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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
篠崎勇羅の宝條学園事件簿
136/283

86話・櫂&宇都宮side

※警告!!


この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件には一切関係ありません。


勇羅編86話には犯罪・グロテスクに当たる描写及び精神的に不快を催す描写がございます。不快を催されましたら、直ちにブラウザをバックするようにお願いします。
























































































良くも悪くも徹底した反異能力主義でもある、異能力者狩り相手に教えた方が良い話ではないが、向こうにとっても知りたい情報は、知って置いた方がある意味では有益だろう。


「宇都宮一族が、反異能力者主義だって事は知っているな。だが奴らはその裏で『生体兵器』の研究も行っている。自分達一族が世界を掌握する為だけに、兵器の研究を行っていると言う完全な私利私欲。そしてその兵器の研究と開発に、異質の力を持つ異能力者の存在が、最も都合良いって訳」

「……」


櫂の口から出る現実味が全く感じられない、宇都宮一族が目論んでいる信じられない事実を時緒は黙って聞いている。異能力者狩りと言った裏同士の繋がりも深いと同時に、それだけに周りに敵もまた多いのが、ブレイカーと言う異能力者狩り集団だ。


「人道に外れた研究をやるならば、世界規模で表立って迫害されてる、異能力者を使うのが一番だからな。あんたん所の『宗主』は、異能力者だけじゃなくて『異能力そのもの』を嫌がってる。だから『全ての異能力者』と『異能力者に協力する人間全て』を殲滅対象にしてるらしいが…」


ブレイカーの頂点に立つ『宗主』が、異能力を嫌っているのをある程度知っている。ブレイカー宗主がいつどのような経緯で、異能力者狩り集団を結成したのか、櫂自身も詳しく聞かされていないが、宇都宮が人知に外れた、研究を行っている事を知ったのなら、更に異能力殲滅に対して躍起になるだろう。


「宇都宮一族が手始めにと、秘密裏に手を付けたのは異能力者の…『人体の遺伝子研究』だ。さっき戦った奴は、異能力者のクローンだ」


櫂が懸念するのは先ほどのルナの事。ルナは宇都宮が管轄下の研究所地下深くで行っている、遺伝子研究の『副産物』だ。何らかの手段を用いて、『彼女』の細胞の一部を入手したのだろう。最も茉莉を含めた真宮の一族は、【聖域】にも関わっている。真宮本家の一家は一時期、暁村に滞在していたそうだが、当然宇都宮に感づかれる前に暁を発った。それに茉莉の一族は普段、総出で異能力者である事を隠しているが、何せ一族一家全員が思念系の能力者なのだ。特に『彼女』の能力は、遺伝子操作ごときで簡単に、模倣(コピー)出来るような代物ではない。ルナの使う歪な物質具現化の異能力が、それを躊躇に表している。


「まさか宇都宮は…」

「連中はやることなす事、全部が馬鹿げてるんだよ。最も…。『奴ら』は俺達を支配出来る程甘くないがな」


櫂はズボンのポケットから携帯を取り出すと、建物周辺を詮索しているだろう部下達に、これ以上の捜索は不要と判断し、現場を撤収するよう指示を出した。



―某所・宇都宮邸一階リビング。



「芙…海……ふ…み……ふ…み……ふ、み……」


椅子に腰掛けたままの友江継美は、壊れたテープレコーダーを繰り返していくかのように、妹・芙海の名前を呼び続けている。継美の身なりは屋敷へ到着直後、すぐに小夜の手で髪の先から爪の先の全てを清められ、小夜が見立てた特注品の寝間着を、着せられ整えられているが、整えられたのはあくまで継美の身体だけ。それ以外の状態は妹の名前を呼び続ける事と、浅く呼吸を繰り返すだけで継美は微動だにしない。


「継美、お願い。お願いだから、私の名前を呼んで…私はの名前は宇都宮小夜。私の事は小夜って呼んで。ね?」


例の建物にてこれ以上の戦闘は無意味だと判断し、小夜はルナを引き上げさせた。本来ならば異なる組織に所属する侵入者二人を、誇り高き宇都宮の名を持ってして、全力で排除しなければいけなかった。だがあのままの不安定な彼女を、無闇に戦わせる訳にはいかない。彼女はここにいる継美と同じ、とても繊細な娘なのだから、帰って来たら継美と一緒にたくさん慰めてあげよう。


「ふ…み……ふ、み……ふ、み、は…ど、こ……? 芙、海…ふ、み……」


宇都宮の権力によって鑑別所から解放した夕妬は、現在は本家の別宅へ軟禁している。本来なら一族の代表として、小夜は夕妬を尋問しなければいけないのだが、夕妬達によって傷つけられた継美を、小夜自身の手で癒す事が最優先だった。継美を見つめていると、部屋の隅に置かれている、あまり使われていない固定電話が鳴り出した。



『よう。宇都宮のお嬢様』



小夜が受話器を取り、耳に当てるとすぐに声が聞こえた。通話の主は少年とも青年ともとれない少し高めの声。小夜の通う学園の生徒でもない。小夜は受話器から聞こえる甲高い男の声を全く聞いた事がなかった。


「あなたは誰?」

『あんたが保護。いーや、この場合監禁と言って良いかな? 友江継美のお嬢さん。さっさとウチに帰してやった方が、宇都宮のお嬢様の身のためだぞ』


まるで人を食ったような男の言い草に、小夜は無意識の内に苛立ちを覚える。


「馬鹿な事をおっしゃらないで頂戴。聖龍から保護した友江継美は、我が宇都宮家が誠意を込めて守ります。全ての者に見捨てられ孤独になった継美を、我が宇都宮家は、彼女を全力で保護する義務があるのです」


『そーかそーか、どうしても返さないか。なら友江継美は全国に公開捜査させて貰おうか。今回の事件、悪名高いあの聖龍も関わってるし、普段お前らが金と権力で圧力かけている警察も、捜査に本腰入ってる。今回ばかりは聖龍に受けた被害が尋常じゃないからな。それはそれは大騒ぎになるぞ~』

「!?」


友江継美の公開捜査と聞かされ、小夜の琥珀色をした美しい目が見開かれる。聖龍の名前も全国に公表されると言う事は、継美を傷付けたあぶれ者達が今もまだ、野に放たれたままと言う事だ。夕妬はとんでもない、置き土産を残してくれたものだ。


『所詮テメーも、宇都宮夕妬や一族ご当主様と同種って訳か。ならばお前達宇都宮は、【聖域(サンクチュアリ)】全てを敵に回すと見なして良いな』


先程の飄々とした口調とはうって変わって、ドスの利いた男の声。男の口から発せられたのは宇都宮一族にとって、忌むべき勢力のものだった。


「せ、【聖域】…っ!?」

『数十年前の宇都宮家による『箱庭』買収の件。よもや忘れたとは言わさないぜ。本家当主がウチんとこの施設、買収に関わってる事が明確だからな。全く分家当主様の『戯れ』に放置された挙げ句、暴走した分家の跡取り様といい、私利私欲がとことん行き過ぎた一族だよ』

「……っ」


『話を戻すな。友江継美を家族の元に返すか、それとも拒否して【聖域】全てを敵に回すか。この通話の後から十二時間やる。それまでに返答が―』

「……口惜しいですが、この場は【聖域】の指示に従います。友江継美は本家の者で、総合病院へお送り致します」


この場は聖域の者達に従った方が身のためだ。要求を拒否すれば、自分達一族へどのような報復が起きるか分からないし、この場にルナが居ない以上、歯向かうには不特定な材料が余りにも多すぎる。継美を手に入れるにはまだ機会はある。


『賢明な判断だ。ウチの職員数名を予め同伴して、友江継美を迎えに行く。それまで余計な事したら、裏社会で二度と好き勝手出来ないと思え』


通話の切れた音だけが部屋に鳴り響く。電話の男は宇都宮一族が裏社会で活動している事も知っている。真の【聖域】は情報網の。何よりも裏社会は当主である祖父が最も幅を利かせている場所であり、宇都宮一族における重要な取引先でもある。


あくまでも一学生であると同時に、当主代行にすぎない小夜に、裏社会との取り引きを切る権限などない。【聖域】の名を無断で名乗り、異能力者狩りすらをも名乗り。宇都宮が夕妬を野放しにした代償は、あまりに大きかったと言う事になる。今の小夜には大人しく、聖域の指示に従うしか方法はなかった。



「……【聖域】。私達はあなた方を絶対に許さないわ。我が遥かなる高みを目指す、宇都宮を敵に回した事……いずれ後悔させてあげる」



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