110話・瑠奈side
※警告!!
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件には一切関係ありません。
瑠奈編110話には暴力・犯罪・いじめ・グロテスクな描写及び精神的に不快を催す描写がございます。内容に不快を催されましたら、直ちにブラウザをバックするようにお願いします。
瑠奈の周辺からは、地面やら建物。水色の空が破片となって剥がれ、ガラガラと崩壊していく轟音が、次から次へと響き渡る。泪の動脈を切った瞬間、大量の鮮血を浴び半身が血塗れになった瑠奈は、茫然となえい地面へ座り込みながら目の前の泪を見る。
「ふ······ふふっ······。うふふ···ふふ···ふふふっ···。あはっ、あははは······あはははははっ、はははははははははっ!! あはははははっ!! あはははははははははははっ!! あーーっははははははははは!! ははははははははははははははっ!!」
泪は首筋から大量の血を流し、狂ったように笑っていた。泪の血を浴びた瑠奈が、今まで見たこともない表情で笑っている泪を見つめる。瑠奈の目から見て、普通ならばとっくに死んでいてもおかしくない量の血を、いまだに首筋の傷口から噴き出しているのにも関わらず、泪は死ぬ事なく血を流しながら笑い続けている。
【お前は誰にも愛されてはいない!!】【お前は誰にも愛されてはいない!!】【お前は誰にも愛されてはいない!!】【お前は誰にも愛されてはいない!!】【お前は誰にも愛されてはいない!!】【お前は誰にも愛されてはいない!!】
「!!」
暗闇のどこからかともなく、泪の全てを否定する声が吐き出される。泪を否定する声には、瑠奈が聞いた事のある声も当然のように交じっている。
【お前はこの世界に生きてはいけない生塵!!】【お前はこの世界に生きてはいけない生塵!!】【お前の生きる価値などどこにも存在しない!!】【お前は誰にも愛されていない生塵!!】【お前はこの世に存在してはいけない!!】【お前は愛されてはいけない生塵!!】
次から次へと響く罵声に伴い、泪周辺の空間からおびただしい量の刃物が具現化する。刃物は勢いよく泪へ目掛けて、一直線に襲いかかる。泪は当たり前のように襲い来る刃を受け入れ、身体中を刃物に突き刺され始める。泪の突き刺された細身の身体からは、更に大量の血が吹き出し流していく。
「う、嘘だ······嘘だっっ!!!」
【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】【生塵!!】
何度も何度も無限ループを繰り返し、完全否定の言葉が吐き出される。止まることなく繰り返される侮蔑や中傷の言葉は、泪の人生の全てをこれでもかとばかりに否定する。
「もうやめてよっ!! 自分を責めないでよっ!!」
【赤石泪は誰にも愛されてはいない!!】【赤石泪は誰にも愛されていない!!】【赤石泪は誰にも愛されてはいない!!】【赤石泪は誰にも愛されていない!!】【赤石泪は誰にも愛されてはいない!!】【赤石泪は誰にも愛されていない!!】
「僕は誰にも愛されていない!! 結局僕は誰にも必要とされていない!!」
血塗れの泪の口から、確固たる意思をもって放たれる、自身を存在を完全に否定する言葉。頭や顔、ありとあらゆる全身を、刃物に突き刺されおびただしい量の血を流し、狂気の笑みを浮かべ続ける泪。現実の世界では既に息絶えていても、おかしくない惨状にも関わらず泪は笑っている。
【赤石泪は誰にも愛されてはいない!!】【赤石泪は誰にも必要とされてはいない!!】【赤石泪は世界の敵!!】【赤石泪は世界中に憎まれるべき生塵!!】
「········やめて」
この世に生まれて一度も誰かに抱きしめられた事も、誰かに肯定された事も、自分は愛されているとの言葉すら掛けられた事もない。
自分は誰にも必要とされていない。自分の存在に価値を見出だせず、生まれてからずっと己の存在意義を、徹底的に否定され続けるだけ。自分が誰にも愛されていないと、確固たる自覚を持っている泪は、自分自身を容易く簡単に否定出来るのだ。
「ははははははははっ!! あははははははははっ!! はっはははははははははははっ!! 殺したっ!! 殺した殺した殺したあぁ!! 瑠奈は僕を殺した!! 瑠奈が僕を殺したんだあっ!!
やっぱり僕は、誰にも愛されていなかった······。僕の居場所は何処にもなかった······。瑠奈は······瑠奈は僕を愛してすらいなかった!! あは、あはは······あははははははははっ!! ははははははははっ!! はーーっはははははははははははははははっ!!」
「も、う···やめてよ·········っ」
首筋から。いや、全身から至るところまで血を吹き出し、今尚も狂ったように笑い続ける泪。恐らく瑠奈が泪を傷を付けた事で、自分の信じていたものが完全に壊れてしまった。
「ふはははははは!! ははははははっ、あははははははははっ!! やった!! 僕はやった!! やっと世界の全てが僕の敵になったんだ! ははははははははっ!! あーーっははははははははははっ!!」
「違う」
「何、何が? 何も違わない!! 僕は全てを敵に回した!! 僕は世界の全てを、敵に回し世界に憎まれる!! 世界に憎まれる事の何がおかしい!?」
「違うっ!!」
あくまで自分から全てに憎まれようとする泪に、瑠奈は尚も泪の言葉を否定する。
「結局瑠奈も僕を傷つけたんだ!! 僕を傷つけた者は全てが僕の存在そのもの全てを憎むべきなんだ!! 僕は全てに憎まれる存在!! 忌まわしく薄汚い生塵だ!!!」
「これ以上自分を傷つけないでよ!! 何でもかんでも、自分のせい自分のせい自分のせいにして! お兄ちゃんが何したって言うの!?」
瑠奈自身。今の自分が何を言っているのかも理解出来ず、半ばヤケクソになりながら、自分自身を傷つけ血塗れになりながら、自虐を叫び続ける泪に向かって叫ぶ。
「お兄ちゃんをこんなにしたのは宇都宮の連中じゃない!! お兄ちゃんは生まれてから何にもしてないじゃない!! もういい加減にしてよ!! お兄ちゃんなんか―」
「『大嫌い』。でしょう」
「!!」
あくまでも強く、あくまでもはっきりした口調で、嫌いと答える泪の表情はあまりにも寂しげだった。
「······【本当の瑠奈の答え】はもう知ってる。【僕は僕の為】なら何でも出来るから。【僕が僕で要られる瑠奈の言葉】は絶対に受け入れない。僕はもうどこにも戻れない、帰れない。【罪人】の僕は世界に裁かれなければいけない。僕は【人間】と一緒に生きてはいけない存在なのだから···」
直後、瑠奈の視界がぐらりと眩み始める。突然襲い始めた強烈な目眩に、思わず膝を付いてしまう。
「まっ···っ! まってルシオラさんっ!? 私はまだ···っ!!」
『もう限界だ!! 君の身体が持たない』
「だから······―もう。さよならだ」
瑠奈の意識が急激に薄れていく。瑠奈の身体が持たないと判断したルシオラが、泪の精神世界からの強制排除に取り掛かったのだ。
―······ありがとう、ルシオラ。やっと······僕は·········死ねる。
最後に聴こえた泪の声は、余りにも優しく穏やかだった。




