け出そうかと迷っている瑠奈に反し、瞬時に翠恋の不安定な精神状態を確認したのか、足を止めた泪は驚く程に冷静だ。泪に再び名前を呼ばれた翠恋の表情は、一気に涙目染みたものへと変わる。


「る、泪······っ。あ、あたしは···あたしはあなたの事助けたい。あなたが、泪が悲しい思いをしたって事はわかる···。でも、でも······あたしには今の泪がわからない···。今の泪が何を考えてるのか、泪の考えてる事がわからないの······だ、だから···」


翠恋は翠恋なりに泪を助けたいと思っている。だからと言って衝動的に、あの玖苑充に協力するとは思っても見なかったのだ。


「······あなた。今の自分が何をやっているのか、わかってそれをやっているのですか」

「そ、そんなの···わかるわよ。こ、こいつのせいでしょ!! こいつが泪を酷い目に合わせた元凶なんでしょう!!」

「ぐ···っ」


翠恋は危なっかしい手つきで、瑠奈の頭に更に強く銃口を押し付ける。翠恋が言っているのは、恐らく『もう一人の瑠奈』の事だろう。充が宇都宮一族とも繋がっており、暁研究所を通じて彼女の存在を知ったに違いない。泪の隣にいるルシオラも、翠恋に拘束された瑠奈をどのタイミングで、念を放とうか様子を伺っている。


「自分のやっている行為が理解出来るのなら、すぐに瑠奈を離して下さい」

「い、嫌よ。絶対嫌よっ! だ、駄目なのよっ!! いくら泪の頼みでも、絶対嫌なんだからっ!! こんな奴···こんな奴っ···こんな奴···っ!」


「それでは銃を捨てなさい。あなたは何の覚悟もないまま、自分の思い込みだけで人を殺して、殺人犯にでもなる気ですか」


殺人犯と言う言葉に反応し、翠恋は拳銃を持っている手が更に震えだす。泪の言葉に相当動揺している、銃口を突き付けられたままの瑠奈にも、翠恋の手の震えが頭ごなしに伝わってくる。


「あっ······。あ、あ···っ。そ、そ、そ···そんな······。ぁ···あ、あた······あたし、は······泪の事を···っ」


東皇寺学園の事件の時と言い、翠恋は自らの感情の思うまま、突っ込んだ挙げ句。自分の手を汚す覚悟すらもないまま、まさか異能力者同士の問題にまで飛び込んで、自ら泥沼に嵌まって行っている状況なのだ。それも下手をすれば、世界中全ての異能力者達と敵対しかねない、最悪の状況へと翠恋は進んでいる。


「貴方は元の帰る場所へ戻るべきです。帰る場所のある貴方が異能力者の為に、自分の手を汚す必要などありません。貴方はこの争いとは『無関係の人間』です」


今だ翠恋に拳銃を突き付けられた状態の瑠奈も、黙って泪の話を聞いている。泪の念動力・異能力は、瑠奈なんかよりずば抜けて強い。泪が強大な力を持つ異能力者であると、表沙汰になった以上は、泪もルシオラも既に後戻りが出来ないのだ。何よりもう泪自身は、人間としての一線を完全に越えてしまっていて、瑠奈達と違い日常社会に帰る事すらも許されないのだから。


「で、でも···っ。でも······でも、っ!!」

「···では。あなたがどうしても『異能力者の真宮瑠奈』を殺すと言う事は、僕達『世界中の異能力者』全てを、敵に回すと思いなさい。『異能力』を持たない『人間』のあなたは、数多くの異能力者達から、(こころざし)を共にした同志を、殺害した敵とみなされるでしょう」


世界中の異能力者達。いや、泪をも敵に回すとの言葉で、翠恋は更に激しい戸惑いを見せる。瑠奈も泪もルシオラも、翠恋に甘言を吹き込んだ充も当然異能力者だ。この場にいる翠恋だけが『異能力者』ではないのだ。だが少しの沈黙の後、翠恋はすぐに頭を振りながら、改めて握っている拳銃の銃口を瑠奈の頭に押し当てる。


「っ!」

「や、やっぱりっ。こいつだけが全部悪い···―っ!?」


銃口を押し当てた瞬間。いきなり翠恋の手から拳銃が弾き飛ばされる。いつの間にかルシオラの光輪が、翠恋が銃を握っていた手の側に放たれており、放たれた光輪は翠恋の手に当たったのだ。


「走れ!!」


ルシオラの声と同時に、瑠奈は前屈みになりながら戸惑う翠恋を尻目に、一気に駆け出して泪達の側へ駆け寄る。泪とルシオラに、すぐに前を向き翠恋へ視線を向ける。


「三間坂···。あんたそこまで···」

「···どうしてよ。なんで、なんでよ······。なんであんたがっ!!」


瑠奈に逃げられた翠恋は、すぐに落とした拳銃を拾い、再び銃を構え直す。握った拳銃の銃口を再び瑠奈へと向けるが、同時に放たれた翠恋の叫びは、半ば泣いているようにも聞こえた。


「あたしがここに来る事になったのも、泪があんな風になったのも、みんなあんたのせいじゃないっ!! あんたは真宮先生や琳も裏切った癖に! 自分にばっかり調子のいい事言わないでよっっ!!!」

「なっ? ちょ、はぁっ!?」


翠恋は完全に、充の発言を鵜呑みにしてしまっている。瑠奈は一瞬唖然とした表情になっていたが、銃を突き付けられているにも関わらず、すぐに不満げな顔で翠恋を睨み付ける。


「さっきからあんたの言ってる話の内容が、全然訳分かんなくなっていってるわよ。どう言う事か分かるように説明してよ!? いつあたしが琳と茉莉姉を裏切ったの!?」


瑠奈自身が身内である琳や茉莉を、裏切ったなどと全くもって初耳だ。一体充は事情も何も知らない翠恋へ、どんな狂言を吹き込んだのだ。


「あんたに説明する義理なんて何にもないのよ。いちいちうるさいわねっ!! 泪の事なんか何にも知らない癖にぬけぬけと! ル、ルシオラだったっけ? あんたもそいつに騙されてるのよっ!! そいつはヘラヘラ笑いながら、惨たらしい人殺しする悪魔よ!! こいつは何の罪もない人達を見下して、ヘラヘラ笑って殺す最低最悪の人殺しなんだからねっ!!」

「貴様······」


泪だけでなく、今度はルシオラをも味方に付けようと言うのか。しかもさっきから自分の事を、最低最悪の悪魔だとか酷い言い草だ。しかも人殺しに至っては最早、完全に冤罪の領域だ。


「ふっ···ふ······ふふふ·········。ふ、ふ、ふっ······ふざけんじゃないわよっっ!! 自分の勝手な思い込みだけで、殺人犯の冤罪被せんのも大概にしなよ!! 大体あたし中学通ってた三年間。勇羅や榊原君と同じ中学だったし、お兄ちゃんの中学時代の事だって、あたしはほとんど知らないんだから! あんたと同じ中学でもないあたしが、あんたの中学時代も知ってると思ってんの!? 嘘だと思うなら、勇羅か榊原君にでも聞きなさいよ!! 何なら榊原君が中学からひた隠しにしてる黒歴史、今この場であんたにも語ってあげようか!?」


「しっ、知らな? なっ、え、え······っ? さ、榊原の黒歴史ぃ!?」


勇羅と同じ中学や、泪の中学時代を知らないと言う、瑠奈の予想外の発言に、今度は冷や水を浴びせられたかのような、激しい同様を見せる翠恋。翠恋の目を覚まさせるには、最早正当な手段なんて選んでいられない。瑠奈は三年間、勇羅や麗二と同じ中学に通っていた事は、既に泪も知っている。泪が【真宮瑠奈】と再会したのは、中学三年の数ヶ月前だ。ちなみに黒歴史とは麗二の趣味の事。麗二の本来の趣味は瑠奈以外には、彼と最も付き合いの長い勇羅しか知らない。


麗二の趣味は、成績優秀運動神経も抜群かつ、容姿端麗沈着冷静な一年生で通っている、麗二のイメージが確実にひっくり返される代物だ。麗二本人からは絶対言うなと釘を刺されていたが、翠恋に信用してもらう為に、ここは麗二に犠牲になって貰うしかない。


「······おやおや。泪君を絶望のドン底へ堕とした忌々しい魔女が、また意味のない嘘をおっしゃって。騙されてはいけませんよ翠恋さん。彼女の発言は全て偽りなのです。彼女の発言そのものが全て、意味をなさない下らない虚言なのです。彼女は忌まわしい虚言を巧みに操り、大いなるファントム総帥ルシオラをも取り込んだ、醜く薄汚い魔女なのですから」


戸惑う翠恋に、充は瑠奈の言う事は全て間違いであると、翠恋へ優しく諭すように言い聞かせる。充の言葉の一つ一つには、おぞましい毒がある。他者へじわりじわりと染み込ませようとする、劇薬に等しい毒だ。


「充、貴様はどこまでも···」

「私はいつでも真実しか述べていませんよ。彼女は異能力者集団の総帥である、あなたをも(かどわ)かした魔女ではないですか。異能力者達の希望。偉大なるファントム総帥を、おぞましい猛毒で寵落した忌々しい魔女」


「あ、あたし······。あたしは·········っ」


充に瑠奈の言葉は全てが虚言と言われても、翠恋はまだ混乱している。お互い仲が悪いと言え、今まで真っ正面からぶつかり合いをして来た瑠奈に、自分や泪の中学の事を知らないやら麗二の秘密やらと、ここまで明確にズケズケと言われてしまっては、瑠奈が完全に嘘を付いているとは思えないのだろう。


「翠恋さん、彼女の言葉には絶対に騙されてはいけません。さぁ、早く。恐ろしく忌々しい猛毒の魔女から泪君を助けないと。泪君はあの魔女に騙されているのですよ。あの忌々しい猛毒の魔女から心身を壊され、隅から隅まで歪められた泪君を解放出来るのは、あなたの無垢で純粋な愛だけなのですから」


「ま······まっ。ま、まっ·········真宮あああああぁぁぁっ!!」



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