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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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98話・響side



「そうか。君の母さんが姉さんが担当してる患者さんだったんだ」

「入院中って言っても、別に命に関わる病気じゃないです。お医者さんからも、もうすぐ退院できるって報告ありましたし」


響は入院中の母親の見舞いを終えた真宮琳と、病院の中庭のベンチに座って話をしている。看護学部の研修として、奏が担当していた患者は数人。その内の一人が琳の母親だったらしい。裏で異能力者狩りとして行動していた響が、ファントム支部で偶然会合した異能力者・真宮瑠奈。真宮琳は瑠奈の従姉妹であり、同じく時折神在総合病院を訪れる、宝條学園保険教諭・真宮茉莉の妹だ。


前はあまり気にしてなかったが、よく見ると琳は瑠奈に顔立ちがよく似ている。真宮瑠奈が異能力者だと発覚した以上、瑠奈と似ている彼女もまた、瑠奈と間違われてブレイカーに狙われる危険性がある。


「さっきの婦長さんとの話、聞いてた?」

「は、はい。···やっぱり。瑠奈や奏さんが居なくなったのは、異能力者狩りが関わってたんですね」


琳は現在の状況に戸惑っているのだ。いつもは学校でも一緒にいた筈の瑠奈だけでなく、数日前から当たり前のように、自分と親しく話をしていた奏すら見掛けなくなったのに対し、周りの空気に明らかな違和感を感じていたようだった。


「最近異能力関連の事件や犯罪も周りで耳にして、学校でも警備を増強するって茉莉姉さんから聞いたんです。数日前に行方が分からなくなった瑠奈も、異能力者狩りと異能力者集団の争いに、巻き込まれた可能性が高いって···」


異能力者に寛容な宝條学園すらも、最近の近況に対して警戒体制を敷かれる程になっていたとは。そして彼女は瑠奈が異能力者関連の争いに巻き込まれ、失踪したと思っている。


「彼女の捜索届けは?」


瑠奈が異能力者であるならば、恐らく捜索届けは出されていないだろう。だが響は、琳に瑠奈の捜索届を出しているかをあえて聞いてみる。瑠奈本人が異能力者であり、周りの異能力者達とも深く関わりを持っているならば、捜索届自体が出されていない筈なのだから。


「い、いいえ。逢前先輩は···何か、知ってるんですか? さっきも奏さんの事聞いてましたし、あの様子だと何だか焦ってるように見えました」


ここまで来れば琳に、現在瑠奈が置かれている状況を話すべきだろうか。しかし今彼女の事を話せば、真宮家が異能力者に協力する者として、琳や茉莉がブレイカーに狙われる危険性が更に高まってしまう。


「その前に···。真宮さんは誰かを憎いと思った事がある?」

「えっ?」


誰かが憎いの言葉に反応したのか琳の目が丸くなる。響の口から出た言葉に対して、驚きの方が強いのだろう。


「僕は·········。異能力者が憎い」


響は心配そうに顔を覗き込んでくる琳を見ようとせず俯き、地面を見つめながら暫くの間沈黙するが、思い立った響は口を開く。



「話せば長くなるから、最低限言える事だけ話す。······僕の両親は物心つく前に、異能力者に殺された。正確には異能力者の力の暴走に、巻き込まれたんだ。たまたまその場に居合わせた、僕と姉さんを庇って両親は命を落とした。能力の暴走を起こした異能力者は、人殺しをしたショックで錯乱状態に陥って現場を逃走。ここまでの経緯は、全て亡くなった祖父から聞かされた。


事件が起きた数年以上経った今も、その異能力者は行方知れずのまま。風の噂でそいつは異能力者集団に、入っているとも聞かされている」



琳は複雑な面持ちで響の話を聞いている。精神の均衡を保てずに能力の暴走を起こし、意図しない殺戮をしてしまう異能力者。異能力の暴走被害と聞いて琳も深刻な表情になる。


「じ、じゃあ···」

「当然、両親を殺した異能力者は憎い。だけど相手が能力を暴走させたくて、暴走したんじゃないのもわかってる。頭では理解しているけど、自分の感情が追いつかない。でも······姉さんを悲しませるのはもっと、嫌だ」

「響先輩···」


琳の響を名前を呼ぶと同時に、二人の間で再び沈黙が始まるのかと思いきや、先ほど待ち合いロビーで、響達と会話していた婦長が慌てて二人の元へ駆け寄って来る。



「響君、琳ちゃん! 良かった、ここにいたのね···。た、大変よ···。この神在総合病院が、全ての病棟患者と職員全員に『ESP検査』を行うらしいわ!」

「!!」



この状況は全くの予想範囲外だった。まさか充がこの病院全体にまで手を回していたとは。病院内の全患者のESP検査と聞き、響だけでなく琳も不安な表情をしている。


「な、何故一介の議員秘書がここまで介入出来るんですかっ?」

「ごめんなさい、私にもそこまで分からないわ···。院内会議での報告だと政府の検査要求を受け入れなければ、病院内全ての人間に対し『異能力者強制排除命令』を発動させる···と。排除命令が発動させられたら、今後の職員の勤務に支障が出るのは確実。最悪報道沙汰にもなりかねないし、理事長も院長も検査の要求を受け入れる他になかったの」

「そんな······っ」


異能力者狩りブレイカーでも宇都宮一族でもない。玖苑充は自分が政府議員の専属秘書である事を、最大限に活用している。政府機関の権力を使って、自分に歯向かう者には徹底的に外窟を埋めていき、徐々に逃げ場を失わせていく。そして充自身の立ち位置をも固めながら、異能力者だけでなく異能力者狩りをも陥れようとしているのだ。しかし『異能力者排除命令』と言う言葉は初めて聞く。異能力者狩りとはあくまで、【聖域】を含め、裏の世界の人間が主導で行っている。全ての異能力者は世界の闇に葬るべき存在であると、時緒から聞いていたのだから。


「そ、その···。『異能力者排除命令』とは、何なんですか?」


琳から質問され婦長は俯きしばらく口を濁したが、少しの沈黙の後、顔を上げ意を決して口を開いた。



「······極端な話だけど。異能力者と判断された者は法に基づき······強制的に死罪とみなし、警備隊による区域内全異能力者の強制排除を執行する」

「!!!」



異能力者と判断された者は政府の法に基づき、患者職員問わず全ての異能力者を死刑と見なして殺す。


「そ、そんな···」


余りにも無茶苦茶過ぎる法に唖然となる響と琳、そして更に沈んだ表情になる婦長。しばらく三人で顔を見合わせながら、黙って俯いていると婦長が来た待ち合いロビーの方向が、騒がしい事になっている。


「誰か近付いて来る」


琳の声と同時に響達が注目すると、ロビーの方向から一人の女性が響達のいる中庭へ近付いてくる。


「婦長さん、僕達は大丈夫ですから。早く患者さんの所へ行ってあげてください」

「······わかったわ。二人共気をつけてね」


婦長は響達へ向けて一瞬心配そうな顔をするが、頭を軽く振りすぐ表情を穏やかに微笑むと、ロビーの方向へ背を向け小走りで駆け出していった。そして婦長と入れ替わるように女性が二人の前に現れる。


「積もったお話中の所、失礼するわ。あなたが真宮琳さん。それから······逢前響さんね?」



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