63話・瑠奈side
※警告!!
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件には一切関係ありません。
瑠奈編63話には犯罪描写及び精神的に不快を催す描写がございます。不快を催されましたら、直ちにブラウザをバックするようにお願いします。
「ただいまぁ······」
午後十時。真宮家の玄関がゆっくりと開く。外はすっかり真っ暗闇で、開かれた玄関からは茉莉が憔悴仕切った状態で帰って来た。
「姉さん、お帰り···」
「どうだった?」
玄関前で茉莉の帰りを待っていた瑠奈と琳は、放課後の騒動が気になって仕方がない。瑠奈の足下にいる角煮も既にケージで寝ている筈だが、今日ばかりは起きている。最も一番最後に放課後の騒動を知った琳も、瑠奈同様に雪彦達から経緯を又聞きしたのだが。
「千本妓さんの件でしょ? あの後、本当に大変だったわよ···」
「た、大変だったって···」
「今日は遅いからもう休みなさい、話せば長くなるからまた明日ね。簡潔に言うと千本妓さんは退学処分。彼女、学園外でも色々やらかしてたわ」
騒ぎの元凶である千本妓寧々の退学処分と聞いて、瑠奈と琳は深刻な顔をしてお互いに顔を見合わせる。二人の表情を見た茉莉は再び溜め息を吐き、パンプスからスリッパへと履き替えるとそのままリビングへ向かう。
「後。余裕があればネットニュースも見てご覧なさい」
廊下を歩きながら横目でニヤリと不敵な笑みを浮かべる茉莉。テレビではなくネットニュースを見てみろとは、何か大きな話題でもあったのだろうか。
―早朝・午前五時半。
朝早くに目が覚めてしまった瑠奈は、昨夜の茉莉の言葉が気になり、ベッドから起き上がると、勉強机に置きっぱなしにしていた端末のネットブラウザを起動し、すぐにネットニュースを閲覧してみる。
『トピック:人気ネット歌い手・ぱふっここと○○○○容疑者。○○○○法により逮捕』
「え······逮捕?」
ニュースサイトのトップページを開けた途端、瑠奈は目を疑った。どうやら昨日付けであの人気ネット歌い手が逮捕されていた事。ニュースを読み進めてみると、ぱふっこファンの求めているぱふっこのイメージとは、まるで掛け離れた罪状がゴロゴロと開示される。
「えーと。公務執行妨害に脅迫罪と強要罪、それから恐喝罪に詐欺罪と業務上横領罪に知的財産権侵害罪に、強制わいせつー···。うわぁ···。これは···ちょっと···」
ブラウザのニュースを読み進めれば進める程、今までぱふっこが犯した罪は数多く、詐欺やら横領やら悪徳政治家とタメを張れる罪状に瑠奈もドン引く。学校へ行く支度をしてリビングに降りると、既に茉莉が欠伸を噛み殺しながら朝食の支度をしていた。
「おはよう~···。その様子だと例のニュース見たのね?」
「うん。まさかあの歌い手逮捕されてたなんて」
「泪君の動画騒動や情報開示だけじゃなく、他の何人かの有名人の個人情報を無断でツイッターに開示したのも決定打になったよう。自業自得と言うか因果応報と言うか···やってる事が宇都宮と同じね」
茉莉は右目を軽く擦り欠伸をしながら、もう片方の手に持っているお玉で鍋の味噌汁をかき混ぜる。
「奴のツイッターもまだ消されてないのか、今も絶賛大炎上中よ。奴の無実を信じるぱふっこファンと、勝手に個人情報を開示された有名人のファンと一般ユーザーが手を取り合って狂信的ぱふっこファンと殴り合い。どんなにファンが無実を主張しても、あまりに本人のやらかしが大きすぎるから、実刑はほぼ逃れられないでしょうね~」
あそこまで言い逃れの出来ない罪をやらかしたのに、彼のファンはまだ無実を信じるのか。ニュースを閲覧した限り既に彼の罪状自体が、明らかに越えてはいけない一線を越えてるのに、もう怒りを通り越して呆れる。
「千本妓さんの方は? 聞いたけど昨日付けで退学処分ほぼ決まったって」
昨日茉莉も言っていた筈だが、寧々の退学処分はほぼ確定的になっている。
「そうそう。職員室で学園内を動画配信した件で、先生方と千本妓さん尋問しようとしたら、彼女いきなり逃げ出そうとして暴言吐きながら暴れる暴れる。数人で彼女を取り押さえた直後に三間坂さんが職員室に来て、取り押さえた千本妓さんを挑発するから、その挑発で簡単に煽られたのか更に暴れる暴れる」
一年の間でも遠巻きにされてる相手を挑発とは、良くも悪くも翠恋は本当に根性がある。下手をすれば自分も翠恋と同じ事やっていた。
「まぁ三間坂さんは先生達が宥めたら、早々に大人しくなって帰ったわ。元々泪君を酷い目に合わせた千本妓さんを許さなかったって言ってたし。
三間坂さんは単純に正論言っただけで、千本妓さんが正論に対して余りに耐性無さすぎるのがね。彼女、二留で後がなかったのも合ったけど、特に致命傷だったのが·········『アレ』ね」
「アレ?」
「第二校舎担当の保険教諭が千本妓さんの『何か』に気付いて、結局話し合いを中断する事にして救急車呼んだの。そしたら判定が······黒。
救急車の中でも病院に運ぶまでの間も終始暴れたから、皆彼女を押さえるのに必死で大変だったわ」
東皇寺の事件でも加害者被害者問わず中毒者が居て、東皇寺では例のモノの取り引きまでも行われていたと聞いたが、まさか宝條学園にまで現れるとは。
「救急車で病院に運ぶ最中、千本妓さんの家族にも彼女の状況を連絡したわ。でも彼女の親も娘にはまるで無関心。担任や学年主任から聞いた話だと、一年の頃から一切の面談すら来なかったそう。
『出来損ないのクズはどうでもいい』。電話越しで聞いてた教諭全員ドン引いてたわ。しかもそれ聞いた千本妓さんが、更に暴れて押さえるの大変だったわよ」
これは初めて聞いた。寧々は家族にも感心を持たれていないのだ。立場は違えど泪の現在置かれている家族環境と似ている。泪の家族は泪の存在を認識しているが、周りの身勝手によって引き離された泪に会うことを恐れている。そして泪自身は家族の名前は知っているが、家族の存在を認識していない。
「そうだわ。例の歌い手が公の場で逮捕された以上、瑠奈も覚悟しておいて」
「何が」
今回の歌い手逮捕で泪の個人情報が漏れている。そもそも一体誰が泪の情報を漏らしたのだろう。寧々が漏らしたケースはまずあり得ない。泪から聞いたが、泪本人は寧々とほとんど面識がなかったと言っていた。
「······泪君。最悪の場合、二度と私達と会えなくなるわよ」




