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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
265/283

119話・瑠奈side

※警告!!


この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件には一切関係ありません。


瑠奈編119話には暴力・犯罪・グロテスクな描写及び精神的に不快を催す描写がございます。内容に不快を催されましたら、直ちにブラウザをバックするようにお願いします。

























































自分の身体の状態が、もはや長く持たないにも関わらず、異能力者の能力暴走と似たような現象の、膨大な思念を放出する寧々は、長い髪を振り乱す。寧々の長く伸びた黒い髪は、艶やかとは程遠い位に酷く乱れ切っている。入院生活で長い間日光に当たっていないのか、青白くなった肌と相まって恐怖すら感じられる。


「ぱふくんっ! ぱふくんっ! ぱふくんっ! ぱふくんは渡さないぱふくんは僕だけの恋人···ぱふくんは僕だけの···ぱふくんは永遠に僕だけの恋人なんだから!!

ぱふくん、ぱふくん、ぱふくん、ぱふくん···ぱふくんぱふくんぱふくんぱふくんぱふくんぱふくんっ!! 僕は僕は僕は僕は僕は僕はあああああぁぁぁぁぁ!! うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


寧々は己の身も構わず、衝撃波の如く思念を放出し続ける。寧々から放出され続ける膨大な思念波は、元は『普通の人間』だった寧々を、サイキッカーだと思わせる程だ。


「あ、あんな念動力の使い方ってあり!? 千本妓さんの症状的にも、全然歩ける状態じゃないのに···。あんな念動力の使い方、普通の異能力じゃあり得ないよっ!」

「···はっきり言って無茶苦茶です。異能力者としての適性もなく、尚且つ薬物で衰弱しきった身体に、無理矢理念動力を注入された事で、脳の制御による肉体のタガも外れているのでしょう。今の彼女は常時火事場の馬鹿力状態です」

「か、火事場の馬鹿力···っ」


具現化させた光輪を前方へ展開し、強大な思念波を防ぎながら驚愕の表情を浮かべる瑠奈と、呆れと哀れみが混じった複雑な表情を浮かべる泪。制御の練習で光輪を具現化出来るようになったとは言え、瑠奈の力では脳のタガが外れた、寧々の思念波を防ぐのが精一杯だ。


「あの状態では、完全に自我を失なっていると見て構わないな。能力者としての適性がなく、しかも薬物で衰弱した身体に、無理矢理念動力増幅剤を、投与された副作用も同時に併発している。身体が脳の制御から外れている以上、強制的に意識を失わせる事も困難だ。······どの道、奴の息の根を止めるしか方法はない」


瑠奈や泪同様に光輪を展開しながら、冷静に分析するルシオラ。家族に捨てられた挙げ句周りにも弄ばれ続け、完全に壊れてしまった寧々を救うには、最早命を奪うしかないと言う訳なのか。


「ははははははっ、これはこれは···これは素晴らしい!! これならば我々政府の人工異能力者計画の研究も、更なる研究の発展が見込めますよ!!」


暴走する寧々を見ながら、強大な思念波を放つ寧々の後ろで、愉しげに笑う充を瑠奈は睨み付ける。


「···あんたが千本妓さんをあんな風にした癖に」


瑠奈自身は寧々に対して、特別に情を持つ理由もなにもない。それでも彼女は玖苑充の、非人道極まりない異能力実験の被害者である。人間の命を何とも思っていない、充にだけは言い返さなければ気がすまない。


「瑠奈。あの悪趣味な中年に、罵詈雑言を放つ必要はありません。奴には何も言い返す価値もない」

「同意する。奴は人の心など持たない外道だ」


人間を人間とも思っていない充のやり口に、泪やルシオラも腹を据えかねている。


「おやおや、貴方達も酷い事を言いますねぇ。私はただ単純に彼女を、『千本妓寧々が思い描く理想の彼女(ねね)』に仕立てただけですよ。家族にも捨てられた彼女を、こうして拾った私に感謝して頂きたいものです」

「······下衆が」


泪は普段の穏やかな思念とはまるで違う、殺意の籠った思念を放ちながら充へ向かって、憎々しげな声で吐き捨てる。寧々の身体から放たれる思念波は、ますます強くなっていく。恐らくは脳神経のリミッターも外れているおかげか、寧々自身が後先の事など全く考えていないのだ。


「ぱふくん···ぱふくん···ぱふくん···ぱふくん···っ。僕はぱふくんのヒロインに···僕だけがぱふくんのヒロインになるんだ···僕は世界で可愛そうな女の子···。ぱふくんに愛される、健気で可愛くて可憐なヒロイン···僕はぱふくんだけのヒロインだよ······。僕は悪くないよ···僕は悪くない···僕は悪くない···僕は悪くない···僕は悪くない······僕をいじめるみんなが悪いんだよね」


支離滅裂な発言をブツブツと呟き続ける寧々。不気味さに反比例して、彼女から発せられる思念はますます強くなっている。



「思念波が強すぎて、あんな状態じゃ近づけないよ」


「そう、僕は悪くないっ!! 僕は世界で一番可哀想なヒロイン!! 可哀想なヒロインだから何をしても許されるんだよっ! 僕は世界で一番可愛い女の子っ! 僕は世界で一番可愛いんだっ!

そして僕は強いっ! 僕は凄く強いんだ!! 僕は強い!! 僕は最強のヒロイン何だああぁ!! 僕はヒロイン!! ヒロインなんだよ!! 可愛いヒロイン!! 僕は世界で一番可愛い健気な最強ヒロインなんだあああああああぁぁぁ!!!!!」

「うわっ! あ、危ないっ!」



寧々から再び思念波が放たれる。襲いくる思念波に対抗し、瑠奈達もまた、瞬時に思念の力で防御の幕を張る。


「僕の···僕の可愛いヒロインパワーを見せてやるんだあああああああぁぁぁ!!! 僕の可愛い健気なヒロインのパワーは、すっごく絶対無敵なんだああああああああああああ!!!!」

「ち、ちょっと何を言ってるのかついてけない···。まさか千本妓さん。今の現実と自分の中の妄想の区別がついてないの?」


膨大な思念を放ちながら、支離滅裂な発言を繰り返す、目の前の寧々に呆然となる瑠奈。こんな状況下ですぐに判断する方こそおかしいのだが、最早寧々の精神は正常ではないのだから。


「まずは僕の可愛いヒロインアタック!! 僕の可愛い正義のヒロインの攻撃は絶対に当たるんだから!! 最強ヒロインの絶対無敵の可愛い攻撃をくらええええええええええええっっ!!!!」

「······っ」


こんな状況下においても寧々の発言に、瑠奈だけでなく泪の表情までもが歪に引き吊っている。ルシオラは相変わらず無表情だが。


「な···何でかわすんだよおおお!!!? 僕の無敵攻撃は当たって当たり前なんだからああ!!! 僕の攻撃は絶対完全無敵なんだから!! 僕は可愛いヒロインだから何も効かない!! これが僕の無敵ヒロイン最強バリアだあああああああああ!!!!」


バリアだと叫んでいるが、寧々の両手から放たれるのは増幅剤により、人工的に生み出された念動力による思念波だけだ。


「泪。奴の動きを止められるか」

「···出来ます。彼女のあの様子だと、思念を直線状にしかぶつけられない様です。脳の制御が外れているとは言え、過度に動く事は出来ないでしょう」


異常な状態の寧々を見せつけられても尚、二人共冷静だ。泪も表情こそ引き吊ってはいるものの、的確かつ正確に寧々の状態を分析している。彼女は人工的に生み出された歪な力によって、思考だけでなく自分の意思すらも、破壊されてしまったのだ。


「瑠奈、彼女の思念波から全力で防御してて。絶対に力を緩めちゃ駄目だ」

「うん」


瑠奈も指示通りに前方へ光輪を展開し、いつでも寧々の思念波を、防御出来るように準備する。



「僕は可哀想なダークヒロインなんだ!! 可愛いダークヒロインに恐れるものは何もないよ!! 僕の暗黒微笑は無敵っ!! 僕の暗黒微笑で敵もやっつける!!

僕のクールな暗黒微笑でぱふくんの敵はみんなやっつける!! 僕が本当の可愛くて可哀想なヒロインなんだから!! 僕は強くて可愛い絶対無敵の最強ヒロインなんだああああああぁぁぁっ!!」

「暗黒微笑って何!? それ明らかに主人公の言う台詞じゃないよ!!」



深夜アニメやライトノベルなんかで、出てきそうな台詞を放ちながら、寧々の全身からまだまだあり得ない量の思念波が放たれる。あらかさまに殺気立った思念を放たれているのに、こんな状況下でも訳の分からない突っ込みをする、瑠奈自身もどうかとは思う。


「なんて···滅茶苦茶な···」

「···彼女のあの状態から、どのような外道な実験を受けたか知れている。既に周りの状況を認識できない程、精神すらも完全に破綻してしまっているようだな」


寧々の状況を見て、泪とルシオラは何かを悟っている。先ほどから瑠奈達と寧々との会話が、全く噛み合っていないのだから。


「僕がこの物語の···僕こそがこの作品の絶対最強ヒロインなんだ!! 僕は健気な娘···僕は儚げで全部が何もかも可愛いんだよ!! 僕の暗黒微笑はすっごく可愛い!!

僕がこの物語の本当のヒロイン!! 僕こそが作品の真のヒロイン!! お前はブス!! ブスブスブス!! お前はブスブスブス何だよっ!! 世界中の可愛くない気持ち悪いデブスはみんないなくなれええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!」

「うわっ!」


支離滅裂な言葉を発しながら、寧々は瑠奈へ向けて思念波を放つ。瑠奈はとっさに光輪を前方へ展開し、全力で光輪に思念を集中して寧々の思念波を防ぐ。後数秒ほど出すのが遅れていたら、確実に瑠奈は吹き飛ばされていた。


「あっ···。危なかったぁ······」

「あの念の使いようから、充は完全に奴を使い捨てる気らしいな」


「僕はヒロインだから負けない!! 僕のヒロインパワーは負けないっ!! 僕のヒロインパワーは永遠になくならないから!! 最強絶対ヒロインのパワーは無限大!!」


寧々の放つ思念波の威力が、普段の異能力者が放つものとは明らかに越えている。改めて玖苑充と言う男の、非道さを目の当たりにする。



「彼女の攻撃方法から見て、思念波一つだけのワンパターン戦法なのが、救いと言いたい所ですが···。正直それしか力が使えないのでしょうね」

「さっきから念動力だけで、異能力を使ってこない···。まだ完全に覚醒してないの?」


「いいえ。彼女に投与された人工異能力増幅剤は、あくまで実験段階で未完成のものです。増幅剤の投与によって、使えるのはあくまで念動力だけ。僕達が個々に持ちうる、異能力そのものは決して使う事は出来ません。さっきも話したけど、研究所の人工異能力増幅剤はまだ実験段階。増幅剤が実験段階でもある以上、未完成のものを投与された時点で彼女はもう···」



増幅剤では念動力を使えても、異能力は使うことは出来ない。充を始め異能力研究所の人間達は、異能力者だけでなく人工異能力者すらも、使い捨ての道具としか見ていないのだ。



「僕がこの物語のヒロイン!! 僕がこの作品の真のヒロイン!! 僕が全ての作品のヒロイン!! 世界で一番可愛い最高のヒロインはとっても強いんだっ!! 僕が世界で一番のヒロイン!! ヒロイン!! ヒロイン!! ヒロイン!! ヒロイン!! ヒロイン!! ヒロイン!!」



瞳孔が完全に開ききった寧々の目が、限界まで見開かれると同時に、寧々の身体からは更に思念が増していく。これまで一滴も汗をかいていなかった泪やルシオラも、寧々の異常な思念波を受けた緊張感により、頬から数滴の汗を流していた。


「······」


寧々はまさに最悪の形で、異能力研究の実験材料として、使い捨てられようとしているのだ。



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