表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TAME GATE psychic record  作者: 時扉
篠崎勇羅の宝條学園事件簿
142/283

92話・勇羅side



―午後三時半・宝條学園中庭エントランス。


「あーあ。彩佳先輩から友江さん保護の連絡受けて、もう一週間かぁ···」

「なんだか時間経つのもあっという間だよね」


学園の正門へ続くエントランスを歩いているのは勇羅と瑠奈。麗二の三人。事件後はありとあらゆる箇所が、事件の解決を待っていたかのように一斉に動きだしたのか、あっという間に時間が過ぎていった。宝條学園も元の落ち着きを取り戻し、登下校時間の間に校門の教員がいる以外、中庭エントランスは部活や下校する生徒達で賑わっている。


テレビやネットニュースなどの情報によれば、東皇寺学園は来年三月末を持って完全に廃校が決まった。現在も連絡を取り合っている彩佳の話によると、事件が公に明かされた直後は警察だけでなく、マスコミや新聞社。挙げ句の果てにネット動画実況者までもが押し寄せ、学園中の至るところで大騒ぎとなったらしい。宇都宮家の権力と言う甘い汁を吸い続けた結果、最終的に大勢の教諭や生徒が逮捕・補導された挙げ句、学園までも潰されたのだから。


彩佳は幸運にも最後まで異能力者だと言う事が、学園側に発覚せずに済んだ。しかし彩佳の家族が、東皇寺学園の廃校が決まった以上。念を入れて異能力者の迫害が少ない郊外の地域へ、家族と一緒に引っ越す事になった。彩佳もまた一学期を目処に、東皇寺学園から去り郊外の他の学園へ転校が決まっている。


「宇都宮の奴。本家の圧力で聴取諸々から解放された癖に、最後まで学園にも姿見せなかったってさ」

「あれだけ一人の人に執着してた奴が、あの程度で完全に潰れたとは思えないけどね。金と権力に物言わせるあいつの事だから、また何か仕掛けて来そうだよ」


あれから宇都宮本家の圧力により、警察から解放された宇都宮夕妬の姿も全く見かけない。響から聞いた話によると、警察から解放されて以降は、夕妬自身は学園にも一切姿を見せず、消息こそ絶っているものの、彼は生きているらしい。生きている事が分かったのは、ネットニュースなどの情報で夕妬は報道の目を逃れる為に、宇都宮本家に戻ったという事だった。


姉を陥れるのではなく、姉の本心を聞きたいが故に夕妬に利用された挙げ句、聖龍に弄ばれ続けた友江芙海はもう手遅れだった。薬物による中毒症状が酷く、更に日常生活を送る事が極めて困難な状態であり、治療の為に専門の医療施設への移送がほぼ決定した。奏の話によると施設の専門医師の治療で、ある程度の延命の見込みは望めるらしいが、彼女の精神は最早廃人に近い状態だと言う。最悪の場合。友江芙海は一生病院での生活になるだろうと。


更に友江芙海の両親は娘の惨状に対し、こんな所に閉じ込めては余りにも娘が可哀想、姉の継美に芙海の面倒を看させると言い出し、無理やりにでも病院から連れ出そうとする為、主治医や医師。看護士達は家族の説得に難航していると言う。妹だけでなく姉の継美も、夕妬に弄ばれた被害者の一人だと言うのに、余りにも無責任な両親だ。


「···友江姉妹の両親。色々やばいって噂、本当らしいな」

「ヤバイって」


勇羅達に注目される麗二が、友江姉妹の両親について話し出す。麗二が雪彦や万里から聞いた話によると、友江姉妹の父親は勤務先の会社から、直々に懲戒免職を言い渡されたそうだ。


友江父の家族の問題をこれ以上先伸ばしにすれば、皇コーポレーションとの取り引きを、打ち切られてしまうと判断した取り引き先は、皇コーポレーションとの取り引きを継続する事を引き換えに、周囲に数々の問題を起こした友江姉妹の父親を、最終的に切り捨てる事を選んだのだ。


「奥さんが旦那の懲戒免職取り消すのに、勤務先の会社と雪彦先輩の両親の会社訴えたらしい」

「マジっ? 旦那さんの会社はともかく、雪彦先輩の両親の会社に喧嘩売るの、相当命知らずじゃない」


しかし友江夫の懲戒免職に抗議したのが、やはり都市の教育委員会を勤める姉妹の母親。

妻曰く夫は会社に対して何の罪もない、夫の懲戒解雇は完全に不当だとし、夫の懲戒解雇を取り消すべく、解雇を決めた会社と元凶となった雪彦の両親の会社すらも訴えると言う。


ただし。取り引き先にも皇コーポレーションにも、東皇寺事件を始めとした、一家に対する不祥事の証拠が、これでもかと言わんばかりに存在する。更に二人の娘が聖龍と関わっている事を、双方の会社側から持ち出される以上、母親が大企業相手に裁判へ持ち込むのは絶望的だろう。


「えと···。和真兄ちゃん達の一族に、喧嘩売るよりマシだと思うよ···多分」


麗二のぼやきに返すようにして、勇羅もまたぼやく。和真や京香の怒りを買い、数々の然るべき場所へ通報されたネット歌い手・ぱふっこは、勇羅達の予想通り自分のアカウントを見事大炎上させた。

当然炎上元となった画像には、聖龍の被害者も数人関わっていた事で、ネット上でも大騒ぎになったのは言うまでもない。それでもあれだけ悪さしているにも関わらず、宇都宮夕妬同様彼も捕まらないのは実に理不尽と言える。


「これも彩佳先輩から聞いたけど、継美さん。あの後も普通に学校行ってるって。だけど、事件の影響で相当まずい事になってるって話だよ」


妹同様に聖龍や宇都宮一族に弄ばれ続けた末。ようやく外へ解放された継美は、あのような目にあったにも関わらず、東皇寺学園廃校が決定した後も、何を思ったのか以前と全く変わらない、日常生活を送っている。だが夕妬や聖龍に狂わされ、依存対象としていた妹・芙海と一切会えなくなった事。


更に連日のように事件のネタを求めるマスコミや、心無いネット実況者に自宅に押し掛けられ、周囲からいわれのない中傷をぶつけられ続けられた事で、元々不安定だった精神状態が更に不安定となり、遂に自傷行為を行い始めた。その傷を家族や妹。周りの人間を傷つけた自分への罰だと言わんばかりだと、継美は毎日のように自らを傷つけるようになった。


一つの学園を地獄へ変えた元凶だと言うのに、勝ち逃げにも似た形で宇都宮一族には逃げられるとは。何とも胸糞の悪い結末だ。


「···そういやお前。最近保健室で世話になってる事多いな」

「え、食欲は普通にあるよ。でも時々、身体がだるくて頭が痛くなるんだよね」


今、勇羅は原因不明の体調不良に悩まされている。念のため病院で秘密裏に受けた、ESP検査の結果は泪の言う通り本当にシロ。しかし原因不明の体調不良が、今も続いていてその体調不良が、異能力者覚醒の兆候でもある可能性は、大いに否定出来ないのだ。体調不良は慢性頭痛と倦怠感と言った、大きく命に関わるものではないが、異能力覚醒の兆候となるならば、いつ体調が悪化するかわからない。


現在は勇羅の検査の結果を、泪経由で知らされた茉莉によって、週二・三回保健室通いによる経過観察処分のみで済まされている。


「そうだ、知ってるか? 昨日学園都市郊外起きた爆発火災で、かなり犠牲者が出たらしい」

「うん、それも犠牲者全員。手配中の聖龍残党だったらしいよ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ