70話・時緒side
※警告!!
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件には一切関係ありません。
勇羅編70話には暴力・犯罪に当たる描写及び精神的に不快を催す描写がございます。不快を催されましたら、直ちにブラウザをバックするようにお願いします。
―同時刻・郊外某所聖龍アジト。
「!」
「話中の所。邪魔して悪いな」
宇都宮夕妬は不思議そうな表情で、いきなり穴が開いて煙を吹きながら、盛大に壊れたスマートフォンを見つめていた。携帯端末に接続した逆探知機を使い、どうにかして真宮家の居場所を掴もうとする夕妬達の前に現れたのは、鮮血を思わせる真紅のライダースーツを着た一人の男。右手には夕妬のスマートフォンへ、発泡したと思われる黒光りの拳銃が握られ、その銃口は既に夕妬ではなく、他の聖龍メンバーの方向へ向けられている。
「勝手に異能力者狩りを語って、好き放題して悪さ働いてる、世間知らずのガキ共を始末しろ。との上からの命令でね。異能力者狩りに関わろうとしなけりゃ、あんたらもこんな事にならずに済んだものを…」
夕妬や聖龍の面々に、拳銃を向けながら男は器用な動作で、服のベルトに掛けていたホルダーから、愛用のサバイバルナイフを取り出す。
「ひっ! ひいぃぃぃっ」
「バ、馬鹿っ! お、お、落ち着けっ!」
ギラギラと光る鋭利な刃物を見た一人の男が床に崩れ落ちる。得体の知れない見知らぬ男の殺意が、明らかに自分達へと向けられているのだ。
「ねぇ、君の目的は何? 異能力者は僕達人類の敵の筈だよ…? 君が裏社会で有名な異能力者狩りならば、同じ異能力者を排除する僕達聖龍は、君達の味方なんですよ。だから僕達聖龍は、あなた達に敵対する理由など欠片もないんですよ?」
夕妬は拳銃で撃たれ、煙と火花を上げながら破壊された携帯と、携帯を拳銃で撃った男を交互に見ながら、不思議そうな顔で訪ねる。
「年上への口の聞き方はなっていないが、流石に宇都宮のお坊ちゃんは冷静だな。だが、あんたらが異能力者狩りの名を無断で語ってる時点で、こっちを本業としてる身としては、大いに問題アリなんでね。恨むんなら、あんたらを排除するように、命令だした俺らのお偉いさんを恨みな」
「ま、ま、まっ、待てよ! 待ってくれ! 俺達は宇都宮とは何の関係もねぇ!! 頼む! 俺達だけは見逃してくれ! な? な? なぁ?」
拳銃や刃物を見せ付けられても、平然としている夕妬を尻目に、低姿勢で男に許しを乞う中年男。男は黄ばんだ歯を剥き出しにして、ニヤニヤと不敵に笑う。
「そ、そうだよ! 俺達はこの何にも知らない生意気なガキに、騙されただけなんだよぉ!」
「たっ、頼むよっ! 俺達はこの事件に全然関係ないから俺達だけは見逃してくれっ!」
「お、お、俺達だけでも見逃してくれれば、俺達が持ってる金も女もたんまりやるからさっ!!
あんたも異能力とか訳の分かんねーつまんねー狩りなんかしないで、俺達見たいな美味しい仕事して稼いでる、得な方に付いた方が良いだろ! な? な? なぁ?」
自分達のグループを裏組織に目を付けられる迄に、押し上げてくれた相手をこうも簡単に裏切るとは。表情一つ変えない目の前の少年と比べると、全く持って惨めな連中だ。向こうが二十代半ばの自分より、大分年上なのは外見からして確実だが、自分だけでも助かりたいと、必死に許しを乞うて来る男達の姿は、同じ大人としてなんとも情けない醜態を晒している。
「…そんなもん興味ないね」
赤いライダースーツの男…―異能力者狩り・浅枝時緒は不快そうに一言だけ吐き捨てると、無慈悲に男達へ発砲した。
―三十分後・郊外某所。
上層部からのひと仕事を終えた時緒は、いつの間にか携帯を片手に誰かと通話している。彼の周囲には複数の遺体。壁や床には鮮血が散乱し、同時に鉄と硝煙の臭いが蔓延していた。
『時緒。今回は随分と派手にやったね』
「…聖龍主要メンバーと、宇都宮のガキの方には逃げられたよ。前々から思ってたが、あのガキ小賢しい程に周到すぎだ」
時緒が携帯で通話している相手は、普段から時緒の補佐を務めている逢前響。響は時緒が直々に指導している後輩だ。若い新人達が根こそぎ『親衛隊』と呼ばれる、過激派に引き抜かれている中でも、異能力者狩りを束ねる、『宗主』の側に付いてくれた響は貴重な人材だ。
『今回の相手は異能力者じゃないんでしょ。上からの任務とは言え、何も殺さなくても…』
「俺達は異能力者だけを狩ってる訳でもない。異能力者に協力している人間を狩るのも、ブレイカーの仕事なんだ」
何も異能力者だけを狩るだけが、異能力者狩り組織に与えられる任務ではない。異能力者の排除は異能力者狩り組織・ブレイカーの任務の一つに過ぎない。異能力者達に協力している人間を狩るのも、またブレイカーの任務なのだ。元々異能力者に対する復讐の為にブレイカーに入った響だが、本人にはあまり自覚がないだけで、彼は周りの情に流されやすい部分もある。響にもいずれはこの系統の任務を経験させる必要がある。
『そうだ、時緒が任務に関わった聖龍が運営してるホームページ。そのURLがツイッターで流されたって知ってる』
「その件。ウチは全然関わってないし、知り合いにも聞いたけど、身に覚えもないと言ってるぞ。あれはどうも第三者の仕業らしいな」
『うん、今も凄い勢いで炎上してるよ。しかもそれやったのは、政府も裏組織も関係ないただの一般人―…』
響の説明から、ツイッターでURLを流したのは、ネット上や若者の間で話題になっている人気歌い手。その歌い手には熱狂的なファンも多いが、歌手としての人気を取る為に、意図的に周囲を煽る呟きや、言動が多い事から敵も非常に多いとの噂だ。
「全く迷惑な話だ。俺達組織に掛けられた嫌疑も、全然晴れてないって言うのに」
『そういやあの殺人事件。まだ未解決だったね…』
現在ブレイカーにとって最も気掛かりなのは、数ヶ月前から神在周辺で発生している原因不明の連続殺人事件。異能力者だけでなく非異能力者も犠牲となっている事件だが、不可解なのは異能力者狩りとは全く無関係な一般市民をも、殺人事件の犠牲になっている事。裏社会でも例の事件は当然問題になっていて、非異能力者を排除対象にするブレイカーにも当然、組織と組織の間で事件の嫌疑が掛けられている。ブレイカーの頂点に立つ宗主が一早く目を付けたのが聖龍だった。元々己の私欲を満たす為だけに、悪辣な活動する一グループでしかなかった彼らは、宇都宮分家の跡取りの少年をバックにして以降、短期間で裏社会で名を上げる程にまで勢力を拡大させた。
しかし聖龍は余りにも過剰な行動、それ所か無差別の異能力者狩りを始めるとも宣言した故、ブレイカーが直々に聖龍へメスを入れる事となった。堂々と無差別に異能力者を狩ると言う事は、普段より世界の闇に埋もれている異能力者の存在が、表沙汰になる事にも繋がる。宇都宮一族の名は表の財界だけでなく、裏社会でも有名だ。だが彼ら一族を嫌う勢力も決して少なくない。異能力者非異能力者問わず、世界中の人間が無造作に選ばれ、巻き込まれている【殺人ゲーム】を開催・運営する集団の一部なのだ。
『時緒。宇都宮はどうなってる』
「俺の知っている限りだと、あの跡取りが聖龍に介入したのが原因で、宇都宮本家と分家の対立が決定的になったのは間違いない」
本家当主が分家を始めた事から、宇都宮一族の分裂は時間の問題だろう。最も宗主が気掛かりにしているのは、それだけではないのだが。
「お前はどうする。しばらく大きな任務はないから、もう一息ついても構わないが」
『…知り合いの所へ行く。周りで少し気になる事があって、そっちの方に集中したい』




