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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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87話・瑠奈side



「異能力・精神······破壊」


異能力者の女は、獣を思わせんばかりの叫び声を上げながら、大量の鼻血を吹き出し更には、口から血の混ざった泡を吹きながら全身を激しく痙攣させた。そして白目を向いたまま、指一本も動かなくなった異能力者の女を、周囲の者達は呆然と見つめているだけだった。


あまりの衝撃で沈黙が続くホールの中で、一足早く我に返った少女は仰向けに倒れた女の姿を見て瞳を潤ませる。



「ち、違う······こんなの···違う···違うんですっ。そんなつもり、じゃ···なかったんです。こ、こんな···悲しみを呼ぶ力······悲しみを呼ぶ力で···。悲しみを呼ぶ戦いを······解決するつもりじゃなかったんです······私っ···私っ······どうすれば······」



少女の言葉で我を取り戻したルミナは、すぐに倒れた女性へと近寄り側に座り込むと、女性の脈を測るように腕を取り彼女の状態を確かめる。ルミナが動いた事により玄也達も女の周囲に集まりだす。


「······生きては、いるわ。でも······もう、これじゃ手遅れよ···」


女性の状態を確認したルミナは苦悶の表情で首を横に振る。女性の心肺に当たる部分が微かに動いている事から、肉体的には生きてはいるが、精神的には完全に死んだのだろう。


「そ、そんな···」


余りにも突然の出来事に時緒や響も動く事が出来ず、今なお武器を持ったままその場で立ち尽くしている。意識のない女性の顔を整えるとルミナは、苦悶の表情で女性を見つめる瑠奈の方に顔を向ける。


「瑠奈ちゃん。あなた彼女の能力に見覚えが?」

「う、噂程度にしか聞いてませんが···。知り合いの話で、『対象の精神に直接干渉し単純に精神世界だけを壊す』だけの能力者がいると」

「まさか···」


ルシオラと玄也は、今まさに複数の男達に艶めかしく慰められている少女を凝視する。虫一匹殺せぬような軟弱な少女が、対象を生かしたまま精神だけを壊す事が出来ると言うのか。


「時緒、響、すぐにこの忌々しい戦場から撤退するぞ。これ以上の戦闘は我らが愛しい『愛姫』の清らかな心が傷付き、悲しむだけだ」

「···断る」


自分達が守るべき存在が絶望しかけている事で、驚愕する同僚の男達を余所に、逆に平静さを取り戻した時緒と響は、改めて自分達が持っている武器を構えなおす。



「俺達は『宗主』の命を直々に受けて、この支部まで来たんだ。てめぇらのようなクソ見たいな集団の指図は受けねぇ」

「時緒貴様! 我らが愛しき清らかな愛姫の命令は、我らブレイカーの頂点に立つ宗主の命でもあるのだぞ!」


「や、やめてっ! もう···やめて、ください!! もう悲しい争いは見たくありません!! 辛いのは嫌···悲しいのは嫌···悲しい戦いは、いや···もう、戦いは···嫌なんです!」



先ほどの異能力者を『壊した』事によって、少女の精神はかなり不安定になって来ているようだ。


「あの娘······。正直まずいかもしれない」

「どういう事?」


戦闘を続けようとする時緒達に怯える少女と、倒れた異能力者を交互に見ながらも、不思議に思った薫に瑠奈は更に続ける。


「精神系の異能力って、一見簡単に扱えると思えても実際は能力の制御が凄く難しいの。特に精神干渉系の異能力って、相手が今考えてる事や過去の記憶···。つまり相手が自分にとって、その時一番見られたくないものまで、その能力を使って見る事にもなるから、当然干渉する側にも相手の心の闇に耐えられる強い精神力が求められる。相手の深層心理の記憶に耐えられる事が出来ないと、相手の精神に自分自身までも影響されてしまうから」

「······そういう事か」


瑠奈の精神干渉の話を聞き何かを理解したのか、ルシオラは再度集中し再び広範囲に渡り念を放出して、無数の蛍の光を具現化しホールに光の罠を張り巡らせる。



「!?」

「あの男、また!」



険しい表情で武器を構える時緒達と、今すぐに襲いかからんばかりに殺意を剥き出しにする男達に怯むことなく、ルシオラは告げる。



「すぐにその女だけをこの戦場から撤退させろ。さもなくば···」

「この美しい世界に唾棄されるべき薄汚い異物ごときが戯れ言を!! 俺達にとって愛姫の願いは絶対だ。俺達は何としでても愛姫を守る! 俺達の愛しい愛姫の穢れない純粋な願いを叶える!!」

「その『愛姫』とやら傷つけたくないのだろう。ならば今すぐにこの場を退け!!」



ルシオラの声が信じられない程に殺意に満ちている。愛姫の周りを守っている男達は、最初から異能力者を汚いものを見る目で異物呼ばわりしている。


少なくとも時緒や響は、異能力者は排除するべき相手だと認識してはいるが、同僚の響が異能力者の瑠奈と知り合いだと知った時、時緒からの敵意の視線を向けられてもまだ嫌悪は感じなかった。むしろ二人の方は異能力者は憎むべき対象であっても、異能力者を人間として見ているのだ。


対して愛姫親衛隊と呼ばれた男達の態度は、明らかに瑠奈達異能力者を人として見ていなかった。寧ろ彼らは愛姫と自分達以外の人間を、見下していると言っていいのだろうか。そしてルシオラ自身、同じ人間に実験体として扱われて来たからこそ、彼ら親衛隊の発言を尚更異能力者として許せないのだ。



「いや···いゃ、ぁ···ぁ······っ。いや、いやっ······いや···いや······ぁっ」



少女は更に瞳を潤ませ、全身からうっすらと白い光が滲み発光し始める。念が更に不安定になって来ている証拠だ。ルシオラも即座に少女の様子に感付き始める。少女のあの反応は明らかに能力が暴走する兆候だ。よくもあれだけの些細な言葉で、力が暴発するような脆弱な精神を作り上げたものだ。


既に倒れた女性異能力者が現れた方向から、一つの強大な思念を察知する。念を察知したと同時に一つの熱源をも感知した。念の持ち主が能力を発動させたのだ。



「避けろ!!」



親衛隊の男の一人が声を張り上げると同時に、念を感じる方向から一つのバレーボール大の炎の球が、豪速球を投げる勢いでブレイカー達の面々へ向かって飛んでくる。


時緒と響は男が声が発したと同時に場を離れ、男も愛姫の小さく華奢な身体を抱きかかえ、間一髪の所で火球を避ける。勢いよく飛んできた一つの火球は、ガラス窓へと大きな穴を空け、開けられた穴からは僅かに残った火の粉と混じりあった温い風が吹いてくる。



「下が何か騒がしいと思いきや、まさか来客が来ていたとは···」

「お······お兄、ちゃん」




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