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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
234/283

88話・瑠奈side

※警告!!


この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件には一切関係ありません。


瑠奈編88話には暴力・犯罪・グロテスクに当たる描写及び精神的に不快を催す描写がございます。不快を催されましたら、直ちにブラウザをバックするようにお願いします。
























































































女が現れた廊下と同じ方向から、この支部のどこかに居ると思われた泪が突然姿を現した。炎を扱う異能力者はファントム国内支部には少ないと言っていた。この支部で炎の異能力を扱うのは、泪以外には他に誰もおらず、炎の球を投げたのは紛れもない赤石泪その人だった。


泪は表情を変えず、ゆっくりと歩きながら周りを見渡し、ファントムが置かれている状況をすぐに理解したようだった。



「なぜ瑠奈が此処に···。これはどういう事ですか?」

「······」



周りの状況よりも、今この場に瑠奈が居る事に疑念を持っている。泪が政府の玖苑充···宇都宮一族と繋がっている異能力研究所のサイキッカー。この僅かな間で、瑠奈自身が泪の周りについて知らなかった事を、多く知ってしまった。泪は複雑な表情で見つめる瑠奈の視線をも気に止めず、男達に護られるように囲まれている少女の方を向く。


「···話は後で聞きましょう。今は奴らを排除するのが先です」

「ま、ま、まって···まって、下さい······。い、嫌···や、やっ、やめて···ください······。わ、私···私っ······戦いは、嫌···嫌です······。か、悲しみを······悲しみを呼ぶ···戦いは······嫌っ」


泪の頭の中に突然、目の前の少女の声が脳の神経全体を通して、先ほど呟いた同じ囁きが重なるように何度も響き渡る。


【イヤ···―タタカイハ―···イヤナノ···】


少女の美しく無垢で儚げな声は、深い闇の世界を生きて来た泪にとって耳障りな物でしかない。



「······」

【―タタカイハイヤ···タタカイハイヤ······タタカイハ···カナシミヲヨブタタカイハ···―イヤ······】



頭に響き続ける少女の異様な思念に何かを察したのか、泪はその場に立ち止まり静かに目を閉じる。


「姫。例の彼の説得を。賢明な彼ならばきっと、清らかで心優しい姫の気持ちを理解してくれる」

「で···。でも、でもっ···私っ···私っ······」


泪との対話を戸惑う少女に男は少女を抱き締め、少女の耳朶を甘く咬みながら少女に甘く優しく(ささや)く。



「大丈夫だよ···俺の愛する姫の言葉は、清らかで美しく儚い天使の声。きっと彼にも姫の優しく純粋な想いは届く···。姫はいつまでも綺麗だから······俺達の愛しい姫」


【殺す···殺す···殺す···殺す···殺す···殺す···殺す···殺す···】


「!!」



少女の美しく穢れのない無垢な声は、泪にとってただの『異物』でしかなかった。地獄しか知らない泪の世界に美しく穢れのない少女の甘い声は、耳障りでしかない忌々しいただの『異物』だ。



【イヤ―···イヤ、タタカイハイヤ···タタカイハイヤ······ヤメテ―ヤメテ···ヤメテ······ッ】


「なっ!」

「まさか···」


【···―···殺してやる···みんな······殺してやる―···殺して―···やる······―!!】



愛姫の精神干渉の能力を受けていても、まるで動じる様子のない泪に、ルシオラも瑠奈も感付き始める。



「過去にあれほどの生き地獄を味わいながら、尚も己の自我を強固に保っているんだ···」

「···いくら精神だけを壊す能力でも、あれだけの深い闇を持ってる相手(お兄ちゃん)に干渉すれば···只じゃ済まない」



少女の脳へ直接流れ込む泪の殺意。その殺意はあまりに純粋なものであり、穢れのない無垢な少女にとっては、悪意そのものでしかない『猛毒』だった。



【殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる―】



「!! ひ······ぃ·········ぃ······いやあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!! ああああああああああああああああああーーーーーーーーっ!!!!!」



幼く儚げな少女の脳内へ、絶えることなく流れ込む純粋で尚且つ膨大な殺意に、小さな少女は遂に絶大かつ悲痛な悲鳴を上げた。



「あああああああああああぁぁぁぁぁっっ!!! いやっ!! いやっ!! いやっ!! いやいやいやいやあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「ひ、姫っ! 落ち着くんだっ! 姫っ、姫えぇっ!!」

「くそっ! よくも俺達の姫をっ!」


「やめてやめてやめてえええええっっ!!! いやいやいやっっ!! いやああああっ! いやいやいやいやいやいやいやあああああああぁぁぁっ!!」

「俺達の姫を傷付けるおぞましい化け物め! お前らみたいなおぞましい異能力者共はみんな殺してやる!!」



少女の周りに居た男が二人、懐から鋭利な刃物を持ち出し構えると、今だ目を閉じたまま無言で立っている泪へ、殺してやるとばかりに勢いよく飛びかかって来た。


「死ね」


泪はゆっくり目を開き腕を一降りすると、自身へと血走った目付きで飛びかかって来る、男二人の方向へ躊躇う事なく轟炎を放った。



「ぐわああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁっっ!!!」

「ぎゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"っっっ!! あ"あ"あ"あ"熱い"い"ぃ"ぃ"っ! 熱いよお"お"お"お"ぉぉぉぉぉっ!!!

なんでぇっ!? 何で僕の身体がっっ!!! 身体が燃えてるんだよお"お"お"お"お"お"お"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"っっ!!?」



泪の手から放った炎は勢い衰える事なく、二人の男の身体を勢いよく骨の髄まで焼きつくしていく。獣のごとき叫び声を上げながら燃える男達を見る、泪の表情には感情も何もない。群青色の目は淡々と自らが焼き付くした対象を、無機質に写しているだけだった。



「やめてやめてやめてええええっっ!!! もうやめてえっっ! もう戦いはやめてええっ! 戦いはいやっ! 戦いはいやあっ!! いやっ! いやっ!! もう悲しい戦いはいやああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」



度重なる惨劇を見てしまい、狂乱状態になりながら美しく長い髪を振り乱し泣き叫ぶ愛姫を、リーダーの男は抱き締めながら、必死に小さく折れそうな華奢な身体を押さえ続ける。



「ぁ······あれが、サイキッカーの力······っ」



時緒と響は武器を下へおろして立ち尽くしていた。時緒の方は幾らか冷静さを保ってはいたが、響の方はこの短時間で、複数のサイキッカーの絶大な能力を見せ付けられ、戦意を完全に無くし呆然としてしまっている。



「響。撤退するぞ」

「···いいの?」

「ああ。今回の任務、どうも『宗主』の命令と大きく食い違ってる···」



告げられた命令と食い違っている、と呟く時緒の表情はかなり深刻だ。恐らく本来の任務ではこんな状況になる筈ではなかったのだろう。


「······分かった」


時緒と響も戦闘で辛うじて生き残った構成員に命令を出し、生き残った者で負傷した者を担ぎ上げ、配下を殺され主が錯乱し戸惑う親衛隊達を無視し、混沌とする戦場を引き上げて行った。


「おたくらの幹部二人。部下連れて帰ったみたいだけど、あんたらはどうすんの」

「ぐっ···っ!!」


愛姫の親衛隊がこの場で二人も焼き殺された。数多くいた戦闘員達も上級構成員の命令で引き上げて行き、残るは異能力者狩りの親衛隊数名と唯一の異能力者・愛姫のみ。隊長格の男の腕の中にいる愛姫は、泣き叫ぶ事こそは既に止めているが、泪が見せつけた殺意と強大な力に未だ怯えている。


「本当に不愉快だわ。その娘が私達と同じ異能力者だなんて、絶対に認識したくない」


薫はあらかさまに愛姫への嫌悪を口に出す。男の腕の中で泣きながら脅え続ける彼女が、自分達と同じ能力者だと言う事実が信じられない。何かを思ったのか瑠奈が少女を抱く男の方へ向き口を開く。


「······一つ質問していいかな?」

「き、貴様らのような汚ならしい異能力者に話す口などないっ!!」


激昂する男を無視して、瑠奈は言葉を続ける。



「その娘も異能力者でしょう。私達はあんた達にとって唾棄するべき存在なのに、なぜその娘は異能力者狩り組織にいるの?」




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