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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
226/283

80話・瑠奈side



―午後七時・ルシオラのマンション。


「政府官僚議員秘書・玖苑充。彼はこの国の政府議員の秘書だと···」

「はい。間違いないです」


夕方。

ファントム支部から帰って来たルシオラに、玖苑充の素性に付いて瑠奈が思い出した範囲での説明をした。リビングには夕食の仕度の手伝いをしている薫も居る。


ルシオラが帰ってくる二時間前。一人暮らしには有り余る大きさの冷蔵庫には、それなりの肉や野菜と言った食料。幸運にも棚の中には固形スープの素やカレーやシチューなどと言った、固形ルーのパックが一通り揃っていたので、どうせ外に出られないならせめて食事くらいは、ガッツリしたものが食べたいと思いビーフシチューを作る事にした。

薫も夕飯作りを手伝うと申し出たので、遠慮なく彼女の申し出に甘えた。シチューを作るのは初めてなのだと薫は緊張していたが、呑み込みが早く作り方を一通り教えた後は全てを薫に任せた。


嬉しそうな鼻唄を歌いながら、鍋のシチューを焦がさないようにかき混ぜる薫の隣で、瑠奈が担当するのはシチューの付け合わせ。半分に切ったゆで卵とじゃが芋を適度に潰し、芋の形を複数の欠片として残したポテトサラダだ。芋を完全に潰すよりも、ちょっと形が残ったものの方が好きなので少々こだわりがある。


そして出来上がった夕飯と食器を並べテーブルに付き、ファントムに所属している異能力者・玖苑充の素性を思い出した瑠奈は、三人で夕飯を食べながら充の話題を口にしていた。


「でも国内の中核を担ってる、政府議員の秘書が異能力者だなんて···。もし周りの人間に異能力を持ってる事がバレたら、充も只じゃあ済まないわ」


薫は出来立てのシチューを口にしながら、異能力者として当たり前の疑問を口に出す。


「己の力を隠しつつその力を制御し、世間の中で暮らしていたなら辻褄が合う。ルミナも異能力者だと発覚するまでは、家族にも力は使える事を隠していたからな」


ルシオラの言葉に瑠奈も無言で頷く。今も世界で迫害されている異能力者が日常で暮らす為に、自分の力を隠すのは絶対条件だ。同じ力を持っている家族に力を使うなと、日頃からうんざりする程に言われているのだから、嫌でも持っている力が異端であると理解する。


「一度しか見た事ないんですが、彼はテレビにも出ていました」

「テレビに出てたのね。充は有名人なのかしら?」

「私が報道番組の特集観た時、アナウンサーの取材に答えてたのを見ただけ」


瑠奈がメディアで玖苑充を見たのはそれだけだ。実際に充と対面したのは、鋼太朗と一緒にファントム支部で会った時のみ。


「ルシオラ様。充の能力はご存知ですか」

「すまない、実は私も充の能力を見た事がない。しかし奴から感じ取った思念は相当に強い。奴の念動力は下手をすればサイキッカー並みにある位に···」


どうやらルシオラは充の能力を見た事がないらしい。充も念動力が強い事から異能力者である事は確実だ。


「あ、あの···。ルシオラさんにもう一つ、聞きたい事があるんです。泪お兄ちゃんは、今どうしてるんですか?」


ルシオラ本人に聞かなければならない事。ファントムに出向した泪が、現在どうしているかだ。数日前に学園内で泪関連の騒ぎが起きたばかりで、更にその騒ぎが発端となり、国内政府に泪が異能力者であると既にばれている。学園側が泪の素性をまだ知らされていないのなら、泪もファントムに連れて来られた瑠奈と同じく、学園を欠席している筈だ。


「赤石泪か···。どうも充の奴が、彼に余計な事をしたらしいな」

「そうよ! あいつ私達と同じ異能力者の仲間を、(こま)扱いしているんですよっ! 研究所の奴らの実験体にされた仲間だって沢山居るのに、それを簡単に駒扱いするだなんて許せないわ!」


ルシオラを怒らせた充の嫌みな顔を思い出したのか、薫はシチューを掻き込みながら不機嫌に頬を膨らませる。


「充の同志の扱いに不満を持つのは賛同するが、君も他の同志の指示に対して、もう少し柔軟になるべきだ。君がクリフやルミナと喧嘩している所をよく見かける」

「あっ、そ、その···。す、すみません···っ」


仲間と喧嘩している所を指摘された薫は、仔犬のように頭を項垂れる。二人のやりとりを見て瑠奈は笑みがこぼれたが、ルシオラが瑠奈の方を向いたのですぐに表情を引き締める。


「···赤石泪の事を聞きたかったのだったな。彼は今、支部の個室にいる。あの後彼と色々話をしたが、充の件で君がファントムに居る事も知ったらしいな」


やはり泪にも自分が今、ファントムに居る事を知られてしまったようだ。


「お兄ちゃん···その。何て···言ってましたか?」

「······怒っていた。『瑠奈は争いと無関係の人間』だと、はっきり答えていた」


泪が自分を巻き込みたくないと言うのは本当だ。ここに来て泪は瑠奈を異能力者同士の争い事から、徹底して突き放していたのは実感していた。


「泪は君の事を、とても大事に思っているのだな。君の事を話せば話す程、彼は饒舌になる」

「···っ」


泪が瑠奈を大事に思っていると言われて、瑠奈の頬が赤く染まる。瑠奈の様子が気になったのか、薫が瑠奈の顔を覗き込む。


「その人に大事に思われてるって、うらやましい事だわ。私も一度で良いからルシオラ様にあんな風に思われてみたいわぁ」


薫は一瞬ため息を吐いたと思いきや、次の瞬間天井を見上げながらうっとりとした表情になる。どうやら妄想の世界に入ってしまったようだ。


「私は君が、異能力者同士の争いと無関係とは思っていない。君も異能力者である以上は、何れ異能力に関わる争いに巻き込まれる」


ルシオラの言う事も一理ある。鋼太朗も自ら進んで争いへ関わる事には否定的だが、身内が巻き込まれるなら、その時はファントムと敵対してでも介入する事を示しているのを聞いた。


「無関係ではない。か······」


会話の最中、誰かの携帯の着信音が鳴り響く。音を聞いたルシオラが服を探っている事から、ルシオラの携帯の着信音であるらしく、携帯を取り出したルシオラは画面を確認すると、すぐに着信ボタンを操作する。


「私だ」

『ルシオか、本部が不味い状況になった。すぐに支部へ帰還してくれ』


支部に帰還してくれとの、幹部の男の声を聞いたルシオラの表情は明らかに険しい。瑠奈と薫は食事をしていたスプーンを止め、ルシオラの会話を聞いている。



「······どうなった?」

『充が支部の構成員半分以上の連中纏めて、謀反起こしやがった』


「っ······遅かったか」



ルシオラは形の良い唇を噛み締める。



『充の考えに賛同したのは、数ヶ月前外部から入団した連中···幸い国内都市郊外から入団した異能力者だけだ。それでも奴一人の力で、国外でも活動してる同志全員を纏められると思ってないけどな。だが充がファントムに反旗を翻した以上、近い内に国外の本部へ出る事になるかも知れねぇ』

「広範囲の···世界中の人間に声を届ける事が出来るのは、感応能力の機能に特化してある都市圏の支部だ。今の組織が混沌としている状況でそこに行かれると不味い。お前は充に感化されていない構成員を招集した後充を追い、可能な限り奴を捕縛しろ。······もし捕縛不可能であれば、奴の生死は問わない」



ルシオラが携帯の向こうの人物に指示を終え通話を切ると、支度を始めた。



「···折角君達が作ってくれた食事を残してしまってすまない。薫、すぐに支部へ戻るぞ」

「え? ル、ルシオラ様? さっきの相手は?」

「玄也からだ。充がファントムに対して謀反を起こした。充が直々に支部内の同志全員に私への宣戦布告を宣言したらしい。奴が本格的に行動を起こす前に支部へ行き充を止める」



玄也の連絡と聞いて大方の状況を把握した薫は、複雑な表情をしながらも無言で頷くと、席から立ち上がる。


部外者である瑠奈だけが、今起きている状況を理解出来ない。瑠奈が話しているルシオラと、ファントム総帥として指示を出しているルシオラはまるで別人だった。彼も泪と同じく青年ルシオラとしての顔と、ファントム総帥としての顔を使い分けているのだろう。


「わ、私はっ?」

「今の状況では不安だろうが、君は此処で待機していてくれ。充に目を付けられている以上、君を支部へ連れていく訳には行かない」




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