17話・瑠奈side
「いってきま~す···」
翌朝、瑠奈はとぼとぼと重い足取りで学園へ向かう。
目が覚めると既に七時を過ぎており、大急ぎで着替えてリビングへ行くとテーブルには、ラップを掛けられてある朝食と一枚の書き置きが残されているだけ。書き置きの内容は茉莉と琳は既に先に行ったらしい。
瑠奈の足元で餌を求めて鳴いている角煮に餌をやり、いつも遊んでいる柵付きの中庭へと角煮を放し、鍵を掛けてから家を出る。
昨夜拾ったファントム総帥のIDカードは一先ず茉莉に預けて置くことにした。自分が持っていては探偵部の面々に見られる危険も高い。
「おはよう」
信号前の交差点で立ち呆けていると、思いがけない相手と鉢合わせる。
「えっ?! お、おは、おはようっ」
薄紅の長い髪を一つに纏めた青年は間違いないなく泪だった。遠慮がちにだが瑠奈は泪に合わせるように隣に並んで歩き出す。
「珍しいね···お兄ちゃんも寝過ごし?」
「···ちょっとね」
瑠奈の質問に対して苦笑する泪。
既に登校時間のピーク故に通学路は学園へ向かう生徒達がかなり増えて来ている。
「昨日の放課後、ユウ君から電話があったんです」
「勇羅が?」
泪は勇羅の事を『ユウ』と呼ぶ数少ない人間の一人、他は部活以外では勇羅とよく一緒にいる麗二くらい。
「ええ。『瑠奈が俺達に内緒で何かしている』って」
鋭い、本当に鋭すぎる。
改めて身内への勇羅の勘の鋭さに戦慄する。実は異能力者なんじゃないのかと思ってしまう。
「それは······」
「大丈夫。瑠奈が何をしてるのか聞くつもりないし、当然自分の事も言ってない」
自分は相手に必要以上の干渉はしないし自分の事も話す気はない、実に泪らしい返答だ。
「ねぇ、一つ聞いていいかな?」
「珍しいな。瑠奈の方から質問するだなんて」
瑠奈は急に泪に質問をしたくなった。
サイキッカー以外の事なら聞いても問題はないだろう。
『泪の奴、家族の事話さないだろ』
家族の事が良い。
幸い鋼太朗からも泪の家族の事はほとんど聞いてない、質問内容にはもってこいだ。
泪は必要以上に干渉されるのを嫌う。もちろん瑠奈や親しい相手に対しても例外ではない。もし家族の事が問題ないなら質問しても大丈夫な筈だ。
「お兄ちゃんの家族の事」
「·········ごめん。話したくない」
僅かな沈黙の後、泪は嫌そうに顔を逸らし拒絶を示した。
はっきり話したくないと言う当たり、家族の話題に良い思い出はないのだろうか。
「家族の話は嫌···?」
「·········ごめん」
そう言ってそれきり泪は黙ってしまった。
これ以上泪に家族の話題を持ちかけようとすると、別の話題を···異能力の事などをボロに出しかねない。
「それから、質問に質問を返して申し訳ないんだけど···」
「何?」
泪が質問してくるなんて珍しい。少しだけ期待を寄せ泪の言葉を待つが···。
「·········瑠奈。ファントムと接触したのか?」
「······!!?」




