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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
真宮瑠奈と死にたがりの超能力者
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48話・泪side



―宝條学園・第一校舎昇降口。


「ふふん、見つけたわよっ! あんたが四堂鋼太朗ねっ!」

「つか···だれだお前」


靴箱のある昇降口へ続く廊下を歩いている途中だった鋼太朗は、見知らぬ女子生徒に一方的に絡まれていた。制服の色は瑠奈や勇羅達と同じ一年の緑。何故自分はこうも一年生に絡まれるのだ。


「あ、あんたっ···可愛いあたしが分からないの!? ま、まぁそれも仕方ないわよね。あんたは泪に一方的に絡んでる、図体デカいだけのただのウザい奴なんだし。だっ、大体泪の事なんて何にも知らない癖に絡もうとするなんて生意気なのよ!」


鋼太朗自身が泪に一方的に絡んでるのは事実だが、後輩とは言えほとんど面識のない生徒には言われたくない。彼女の口調からして目の前の女子生徒も、泪と何度か面識を持っているようだ。大体泪に邪険にされていたのは転入直後の話だ。昔の事を持ち出すと流石にぎこちなくなるものの、現在は普通に泪とやり取りしている。


「ふふん、そうそう。可愛いあたしが魅力的だからって勝手に惚れたりしないでよねっ! あたしには泪がいるんだからねっ!」


一体なんなのだこの自意識過剰な女子生徒は。誰がいつどこでそうなった?

全くもって彼女の言っている内容自体が、鋼太朗に取って理解し難いものだった。


「つか一年生が三年生に何の用だ? 俺今日はバイトあるから早く帰らねぇと駄目なんだよ」

「なっ、何よっ! あんたが忙しくてもあたしには関係ないわよ!」


言葉のキャッチボールが通じない会話以前にこの後輩は、先輩への口の聞き方が全然なっていなさすぎる。目の前の彼女と話していると、瑠奈の方は泪以外の事では普通の対応で普通に会話してくれてるし、十分に年上への礼儀を弁えている。何より今は瑠奈の能力や泪の過去を知る者同士、お互いが協力者みたいなものだ。


「お前には関係なくても俺の方が困るんだよ。人の邪魔する暇があったら自分の事に集中しろ」

「こ、この···っ!」


騒ぎ立てようとする後輩の女子生徒を無視し、鋼太朗は昇降口へ向かう。突然鋼太朗は何か思い出すかのようにピタリと立ち止まり、女子生徒の方へは振り向かずに口を開く。



「さっきお前は俺が泪の事を理解してないって言ったな?

···お前に泪の何が理解できるんだ? 泪を正面から向き合って理解しようとしないお前に泪は救えねぇよ」



淡々とした口調で赤髪の後輩に告げると、鋼太朗は靴箱のある昇降口へ歩いて行った。



―三年教室前・廊下。



「る、泪っ」

「三間坂さん」


廊下を歩いていると、泪の存在に気づいた翠恋が小走りで近くに駆け寄り泪に話しかけて来た。


「よ、よかったわ。泪さえ良ければ一緒に帰ってあげても良いわよ? どうせ探偵部なんてつまんない事ばっかりしていつもヒマなんでしょ?」


休み時間同級生からの雑談を耳にしたが、先日翠恋は正門前で一般人と騒ぎを起こしたらしい。そして先程昇降口でまた三年の男子生徒と騒ぎを起こしたと聞いた。


「また他の生徒と騒ぎを起こしたんですって?」

「しょ、しょうがないじゃない! あれはあたしは悪くないわよっ!」


素直になれない自分が嫌いな癖に、そんな不器用な自分を頑として認めようとしないのは、翠恋の非常に悪い癖だと思う。


「昇降口の騒ぎを目撃した二年の後輩達が、騒ぎの事で雑談をしていたので聞いてみたら、貴方と言い争っていた相手が四堂君だったので」


翠恋と例の三年の騒ぎだが、まさか鋼太朗と揉めていたのは予想外だった。言い争いは泪の予想通り、やはり翠恋の方が鋼太朗に突っかかっていたと言う。


「四堂君と何を揉めてたんですか?」

「だ、だって! 泪はいつまでたってもあたしの事信用してくれないし、それに泪にしつこくちょっかいかけてるあいつなら、何か知ってるかもと思ったのよ···」


そういう事か。

最近の瑠奈への不審な行動に対して、流石に翠恋も感付き始めている。

自分の事情を同じクラスで更にある程度事情を知っている京香に聞くのは、彼女のプライドが絶対に許さないし、瑠奈同様に翠恋と相性が悪く仲も良くない京香の方も基本的に翠恋との会話を嫌がる。ならば泪と同性であり、泪自身と比較的多く接触のある鋼太朗の方に接触を絞ったと言う訳か。


感情の浮き沈み自体は激しいが、己の心情と本心を易々とさらけ出す程、翠恋と言う少女は決して鈍くない。


「それでも周りに迷惑を掛けるのは良くありません」

「な···る、泪もバッカじゃないの!? いつまでも過去に縛り付けられないでよ!! 何考えてんのか知んないけどやっぱりバッカじゃない!」


「僕も悩む事だってあります。単純にこれは自分の問題で抱え込んでる以上、簡単には振り切れないんです」

「嫌っ、やめてよね! あたしはそんなの嫌よ! そんな下らないもんに振り回されるなんて真っ平ごめんよ!!」


自己嫌悪が強すぎるのと真面目過ぎる事以外は、冴木みなもや千本妓寧々より接しやすい相手だったのだが、こうなってしまえばそろそろ彼女と関わるのも潮時か。



「······そうですね。三間坂さんがそこまで仰るなら、三間坂さんとの付き合いももう終わりにしましょう」



終わりにしようとあっさり言い出した泪に、翠恋は一瞬目を丸くするが、すぐに反論し出す。


「どうしてよ!? どうしてそんな事言うのよ!

そんなのおかしいじゃない!? 何で簡単にこのあたしと付き合うの諦めちゃうのよ!?」

「貴方もこれ以上、僕に気を使うのは嫌でしょう。ですから、終わりにするのに何も問題ありません」


「バッカじゃないの!! そんな訳ないじゃないのよ!!

あたしは泪の事見捨てないわよ! あたしは···あたしはあいつなんかと違う!! あたしは真宮みたいに泪を絶対に見捨てないんだからねっ!」



「それでも僕に直接聞かず、四堂君の方に僕の事を質問した時点で、とっくに貴方との付き合いは終わってるんです」



自分ではなく他者へ泪の事を聞いたと指摘され、翠恋ははっとした表情になる。

泪は瑠奈との接触を絶ってからは、当然鋼太朗とも接触を取っていない。


異能力研究所やその裏事情に付いて最も確信に近い鋼太朗の事だから、自身の事情も相まって異能力に関わる情報など第三者へ決して漏らさないだろう。

しかし今鋼太朗は瑠奈とも泪の過去や力の件に関して接触を持っている分、泪と接触しない理由に対する感付きも早くなる。


「ま、待ってっ!!!」


翠恋を無視しながら泪は廊下から離れ立ち去ろうとするが、翠恋は泪を引き留めようとありったけの声で叫ぶ。


「明日っ!! じゃあ、明日。あ、あたしと一緒に帰って······それで···さっきの発言を考え直して。明日は絶対······絶対、一緒に帰ってほしいの」

「······」


走り去って行く翠恋の後ろ姿を見送っていると、泪の背後にはいつの間にか千本妓寧々が立っていた。


「な、泪···今の娘······誰?」




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