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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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111話・瑠奈side



―ファントム支部・客室。



眩しさを感じた瑠奈は、うっすらと目を開ける。精神侵入の能力を使い意識を失った瑠奈は、いつの間にか客室のベッドへ移されていたようだ。まだぼやけている視界からは、椅子に座っているルシオラの姿があった。


「目が覚めたか···」

「······ん」


瑠奈が目を開けた事で、声を掛けるルシオラ。ルシオラの声に反応したのか、瑠奈はゆっくりとベッドから上半身を起こし、部屋の周りを見渡す。とんでもない目に遭ったが、幸い身体にはなんの異常も見られない。どうやら精神世界からの脱出に間に合ったらしい。隣のベッドには同じく、客室に運び込まれた泪が眠っている。さっきまで全身を成すがまま、刃物に刺され続けた泪は、血塗れの筈だったのだが、泪にも何の異常はなく、安らかな寝息を立てて眠っている。今の瑠奈が理解出来るのは、泪の防衛規制の破壊に失敗した事だ。


「私。お兄ちゃんを···」

「泪の精神世界の事だが···」


ルシオラの表情は相変わらず変わらないが、声に何か含みのあるものを感じた瑠奈は、無意識に怪訝な表情になる。


「? な、何か···あったんですか?」


結局瑠奈は、泪の狂気的な破滅願望に勝てなかったのだ。防衛規制を排除したと思ったら、ありとあらゆる全てが泪を傷つけたと言う現実。自分を躊躇いなく傷付けた瑠奈を、泪は狂ったように嘲笑し、絶対に救われない現実を泪は肯定し、『自分は救われない現実を現実として』全てを受け入れた。そして瑠奈は、絶対に救われない泪自身を、完全に否定してしまった。俯き塞ぐ瑠奈を見かねて、ルシオラは口を開く。


「これは、信じられない話なのだが···。君を精神世界から、強制的に引きずり出した直後。彼の精神世界は元の状態に復元されていた」

「う、嘘······っ。そんな事、が···?」


ルシオラからの予想もしない返答に、瑠奈は反射的に目を丸くする。瑠奈は泪の精神世界が崩壊していくのを、自分の目で見たのだ。だが崩壊した精神世界が、元の状態へと何事もなく、復元されたなど聞いた事がない。


「精神破壊能力を間近で受けた、我がファントムの能力者···。あの後、彼女がどうなったかは。もう知っているな」

「は···はい」


他者の精神を一方的に破壊する、恐るべき能力を持つ異能力者狩り唯一の能力者の少女。彼女の能力を直に受けた異能力者の女性は、既に寝たきりの状態になってしまったと聞いた。ルミナやクリストフからある程度話を聞いているが、この支部では外的な治療はともかく、精神に関する治療そのものはまともに受けられない。


「精神破壊を受けた彼女の精神世界は、完全に崩壊してしまっている。どんな精神干渉能力者の者が干渉しても、手の施しようがない程に···」

「彼女は?」


「···精神が崩壊してしまっただけではない。奴の能力制御が致命的に不安定なのが、彼女に致命傷を与える事になっていたのだ。精神の破壊と同時に脳の神経までもが、精神破壊の能力でズタズタにされてしまった以上、意識を取り戻す事すら絶望的だと」

「···そんな」

「奴らは女が自分の能力を、自力で安易に制御出来ない事を意図的に利用し。常に最大限に発揮出来る状態で、女に力を使わせているようだ」

「······」


言葉が出なかった。精神破壊の能力を受けた異能力者は、脳の神経までもやられてしまったのか。しかも少女が能力の制御を出来ない事を想定し、精神破壊の異能力を全力で発動させている。


「奴の能力を間近で見た以上、泪の状態にも引っ掛かりを感じた。あの時、泪も奴の精神破壊の能力を直撃で受けたのだ。しかし泪の精神世界は、奴の干渉を受けたにも関わらず、何の異常も見られなかった。彼の精神世界は自分の防衛規制を···。いや、己の精神世界を破壊される事すら想定して、構築されていたようだ」

「まさか、そんな···。そんな事って···」


防衛規制や精神世界の破壊を想定した、精神世界の構造など、瑠奈は全く聞いた事がないし、正直言って初耳である。


「これは私の予測なのだが···。彼の異質な精神世界の構造は、異能力研究所で行われた、異能力実験の一貫かもしれん」

「!······お願いします。聞かせてください」


泪の精神構造の異常が、異能力研究による実験と聞いたら、それならば更に詳しく聞きたくなる。瑠奈自身も、自分自身の能力をまだ完全に把握していない。防衛規制の排除を想定して、実験を受けていたのなら、もう一度泪の精神世界に介入しなければいけない。


「精神世界と言うものは、脳波や脳神経と言った脳全体の機能と、密接に関わっている。簡単な話、脳が正常であれば精神世界には、表層から深層へと繋がる為の断層が出来ている筈だ」


精神世界は脳と深く関わっている。精神世界を思うままに干渉出来る、瑠奈にとっても未知の知識だった。


「君は泪以外の相手にも、精神干渉の能力を使用した事があると言っていた。その時、君はどのような世界を見た」

「あっ···」


瑠奈は家族の精神世界に、干渉した時の事を思い浮かべる。両親や茉莉の精神世界に干渉した時は、あくまで精神の表層部分。他人の心の中ではあるが、見ているものがあまりにも非現実的で、今まで相手の嫌な部分を覗いている、と言う感覚がなかったのだ。


「今までの干渉は、非現実的なものばかり見ていました。なんと言うか、口では説明しづらくて···。自分の目で見た方が分かるものとか、そんな感じです。その時は私自身も、必要以上に精神世界に干渉しなかったので」


今まで見てきた精神世界の内部が、口で説明しづらいのは本当だ。これまでは単に興味本位で、相手の心の中を覗く事が目的だった。当然普段使うなと言い付けられた能力を、勝手に使ったので監視役兼共犯者の琳共々、家族や茉莉にこってり絞られたが。


「君が今まで見ていた精神世界は、あくまでも表層意識の部分。泪の精神世界へ干渉した時は、普段簡単には干渉出来ない、精神世界の深い所。深層心理の部分へ潜ったと聞いた。あくまでも私の推測なのだが、恐らく対象の深層心理に近付けば近づくほど、君が見る相手の精神構造も、より現実的なものに近づいていくだろう。そして対象の本質に触れる部分であるが故に、干渉する事も困難であると」


これは茉莉にも指摘されたが、泪の精神世界へ干渉した時は、精神の深い部分へと干渉した。瑠奈が見たいと思っていたのは、泪本人にとって見られたくないもの。だが泪は瑠奈が思っていた以上に、重いものを背負って生きていた。



「私が研究所で受けた実験では、精神に関わる研究は、ほとんど行われていなかった。世界機密とされている国内の研究所で行われている、異能力実験の半数以上が、非人道極まりない肉体的な実験を、拘束した異能力者達に強いているのだから···。だが異能力研究が、この国内で頭一つ以上進んでいた暁なら、脳や精神構造に関する、異能力実験が行われても、不思議ではない」


「そんな事が研究所で···」

「自我を破壊された時点で、本来ならば脳神経にも異常をきたし、精神そのものにも必ず異常が起こる。精神世界が再構築されるなどあり得ない。もし暁が独自に精神干渉の異能力研究を、進めているのならば彼の精神に、何らかの反応をもたらしている可能性はある」



ルシオラの話を聞き、瑠奈の中で泪の精神世界の中での、ある疑惑がいくつも浮かびあがる。


「そして赤石泪の防衛規制。本当の泪に精神世界内で、強い権限を与えられても、本物の泪の精神に致命的な傷を追わせる事だけは、絶対にしなかった」


泪本人の防衛規制。泪自身に致命傷を負わせなかったとは、泪にとって本当に嫌な事を、防衛規制と共に意図的に避けているのだろうか。


「泪に致命傷となる傷を追わせれば、君に消される事を本能的に理解していたのだろう」

「私が?」

「···そうだ。泪の過去を再現している場所に、『真宮瑠奈』だけがいなかった。精神世界内は当然、現在だけでなく過去の記憶も反映している。彼自身の潜在意識が、奥底で願っていたのだろう。『瑠奈にだけは傷付けられたくない』と」


精神世界内の廃墟を散策した時間は、決して長くなかったものの、瑠奈の見知った人間が次々と泪を傷付けていた中で、何故か自分だけがいなかった。本当の泪の心の奥底では、瑠奈だけは自分を傷つけないと願っていた。


「仮に君に傷つけさせたとしても、君だけは自分を傷つけない。自分が傷つけば君が傷つく事を理解していた。だが君は躊躇いはしたものの、泪の防衛規制の警告を無視し、結果的に泪の防衛規制を排除した。彼の潜在意識に、何らかの変化はあると思って構わない」

「······」


瑠奈自身が、泪の防衛規制を直接排除した事で、泪の心情に変化を起こしている可能性がある。少しの間沈黙していると、ベッドで眠っていた泪の瞼がゆっくり開かれる。


「瑠奈······?」

「お、お兄···ちゃん?」



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