108話・瑠奈side
※警告!!
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件には一切関係ありません。
瑠奈編108話には暴力・犯罪・いじめ・グロテスクな描写及び精神的に不快を催す描写がございます。内容に不快を催されましたら、直ちにブラウザをバックするようにお願いします。
泪の精神を守っている防衛規制を排除した瑠奈は、泪が身近な人々達から暴力を受け続けている、廃墟へと戻って来た。防衛規制を排除した事で、この場所にも変化が起きたのだろうか、既に視るも絶えない状況になっている。
「こっ、これは·····っ」
あちらこちらにヒビが入り、衝撃を加えただけでも壊れそうな壁に、バケツをぶちまけたかのような、大量の血糊がこびり付いている。更に地面にも大量の血溜まりが、奥に泪がいるだろう広場の方向へ続いている。リアルに伝わって来る、血液の濃い鉄の臭いに耐えられず、瑠奈は思わず鼻と口を両手で覆ってしまう。精神に直接干渉している影響で、瑠奈自身にもダイレクトに、聴覚や嗅覚などの五感が伝わっているのだ。瑠奈は伝わってくる血の臭いに耐えつつ、鼻と口を覆いながら、泪のいる広場へ向かう為に前へ歩き進める。
「防衛規制が消えたから、ここも変わったんだ···」
防衛規制を排除した事で、恐らくは泪の深層心理にも大きな変化があったのだ。今自分の身に起きている、過酷な現実を目の当たりにした泪が、何かしら行動を起こしたに違いない。しばらく歩いていると、瑠奈の目の前に写ったのは、着ている襤褸を血に染まった周りの廃墟へ、溶け込んだかの如く赤黒く染め上げた泪が映し出された。
「お兄······ちゃん?」
全身が真っ赤な鮮血に染まっている、泪の表情からはまるで生気が感じない。棒のように立ち尽くしている泪の周りには、泪同様に血塗れで地面へ倒れている無数の人々。ここは精神世界の中だから、こう言った表現で例えるのは変なのかもしれないが、血塗れで倒れている人達は、一人残らずピクリともせず皆息絶えている。
「······っ」
これは目の前に立っている泪がやったのか? 瑠奈の視界で見る限り、誰一人として微動だにとも、動いていないのだから、そうとしか考えられない。これが防衛規制を破壊した影響なのか。広場に絶えることなく広がり続ける、おびただしい量の血溜まりの中には、瑠奈の見知った少女も倒れていた。
「り、琳っ!!」
琳がおびただしい血の海の中で、やはりうつ伏せに倒れたまま全く動かない。瑠奈が更に血だらけの周辺を見ると、すぐ近くに勇羅が倒れていた。
「ゆ、勇羅まで!? 芽衣子っ! 茉莉姉! こ、鋼太朗にルシオラさんも···」
勇羅もまた琳と同じく、地面へ血塗れになって倒れている。その勇羅の近くにはルシオラや鋼太朗。茉莉や麗二。芽衣子までもが、血溜まりの海の中で血塗れのまま、地面へと微動だにせず倒れていた。
「これは···一体······っ」
鼻と口を覆いなんとか息の気道を確保しながら、瑠奈は微動だにせず立っているだけの泪へ、一歩一歩。ゆっくりと確実に泪へ向かって近付いていく。
「お、お兄···ちゃん······?」
瑠奈が近づいているのに泪は微動だにとも動かない。だが防衛規制を排除したこの状況で、何が起きているのか把握しないといけない。瑠奈は更に一歩足を進めた時―。
「っっ!?」
『殺してやる』
―···くない。
突然、泪の声が頭の中で響き始める。声が聞こえたと同時に瑠奈は、前へ進めようとした足を止め、泪のすぐ側で立ち止まってしまった。
『殺してやる···殺してやる···殺してやる······』
―···た···―く、な···い。
「な、な···に······っ?」
目の前の泪の声と泪の精神の声が、瑠奈の耳と頭の中へ同時に聴こえてくる。
―殺したくない。
『殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる』
二つの声が重なるかのように聞こえたと同時に、泪はすぐ側に迫っていた瑠奈へといきなり飛び掛かってきた。
「っっ!?」
瑠奈は飛び掛かってきた泪に押し倒された瞬間。突然の泪の行動に驚きつつも、すぐに瑠奈が立ち上がろうとする体勢を、取ろうとする間もなく、泪は瑠奈の身体へ馬乗りの状態になる。
―殺したくない···殺したくない。
「な、何···っ!?」
『殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる』
瑠奈の頭の中では、絶え間なく響きわたる泪の殺意の声。瑠奈の腹へ馬乗りになった泪は、瑠奈の首筋に両手をあてがう。首を当てられた両手からは、徐々に力が込められているのだろう。
―···殺したくない!
『殺してやる···。殺してやる···。みんな······殺してやる!!!
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる』
「う、うっ···。ぐ、うぅっ···っ!!」
瑠奈は自分の身体に馬乗りになっている泪をどかすべく、まずは自身の首を絞めている泪の両手に、なんとか手をやろうとする。だが泪は安易に息をさせないように、気道当たりを的確に絞めているせいで、手を握ろうとしても上手く力が入らない。
泪の二つの相反する声に共鳴しているのか、泪の瑠奈の首を締めつける両手の力は、更に強くなって行く。
―殺したくない! 殺したくない! 殺したくない!!
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
「あ"······っ···っ!」
―···殺したくない······殺したくない···っ!! 殺すな!!
『殺してやる······殺してやる!! ぶっ殺してやる!! みんなぶっ殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す·········みんな、ぶっ殺してやる!!!』
泪がこの世に生まれてきてから、ずっと背負い込んでいたもの。泪が生まれてきて、たった一人で受け続けてきたもの。
そして。泪が生まれてから深層心理の奥底で、溜めに溜まっていたものが吹き出した、泪自身の負の感情と殺意の思念と同時に、瑠奈の首を締め上げる泪の手の力が一気に強まった。




