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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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72話・瑠奈side



―午後十三時半・水海探偵事務所玄関。


今日は予定通り午前中で授業が終了し、瑠奈は泪の不在で無人となっている水海探偵事務所へ立ち寄った。元々水海家所有の事務所な為、和真の意向により泪が帰って来る迄はそのままにすると決まった。


事務所に立ち寄る前、三年の教室へ寄り京香から事務所の鍵を受け取った。そして一先ず家に戻り私服に着替えると、しばらく外に出していなかった事を思い出したので、どうせなら散歩にと中庭で走り回っていた角煮も一緒に連れて来た。鍵を受け取る際、京香に鋼太朗の事を聞いてみたが、鋼太朗は体調が優れないと言う事で今日は欠席したらしい。


昨日ルミナに連れられ待ち合い室を出た後、ファントム支部より帰る前から顔色が良くなかったが、鋼太朗は攻撃系の異能力の中でも、制御や扱いが難しいと言われる重力の能力を使いこなす。


その強靭な体力と精神力を持つ鋼太朗が学園を欠席する程まで、身体の具合を悪くするとはやはり支部で何かがあったに違いない。鋼太朗が見たものの事などを考えながら、京香から受け取った鍵を使って事務所のドアを開ける。流石に角煮までは中まで入れられないので、柱に紐を結び外で待ってて貰う。


「やっぱり変わってないな···」


事務所の待ち合い室を始め二階にある泪の部屋自体、誰かが入室した形跡もなくなったかのように、部屋の隅から隅々まで綺麗に片付いていており、あっという間に一切の生活感を感じられない空間と化していた。この場所に数日前まで泪が一人で暮らしていたのだ。


鍵を受け取り礼を告げた直後、京香からもう一つ聞いた話を思い出す。泪は以前、宝條への転入を決めた学生時代の和真と二人でこの探偵事務所で暮らしていた。事務所の所有権は水海家名義であるが、実は和真名義なのだ。


和真がいた頃は篠崎姉弟を始め、雪彦や万里。麗二だけでなく和真や砂織の友人達も出入りしていたと。和真がこの場所にいた時は事務所そのものが、かなり賑わっていたらしい。だが和真が宝條学園を卒業し、泪一人が事務所を預かるようになってからは、人の出入りが極端に少なくなった。この事務所が生活感に満ちあふれていたのは、泪ではなく実際は和真の存在が大きかったのだ。


『泪君、何処にも行くあてがないって言ってた。自分には行く当ても帰る場所もないって···。せめて泪君が帰って来るまでは、此所をそのままにしておきたいって。泪君が自分と同じ異能力者なのも、あるのかもしれないけど···。それ以上にお兄ちゃん。基本頭良いし、普段から大人の人ばかりに囲まれてたから。歳の近い泪君の事、弟見たいに思ってるのかなって』


和真本人は自分名義の事務所を、泪に譲る事も考えているらしい。だが泪の素性が公になってしまった以上、この先どうなるか分からない。それでも和真や砂織は、泪にとって今まで通りの居場所を作り、泪が再びここに帰って来る事を望んでいる。


「これ···」


瑠奈はいつの間にか泪の部屋にたどり着いていた。白いカーテンと最低限の家具しか置かれていない、相変わらず殺風景な泪の部屋。その机にはある筈のない一通の封筒が置かれていた。

封筒を見ると泪の文字で瑠奈の名前が書いてあり、泪が自分に宛てて書いたと思われる手紙。すぐに手紙の封を開け中身を確認する。



『瑠奈へ。


この手紙を瑠奈が手にして読んでいる時にはもう、僕はこの場所には居ない。僕が国内政府に暁特殊異能学研究所に【PA00085】として、登録されていた異能力者である事が発覚した以上、瑠奈とはもう二度と会うことはない。これから国内政府との取り引きを交わし、異能力者集団ファントムへ出向する。いや、僕はもう後戻り出来ない所にまで、政府の異能力研究と異能力者の暗部に踏み込んでいる。


なにより宇都宮一族は代々異能力者を。自分達一族を選ばれし人間と称し、何の罪もない無関係の人間達を自分達にとって都合の良い道具として、数十年前から一族の施設で何人も育成してきた。一族の管理下である暁研究所や、その一族の息の掛かった暁村の人間は、全てが宇都宮の歪んだ欲望の犠牲者に過ぎない。


僕は最初自分を捨てた家族を憎んだ。だけど利用されてると知った途端、完全に憎めなくなってしまった。自分の家族が一族連中の思うままに躍らされていると知り、憎しみ以上に哀れみすらをも感じた。宇都宮一族は国内の政府を、自分達の私利私欲の為だけに利用しようとしている。だが所詮連中も政府との取り引きの中で【あの男】の(てのひら)に、躍らされているに過ぎないと知った。


政府との取り引きの際に話をした【あの男】は、宇都宮一族以上に危険すぎる。彼と密約しているファントム総帥の理想すらも、裏では自らの欲望として利用する気なのだろう。僕はこれ以上瑠奈には異能力者の闇に踏み入って欲しくない。瑠奈にはこれからも力を隠し続けて、普通の人として生きていて欲しい。僕は瑠奈が笑っていてくれればそれだけで十分だから。



そして僕は瑠奈をこの手で殺した。僕の手はとっくに血にまみれている。僕に瑠奈を、人を人として思っていない生塵に人を愛する資格は無い。


泪』



「·········お兄ちゃん」



泪の手紙の内容を全て理解するには時間が掛かる。ただ一つだけはっきりと分かるのは、泪は瑠奈に平穏な生活を望んでいる事。瑠奈自身が泪と同じ場所へと踏み込めば、確実に後戻り出来なくなると言う事。


それに『瑠奈を殺した』とはどういう意味だろうか。

やはり昨日具合を悪くした鋼太朗が、何かを知っているかもしれない。彼も泪と同じで異能力者の暗部を理解しているからだ。昨日ファントム支部で何を見たのか、やっぱり鋼太朗に聞いてみる必要がある。


そうと決まれば長居は無用。散歩中の角煮も外で待たせっぱなしのままだ。読み終えた手紙を封筒に戻し、少し考えてから結局封筒ごと机の引きだしにしまい泪の部屋を出る。



「······此所に居たか」



玄関を開け、水海探偵事務所の外へ出た瑠奈の目の前にはルシオラが佇んでいた。




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