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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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114話・瑠奈side



「う、宇都宮の連中が。私をジョーカーの参加者に、選んだって言うの···?」


まさか自分までもが、裏社会ゲームの参加対象に選ばれていたとは。ジョーカーは裏社会の事情とは無関係の人間をも、ゲームの対象にすると聞いていたが、瑠奈自身がそのゲームの参加対象に、選ばれていたとは思わなかったのだ。


「······だけど、出来なかったんだろうな。【聖域】の人間の報復を恐れて。そして宇都宮が本来の参加者である瑠奈の代替として、ジョーカーに参加したのが奈留だ」

「お兄ちゃん···。その。『私を殺した』···、って」


「·········そうだ。僕は一年前のジョーカーで、『奈留』を殺した」



泪の口から、はっきりと奈留を殺した。殺したと告げる泪の声は震えていた。自分の複製体と言え、瑠奈と同じ顔と声をした人間を泪は殺したのだ。



「ルシオラも研究所の実験の一環として、例のゲームに参加していた。これも本人から聞いたんだが、彼も自分を慕ってくれていた仲間を殺した。ルシオラが参加した際のゲームの組み合わせは、ゲームの運営に関わっている宇都宮が仕組んだ事だ。


始めはジョーカー自体が、てっきり宇都宮の連中が主催だと思っていた。だが僕のゲーム内での過剰な行為が、他の運営メンバーが、宇都宮一族の過剰なゲーム介入を危惧したんだろう。今は運営から直々に参加停止を通達されたよ。宇都宮の方も孫娘の件を持ち出された以上、受け入れざるを得なかったようだ。目的の為なら、殺人をも躊躇う事なんてしなかったけど、運営から直接停止を言い渡されたからには仕方がない」


「······まさか」

「その姿を見た参加者は最後。ジョーカーと言う殺人ゲームを、勝ち抜いて生き延びる事すらも許されない。ジョーカー最強にして最悪のプレイヤー。······運よく生き延びる事が出来た、過去のゲーム参加者達の間で噂されている、最強最悪の『殲滅者』は僕の事だ」

「!?」



泪がジョーカーに参加していた事自体は、鋼太朗とファントム支部へ訪れた時に聞いていた。当然殲滅者の事も、ルミナから噂程度には聞かされている。それでもゲームから生きて帰ることの出来ない、殲滅者とは何を意味するのだろうと思っていた。泪がゲームの参加者から恐れられているとは、どのような意味を現しているのだろうか。



「僕が参加者から恐れられていた、殲滅者だと言う事は、ルシオラも鋼太朗もとっくに知ってる筈。宇都宮一族は単純に僕を苦しめる為だけに、何度もゲームに参加させていたが、本来の目的を果たしたい僕からしてみれば、裏の世界で合法的に、非合法の行為を行えるジョーカー自体が、格好の死に場所でしかなかった。


僕は宇都宮の命令によって、ゲームに参加する度、奴らから理不尽な仕打ちも受けていた。僕はジョーカーゲームへ参加した者を、異能力者や一般人関係なく、参加した者全員を一人残らず殺していった。僕がゲームの参加者を次から次へと殺していく度、宇都宮はゲーム参加者の面子に工夫を変えたり、僕の生還する条件をますます厳しくしていった。


ただ。ジョーカーはどんなに、参加者の生還の条件を厳しくしたとしても、参加している者を殺しさえしてしまえば、生還の条件は簡単に満たされてしまう。参加者の拉致を始めゲームに関わる全ての出来事を、ジョーカーが行われる度、当たり前のようになかった事として、ジョーカーの証拠を隠ぺいする。当然それは開始前に、参加者全員に伝えられ、結果的に参加者同士による殺人すらも許されてしまう。どんなに運営がゲームのルールに介入しても、プレイヤー殺害の変更だけは、どうしても変える事が出来なかった···」



弱い者は生きる事を許されず、強い者が生き延びる事を許される。いつの間にかジョーカーと言う、裏の世界の非合法の殺人ゲームそのものが、泪にとって格好の死に場所になっていた。そして泪は自分の目的を果たす為だけに、参加者達を殺したと平然と語っている。【自分の望みを叶える為】だけに泪は殺しを厭わぬ殲滅者となった。


「じ、ジョーカーの本当のルールって···」


瑠奈の身体がカタカタと震えている。泪は淡々と自分が殺人を犯した事を語っているのだ。


「······やっぱり二人共。瑠奈には黙ってたんだな」


身体を振るえさせる瑠奈を見て、泪は困ったような表情をする。ルシオラや鋼太朗もジョーカーの詳細については、固く口を閉ざし泪が最悪のプレイヤーとして、参加していた事以外は教えてくれなかった。鋼太朗もルシオラも殲滅者としての泪の素性には、頑として口を濁していたからだ。



「ジョーカーに生き延びて勝つ事が出来れば、運営によって莫大な賞金が手に入る。表の世界で迫害され、生きる場所を失った異能力者達も、生活や己の存在を誇示すると目的として、裏の世界を通して積極的にゲームへ参加していた。


最も裏社会の財界では、参加者の誰がゲームに生き残るかで、賭けが行われていたよ。当然裏の世界を知らない一般人。か弱いもの。ゲーム経験の浅い者には、特に高い賞金が賭けられる。参加者に賭けられた資金は、賭けの対象が死亡すれば当然運営に入り込む。逆に賭けの対象がゲーム勝ち残れば、賭けられた賞金を全て受け取る事が出来る。


彼らの賭け事は専ら、限られた空間内で行われるゲームを、参加者の目が届かない、安全な場所で常に見物している。実際ゲームが行われる場所には、普通の人には見つける事が困難な小型カメラが、至るところに仕掛けてある。弱いものが追い詰められる場面。奴らにとって格好の見せ物でしかない」



ジョーカーは表の世界で居場所を失った、異能力者達の最後の砦。そして裏の世界を知る人間にとって、他人の命を賭けにした格好のギャンブル。


「さっきも話した通り、宇都宮一族もジョーカーの運営の一部に関わっていた。隙あらばゲームの運営全てを、自分達が牛耳ろうとしていたようだが、他の運営メンバーは、宇都宮一族のゲーム掌握だけは、決して許さなかった」


泪の話の内容だと。宇都宮一族もゲーム運営の掌握を、水面下で目論んでいたようだが、運営メンバーは宇都宮がゲームを支配する事だけは許さなかったらしい。



「宇都宮の連中がお兄ちゃんを、ジョーカーに参加させてたのは···」

「自発的に参加した事は一度もなかった。数回目の参加から運営側も、僕の無差別な殺戮行為に、難色を示してたらしい。だけど、宇都宮の嫌がらせを含めると、過去数十回以上はゲームに参加している。もちろん、生還の条件を満たしている、殺さなくても良い者も沢山殺した。僕が意味もなく参加者を殺し続けたのは、無意識に宇都宮への報復も兼ねていた。


最後の参加は丁度一年前···。宇都宮は異能力者の受け入れが進んでいる、神在の包囲を掻い潜り、数年掛けて僕の居場所を探し当てた。宇都宮は僕に接触し、暁へ戻る事を要求してきたよ。始めは、自分がいる証拠を、残し過ぎている状態で暁へ戻る事は出来ないと拒否した。だけど和真先輩達の事をダシにされた。最終的に神在へ滞在する事を許されたが、代わりに僕の本来の素性を、先輩達に明かさない事を条件に、和真先輩達や神在市内の情報を提供しろと···」



やはり泪は宇都宮一族によって、半分脅迫の形で再びゲームに参加していた。泪自身も不本意とは言え、最悪勇羅や和真達の情報も、宇都宮一族の手に渡ってしまっている。そして意味のない殺戮は、生まれてからずっと自分を、理不尽な目に合わせ続けた宇都宮一族への報復であるとも語る。


自分が二度と元の居場所に、戻れない事であると理解して。


「それでも宇都宮は、僕を完全に追い詰める事だけは出来なかった。僕と関わりを持っていた瑠奈の家族や、和真先輩に宇都宮以外のジョーカーの運営達が、瑠奈達に手を出す事に難色を示していた。宇都宮はともかく他のジョーカー運営達は、和真先輩の周りの人間に手を出せば、自分達のゲームが潰されてしまうと、本能的に理解していたようだ」


勇羅や麗二からの又聞きだが、和真や京香は海外なら五本の指に入る位有名な、大企業の会長に就任している祖父を持っている。彼らをゲームに巻き込んでしまったら最後。最悪の場合、自分達運営メンバーだけでなく、ジョーカーそのものが公の場に曝され、潰される事は免れないかもしれない。結果的に本家へ逃げられてしまったが、事実和真を怒らせた宇都宮夕妬は、自身が執着していた相手に、永遠に会えなくなる因果応報を食らったのだ。



「慈悲のない殲滅者として、ジョーカーゲームの中で暴走を続ける、ある種宇都宮にとって、都合の良い僕の存在を。これ以上参加させない事に反発した宇都宮が、僕の参加に反対する運営側によって、引き合いに出されたのが、異能力者でもある宇都宮小夜だ。宇都宮当主は、孫娘の本来の素性を明かす事に、当然猛反発した。それ以上に僕が一般の参加者を殺し過ぎた事で、【聖域】がゲーム生存者の証言を基に、ジョーカーゲームそのものを潰す計画が、聖域の側で徐々に動き始めている情報を、運営が掴んでいる事が決定的になった。


もし聖域がゲームを潰す為に、国内外に配属している聖域の構成員達が、本格的に動き出したら、運営側もゲーム参加者失踪の証拠隠ぺいに対する、手の内ようがなくなる事。宇都宮は孫娘の素性を明かさない事を条件に、結局は僕のジョーカー参加停止を、受け入れざるを得なかった」

「······」



泪は自分の目的を叶える為だけに、何の罪もない一般の参加者を殺しすぎた。泪が二度と日常へ戻れない理由は、ジョーカーの存在が表の世界晒されてしまえば、ゲームに参加した自分達も罪を免れないからだろう。


「ゲームの参加者は、国内外から無差別に選ばれる。参加者の選抜に表も裏も、年齢も性別も関係ない。ゲームの詳細を一切知らない、一部の参加者は、当然拉致の形で会場へ連れて来られる」

「聖龍は?」


無差別拉致と言うと、聖龍の失踪事件しか思い浮かばない。あれから勇羅達と聖龍の事件でも色々調べたが、夕妬が暗躍する以前にも、東皇寺学園を始めとした、学園都市周辺で数十人もの人間が失踪していたようだった。


「違う。奴らは男性も女性も関係なく、運営によってゲームの参加者として選んだ人間を、無差別に拉致している。元々聖龍の事件は、女性ばかりが連続して狙われていた。何よりも聖龍事件の失踪者は、今だに見つかっていないらしい」

「······」


勇羅達や泪の言う通り、聖龍事件の失踪者は今も見つかっていない。しかも聖龍による、最後の被害者の失踪事件から、かなり時間が経っていて、失踪者達の手がかりも皆無である含め、全員の捜索が打ち切られるのも、時間の問題だと言う。これまでの事件の情報と合わせてみても、彼らが起こした失踪事件は、老若男女を問わないジョーカーの参加者拉致とも、辻褄が合わなさすぎる。


「それじゃあ、数ヶ月前に起きてる原因不明の殺人事件は? まさかあれにジョーカーの運営が―」

「あの事件にゲームの運営達は関わっていない。彼らは参加者を捕らえるのは迅速に行っているし、何よりも拉致の証拠を残すことはしない。運営の連中はとにかく、自分達の顔を出す事を嫌う。宇都宮一族を除いて」


あの不可解な連続殺人事件は、ジョーカーの運営が行っている訳でもないようだ。それでは一体、誰があの殺人事件を起こしているのだろうか。


「それから···。今のジョーカーの話とかで、ずっとはぐらかされてるんだけど······」

「何?」




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