25話・響side
時緒に会う為、響は神在市総合病院の廊下を黙々と歩いていた。
姉に届け物を済ませた直後、病院内を看護服で徘徊していた工作員から、総合病院に時緒が来ていると言うので、至急コンタクトを取れと連絡があった。
ブレイカーの工作員は潜入工作を行う時は、看護服しかりその場の現場に合わせた服を着ている事が多い。これは何時でも人混みに紛れて、異能力者を排除出来るようにする為だとか。
時緒は月一に総合病院で脳の検査を受けている。
私生活に影響はないものの、その検査とは過去に受けた異能力の被害の余波。事故で脳波に原因不明の異常が見られるらしく、時緒個人からすれば不本意らしいが、異能力関係の医療施設が整った病院で定期的に検査を受けているそうだ。
時緒の事だから検査が終われば直ぐにいつもの場所だろう、と思われた場所に時緒は居た。
「何だ。響か···」
「······やっぱり此処にいたんだ」
二人が立っている病室の前は、時緒の恋人が入院している個室。
異能力者による力の暴走の犠牲となり、幸い怪我は回復したものの治療を担当した医師からは、何らかの異質な力が強く働いていて、彼女の意識が回復する確率が限りなくゼロに近いと告げられ、今も時緒の恋人は眠り続けている。
「よく知ってるな」
「ウチの姉さんここで勤務してるんだよ」
響の姉・奏は総合病院の准看護師。正確には病院と連携している看護学部で、正看護士の資格を取る為の実務経験を兼ねて研修生としての勤務だ。今日は姉に忘れ物を届け終えた所を、運悪く工作員から連絡が来た。
自分は構成員でもあると同時に一学生の身分なんだから、せめて学生でいる時はゆっくりさせてくれと思う。
「···あんたが女の異能力者嫌いな理由って」
「余計な事を聞くな」
不機嫌に当たり前の返答を返されてしまった。響自身詳しい事は知らないが、時緒の恋人が眠り続けてるのは女の異能力者が原因なのだ。
「この間、例の異能力者集団組織の総帥の処遇について上層部からの報告」
『例の総帥』とはもちろんファントムの総帥ルシオラの事。
頭の中がお花畑な末端のファントム構成員が、ベラベラと総帥の名前を出した事を報告した。
構成員を見逃した件については幸い拝め無し、今は組織のトップの名前が分かっただけでも構わないと。構成員の始末は構成員が組織の末端である事もあり、次の機会に持ち越しとなった。
「どうなった」
「···『ファントム総帥を抹殺しろ』だと」
ファントム総帥抹殺命令。
異能力者として高い能力を持つファントム総帥を、捕縛ではなく即抹殺とはなんともブレイカーらしい。
「『異能力者は一人残らず抹殺』。この結果は、我が異能力者狩りブレイカーに取って一切変わりない···と」
「···上層部らしいわ」
棒付きキャンディーを咥えながらため息を吐く時緒。以前は煙草を吸ってたらしいが、異能力者の被害を受けて以来、担当医師から脳や細胞に影響出るだとかで吸わなくなった。
煙草を絶って約半年位は吸いたくて仕方なかったと言っていたが、現在の元喫煙者時緒の口中のお供は完全にキャンディー一択となっている。
「相変わらず不満そうな顔してるな。
ブレイカーの掟は絶対だと、耳にタコ出来るレベルで教えられてるだろうが」
「あのさ。時緒に一つ質問して良い?」
「なんだ」
「これは身内が異能力者でも······組織は排除するの?」
「·········だろうな」
もしも身内が···姉が異能力に覚醒したら···。
組織は自分に身内を排除させるのか? 響の中で恐ろしい考えが浮かぶ。
「お前。顔が真っ青だぞ」
「···何でもないよ。用が済んだからもう帰る」




