40話・瑠奈side
『ある所に小さな王国がありました。
色とりどりの沢山の花が咲き誇った小さな王国に住む王様とお妃様。仲の良い二人でしたが、何年経っても子どもに恵まれません。
そんなある日。お妃様はどんな願いも叶えてくれる、お城の外れの魔女の森へと向かい、森に住む魔女に子どもが欲しいと頼みました。
お妃様の頼みを聞いた魔女は、薬の入った小さな瓶を渡すと、一言告げました。【この小瓶の中身を一滴使えばあなたの願いは叶う。ただし瓶の中身を全て使えば生まれた子どもは決して幸せになれない】そんな魔女の忠告も気づかず、お妃様は魔女にお礼を告げて森を後にしました。
やがて月日は流れて王国に一人の男の子が誕生しました。王様とお妃様の間に生まれた王子様は教えられた習いごとを何でもこなしました。王子様はいつでも笑って何でもこなしました。
ある日の事です。森へ遊びに出かけた王子様が足を滑らせてしまい、落ちたらもう助からないだろう高い崖から落ちてしまったのです。みんなもうダメだと思ったその時、動かなくなっていた王子様の身体が光りだし、王子様の傷は瞬く間に消えてしまい、やがて目を覚ました王子様は何事もなくその場から立ち上がったのです』
生まれた時からあらゆる物事を何でもこなし、摩訶不思議な力で助からない傷すら癒される王子。瑠奈は黙って続きを読み進める。
『この時お妃様は気づいてしまいました。王子様は何をしても死なないのです。あの時魔女の忠告を聞かず、魔女から受け取った小瓶の中身を全て使ってしまったのです。死なない王子に恐怖した王様は、王子を何度も何度も化け物と罵り、王子様を地下に閉じ込めようとしました。
王子を恐れる王様を止めたのは、王様よりも小さくお腹が少し出た町のお役人。お役人は王様に告げます『王子が何をしても死なないなら、町のみんなの役に立って貰えばいい。きっと死なない王子も町のみんなの役に立ってくれる』。
お役人の言葉にすっかり騙されてしまった王様は、王子様をお役人に引き渡してしまいました。王子様をお役人に連れて行かれたお妃様は、ただただ泣くことしか出来ませんでした』
『お城を追い出された王子様の辛い日々は続きます。町の人にすら死なない化け物と恐れられた王子様は、来る日も来る日も町の人々に石を投げられ、棒で叩かれ、身体に火を付けられます。
それでも痛くて苦しむだけで死ねません。どんなに痛くても苦しくても、次の日が来れば王子様の身体は光りだし、傷はあっという間に治ってしまうのです。
叩かれ燃やされ辛い毎日が続き、悲しむことも泣くことも笑うことも忘れてしまった王子様は考えます。『僕はどうすればしねるのかな』と』
何をされても死ぬ事の出来ない王子は泪の精神世界の中と似ている気がする。何度も何度も苦しい目に合わされても絶対に死ねない。死ぬことが出来ない。
『ある日。小さな国の一人のお姫様がお城を抜け出して、町へ遊びにやって来ました。
歌いながら賑やかな町を歩くお姫様は、ボロボロの服を着た一人の男の子に気がつきます。それは城を追い出され、町のお役人に連れられた小さな王国の死なない王子様でした。
お姫様はボロボロの男の子に声をかけます『こんなに賑やかな町なのにどうしてあなたは笑っていないの』。男の子はこう答えます『僕はひとりぼっちだから』お姫様は『じゃあわたしが笑わせてあげる』』
本の内容は読めば読む程、昔の泪と出会った自分の状況に似ている。
『笑わない男の子を笑わせるため、お姫様は毎日男の子の元に通いました。ある時は男の子の前で大好きな歌を歌い、またある時は花畑で詰んだ花束を男の子にプレゼントします。それでも男の子は笑おうとしません。
どんなに楽しい事をしても笑わない男の子に、遂にお姫様は泣き出してしまいました。声をあげて泣きだしたお姫様に男の子は『どうして君は泣くの?』と首をかしげます。
お姫様は答えます『あなたが笑ってくれないから。どうすればあなたは笑ってくれるの?』男の子は『僕を死なせて下さい。そうすれば僕は笑います』。お姫様は泣き止みましたが、男の子のおかしなお願いは聞き入れません。
次の日の朝。今度こそ男の子を笑わせようと、お姫様がいつもの場所を訪れると、男の子は居なくなっていました。お姫様は泣きました。涙が枯れるまでその場で泣き続けました。そしてその日を境に、お姫様は笑わなくなってしまいました』
姿を消した王子と笑わなくなったお姫様。瑠奈は黙って最後の本に手を付ける。
『再び月日は流れて、美しく成長したお姫様に結婚の噂が流れました。お姫様の父親である王様が選んだ婚約者達が、沢山のプレゼントを持ってお姫様の元にやって来ました。
あの時から眉ひとつ動かさず泣くこともせず、王様やお妃様だけでなく、街の人やお城の人達にすら輝く笑顔を見せなくなったお姫様は、決して首を縦に降りません。そんな笑わないお姫様に王様もお妃様も心を痛めます。
そんな時、王様が選んだ婚約者の一人でもある美しい王子様が『誰の前でも笑わないあなたの望みはなんですか』と。誰の言葉にも耳を貸さず一言も口にしなかったお姫様は、はじめて王子様の問いに答えます『私の望みは昔会った男の子が笑ってくれる事です』』
「······まさか」
続きを読もうと思ったがもう続きがない、しかもよく見ればこの本だけ何故かとても薄かった。幸い絵本はまだ続刊中。本の続きが気になって仕方がなかったが、発売を待つしかない。
「続き······気になるな」




