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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
篠崎勇羅の宝條学園事件簿
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94話・鋼太朗side



「宇都宮夕妬が本家に匿われてるって···。あいつが潜伏してる場所がわかったって言うの?」

「居場所がわかったにしても、少しおかしくないか? 学校が騒ぎになる程の、大事件起こした以上。奴が匿われている場所がわかったのなら、一斉にマスコミが嗅ぎ付ける筈だ」

「うん。奏さんとも話したけど、総合病院にも事件の事聞きに、マスコミが訪ねて来てたって。婦長さんや看護士さんに宇都宮の事聞いてたそうだよ」


三人はそれぞれの顔を見合わせる。事件の後解放された筈にも関わらず、一向に姿を見かけない夕妬は、やっぱり宇都宮本家にいたらしい。響からも学園には全く姿を見せていないと聞かされていたが、まさか本当に宇都宮本家へ匿われていたとは。


「まだ話は終わってない。その宇都宮夕妬は、宇都宮本家にいる事だけは判明してる。ただ、その宇都宮本家が相当厄介らしくてな。宇都宮本家は本格的に東皇寺や聖龍の事件を、揉み消しにかかっているそうだ。事件の対策本部が置かれてる管轄の警察にも、捜査を止めるように圧力をかけているどころか、東皇寺や聖龍の被害者周辺にまで、これ以上東皇寺の事件に関わらないように手を回してる。

最悪の場合。宇都宮は聖龍に誘拐された被害者の存在すらも、なかった事にされる可能性まで出てくる」

「······何であんたがそこまで詳しく知ってんだ」


麗二は訝しげに鋼太朗を睨む。聖域で受けた打撲が酷くて一週間位は入院していたのに、事件後に起きている宇都宮周辺の状況を、鋼太朗はやけに詳しく説明出来ているのだ。麗二に睨まれ沈黙していた鋼太朗は、観念したように大きくため息を吐く。


「······親父から聞いたんだよ。俺の親父、宇都宮一族が間接的に関わってる大学の関係者だから、宇都宮一族の情報なんざ嫌でも耳に入ってくるんだってよ」

「お父さん? 鋼太朗先輩の」


鋼太朗の親父と聞いて、瑠奈は何か思い出したような表情で鋼太朗の顔を見る。


「そうだ。鋼太朗のお父さんって確か···」


それ以上言うなと言う表情で、鋼太朗は瑠奈へ視線を向ける。鋼太朗の表情を見た瑠奈は、しまったと言った感じで慌てて口を両手で押さえる。


「···っ」

「何か言いかけてたね。気になるなー」

「俺も」


何か知っているなと察した、勇羅と麗二は訝しげに瑠奈の顔を見る。注目する二つの視線に瑠奈は不自然なほどに目を泳がせる。


「おいおい。大体始めから俺に話を聞きに来たんだろ。瑠奈に聞いてもなにも出てこないぞ」


鋼太朗が話題を変えてくれた事で、事なきを得た瑠奈はホッとした顔でため息を吐く。同時に勇羅達が注文したメニューが、テーブルへ運ばれて来た。



「ゆ、ユウ···? まさかこれ···全部食うのかよ」


「·········お前。これ全部俺に奢らせる気か」

「せ、先輩···っ。目が、恐い」



鋼太朗はテーブルと向かいの席の勇羅を交互に見つつ、ドスの利いた突っ込みを勇羅へ浴びせる。次々とテーブル席に置かれているメニューは、麗二や鋼太朗が注文したアイスカフェラテや、瑠奈と勇羅が注文したアイスミルクティーだけではない。


鋼太朗が知らない内に勇羅は、店のケーキを全種類注文していたらしい。チョコレートケーキは勿論、チーズケーキにカスタードケーキ。中には色とりどりの旬のフルーツが盛られた、フルーツピザまでテーブルに並べられている。


「えと。そのー···。お、美味しそうだったから······つい」

「『つい』じゃねーよ! これは単純に病み上がりの俺に対する嫌がらせか!?」

「それ。私も頼めば良かった···」


鋼太朗の被害妄想染みたツッコミを余所に、果物とクリームの甘い香りを漂わせ、次々とテーブルに並べられているケーキを見ながら、瑠奈も口を尖らせる。


「真宮先生から聞いたけど、お前体調不良起こしてるんだろ!? 大体そんなに食っていいのか!?」


鋼太朗の言う事は最もな正論だ。鋼太朗に同意するように、麗二も目の前のケーキを眺めながら、苦笑いを浮かべる。原因がわからない体調不良を起こしているのに、理不尽な注文をしている。


「え、えへへ···。でも食欲は普通にあるし、体調良い時はしっかり食えって先生言った」

「···~~っ!」


目を泳がせ何とか目の前のケーキを食べる理由を、しどろもどろに説明をしつつ苦笑いを浮かべる勇羅。逆に何ともし難い表情をしながら、鋼太朗は空いた片手でこめかみを抑える。すると知らず知らずの内に瑠奈も店員を呼び出し、追加の注文を始めていた。全く茉莉は余計な事を言ってくれたものだ。


早速ケーキを手を付け始める勇羅と、瑠奈の注文する姿を見た鋼太朗は、自分の財布が空っぽになるのと今月から生活費の為のバイト三昧になる事を覚悟した。



―午後五時半・神在駅前。



「せんぱーい。今日はいい店ありがとねー」

「はははは···」



6月も半ばに入り、周辺もまだ明るくなっている駅前の中。微妙な表情をしている鋼太朗とは対称的に笑顔の勇羅。両脇の麗二や瑠奈も苦笑いを浮かべている。注文を頼み終えた後、食べながらの話し合いの末に、何とか全員自腹と言う事で決着が着き、鋼太朗のバイト三昧は辛くも回避となった。


「まったく。これ以上何も起きなければ良いけどな···」


三人の背を見送った直後。鋼太朗の携帯から着信音が鳴る。待ち受け画面を確認すると、相手は昨日ある事情で顔を合わせた同級生の名前だった。


「俺だ」

『四堂君。今、時間大丈夫ですか』


和真からの依頼で、数日間鋼太朗や勇羅達探偵部の面々とは、別行動を行っていた泪だ。鋼太朗はそのまま問題ないと答えると、先ほどまで勇羅達との会話のいきさつを簡潔に話す。


『ユウ君達はもう帰りましたか?』

「···てか、さっきの話し合い見てたのかよ」


泪の話し方のそぶりから、鋼太朗達の会話をどこかで覗き見していたらしい。見ていたのならせめて勇羅達が帰る前に、姿を見せれば良かったものを。


『瑠奈もユウ君も暇さえあれば一緒に食べ歩きしてますし。美味しいものには目がないから、飲み物以外に何かしら注文する事は想像してました』


泪の苦笑気味の声が聞こえてくる。以前一緒に鋼太朗のバイト先へ訪れた事を考えると、二人は食べ歩き仲間のようだ。



『話し合いの件ですが、あの事件の事は···』

「それなら最低限の部分と宇都宮夕妬の件しか話してない。正直あれ。和真さんは皇にも見せなかったんだろ」


『······えぇ。あれは雪彦君にもまだ早すぎるから、見せない方が···いえ。『普通の人間』には絶対に見せられないと言っていました』



雪彦にも見せなかったと言った『あれ』とは、壊滅した聖龍古参連中がばら蒔いたDVDだ。ばら蒔かれたのは東皇寺学園や学園都市周辺。近隣の警察だけでない。恐ろしい事に皇コーポレーションや、和真が勤務している会社にも送られたと言う。


国内有数の大企業でもある、皇コーポレーションにあれを送りつけるのも余程だが、本社が海外に存在し尚且つ皇コーポレーション以上に、様々な事業を展開している和真の一族にも、件のDVDを送りつけるとは、連中は命知らずにも程がある。


『先輩達の勤務先にも届ける事が出来たのは、大方宇都宮夕妬の携帯を盗み見たんでしょう。(さか)しい細工は奴らの十八番です。一人の人間に固執しなければ、彼らもあのような結果になると思わなかったでしょう。最も、既に居なくなったものに語る事などありませんが』


一つだけに固執し続けた事は、宇都宮夕妬最大の欠点であると語る泪。聖龍古参は爆発火災で全員死亡し、聖龍事件の全貌を知るものは既に誰一人として居ない。夕妬が引き入れた若手や新参達は、あくまでも例の取り引きだけを主に行っていて、古参達が裏で何を行っているかも知らなかったと聞く。夕妬の目を盗んで彼らが本来行っていた行為すらも、全く知らなかったそうだ。


聖龍の新参達はあくまでも、古参達の使いっ走りとして扱われていた。彼らが夕妬側に付いたのは、使い捨ての駒の如く自分達をこき使う古参達に余程不満を持っていた。そんな時に聖龍に取り入った夕妬は、彼らを駒として扱う事をしなかった。夕妬は蜜のように自分へ群がる獲物を、夕妬へ不満を抱く古参達よりも、自身に従順な彼らへ優先的に与えた。


しかし彼ら新参達も結局は、一人の人間に固執し過ぎた夕妬や、裏で暗躍していた古参連中に利用されていたのだが。



「······あんなもん、大人でも見られるもんじゃねー。普通の感性してる人間なら、絶対おかしくなっちまうよ」




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