62話・勇羅side
「まったく三間坂の奴。どこかしら現れては世話焼かせるんだから」
「せめて身柄が無傷なだけ、運が良かったと思いな」
泪から送られてきたメールの内容は、雪彦の口から聖龍の内部分裂を、知ったばかりの勇羅達の度肝を抜かせるには十分だった。今の目的は学園都市郊外にある、廃棄物処理工場へ向かい、泪の聖龍アジト侵入を尾行していた、三間坂翠恋の入り込んでいるロッカーを回収する事。彼女は奇跡的にも聖龍の連中に発見されておらず、軽トラックでロッカーごと、工場へ持っていかれたとの事らしい。泪から瑠奈へ送られたメールには、丁寧に工場までの案内図も添付されていた。
和真と茉莉にこれまでの経緯を連絡し、響達東皇寺のメンツに雪彦と万里、琳は改めて神在総合病院へ向かい再度情報収集を行う事になった。東皇寺や宇都宮一族による、宝條学園への強制介入とESP検査の件は、一連の話を聞いた茉莉はすぐに理事長へ連絡を入れていた。異能力者も何割か通っている宝條学園に、もし異能力検査が入られれば、大事では済まされないのだから。
雪彦達と別れた勇羅と瑠奈は、泪から連絡を受けた麗二と駅前で合流し、翠恋ごとロッカーが運ばれたと思われる工場へ向かっている。送られて来たメールに添付されていた、地図のデータを麗二の携帯へ転送し、その地図を頼りにメールに書かれていた、廃棄物処理工場へ行く事になった。
麗二の携帯へデータを転送したのは、勇羅のアドレスは既に聖龍一行へばれている事と、マークされている瑠奈の方は事件が解決するまで、知り合いだろうが誰だろうが、履歴ごとメールも削除しなければいけない為だ。
―午後五時半・廃棄物処理工場。
「この工場か…」
学園都市駅から約十分程走った所で勇羅達三人は、ロッカーが運ばれたと思わしき工場へと到着した。一見誰も人が入って来なさそうな工場だが、機械の動く重い音が、工場の外からも響いている事から、現在も稼働しているようだ。だが一刻も早くゴミが処分される前に、翠恋の入っているロッカーを探し出さなくてはいけない。
工場の入り口を見つけると、その場所には当たり前にと、見張りの作業員が居たので、麗二が作業員に事件の事を極力ぼかしながら事情を説明し、工場の中に入れてもらった。当然人の入ったロッカーを探しているだなんて、口が裂けても言えないし、ましてや説明したのが勇羅や瑠奈だと、工場の中にすら入れてもらえなかったに違いない。
さっそく目的のロッカーを探すべく、三人は作業員に教えて貰った場所へと一目散に向かう。
「あ、あれかな」
廃棄場を見回っていた勇羅がある場所を指さす。その場所には鉄骨やら木材やらの、古いゴミが雑に大量に置かれている中に、数個の古いロッカーがまとめて置かれていた。幸いにもまだ処理される前の状態で放置されていたようだ。他の粗大ゴミにロッカーがない事から、あの中に翠恋がいるのは間違いない。
勇羅達はすぐにロッカーの方へ行き扉を確かめる。鍵は壊れていたのか、鍵の壊れたロッカーは簡単に開いたが、一つ目のロッカーの中身は無情にも空っぽだった。これではないと判断した勇羅は、空のロッカーをゆっくり閉める。そして更に麗二と瑠奈が一つ、二つ目と各々がロッカーを開き中を確かめるが、二人が開いたロッカーも全て空っぽ。
そして最後となる隅に置かれていたらしい、四つめのロッカーに取りかかった勇羅が、勢いよくロッカーの扉を開けると…。
―…ガチャッ!
「! こっ、ここは?」
「いた! 三間坂っ」
隠れていたロッカーをいきなり開けられ、入り込んできた照明の眩しさに左手で両目を覆う。慎重にロッカーから外に出て当たりを見回しつつ、何故勇羅や瑠奈がこんな所に居るのかと、訝しげな表情で三人を見ている。何の被害もなくピンピンしている翠恋を見ながら、瑠奈は反射的に大きな溜め息を吐く。
「…あんた。もう少しでロッカーごと、ここの廃棄処分場の機械にブチ込まれる所だったんだよ」
「ええっ!? なっ、なっ、な、どう言う事!? こ、このあたしが廃棄処分!?」
自分が廃棄処分との言葉に反応したのか、翠恋はこの場がどこなのかも忘れて、普段と全く変わらない調子で突っかかる。これはいつもの翠恋だと確信し、勇羅と麗二も安堵の溜め息を吐く。
「三間坂がいる場所、赤石先輩が教えてくれたの。後で帰ってきたら先輩にもお礼言いなよ」
泪が翠恋の居場所を教えてくれたと聞き、これまでの出来事を思い出したのか、翠恋はいきなり頭を伏せて黙ってしまった。泪に迷惑を掛けてしまった自覚はあったようだ。
「そ、そうよ。泪はっ!? 泪は今どこにいるのよ!?」
「赤石先輩からも連絡あったよ。もうすぐこっちに帰って来るって」
「そ、そう…」
泪も無事と聞かされ、多少は戸惑っているが、翠恋はよかったと言うような表情を見せる。だが勇羅達は翠恋に本当の事は簿かしている。実は泪の方だがまだ神在へ戻って来ておらず、あれ以降の連絡もない。泪からはメールで自分の後を付け、聖龍の事件に巻き込まれた、翠恋を保護しろと単純に連絡を受けただけなのだ。
「る、泪は一体何をしてるのよ? あんな近寄らなさそうな物騒な場所に行って、探偵のアルバイトしてるって噂でも聞いたけど、あんなので普通の仕事してるとは思えないじゃない」
翠恋の言う事は最もであり正論でもあったが、勇羅をはじめこの中で誰も、翠恋の疑問に答える事は出来なかった。泪が自分達以上に危険な橋を渡っているのは事実だ。泪が聖龍のアジトへ何をしに行ったのか、別れ際に雪彦に聞いてみたが、雪彦も詳しい事は知らされていないようで、泪が聖龍のアジトで何をしているのかも、結局は教えてくれなかったのだから。
「それより早くここを出た方が良い。お前がそこに隠れて入ってた事は、ここの人達に言ってないから」
麗二が早く工場を出る事を、促す発言に勇羅達も同意する。本来関係者以外立ち入り禁止の場所を、無理をして入れてもらっているのに、これ以上この場で騒ぎを起こすのは良くない。
「わ、わかったわよ…」
麗二が歩き出すと同時に、勇羅と瑠奈も麗二の後ろに続く。翠恋も勇羅達に追求しても、詳しい事は聞けないと判断したのか、渋々三人に従う事にした。背の高い麗二を先頭に、勇羅と瑠奈は翠恋を両脇に取り囲むようにして、入る前にはここにいなかった翠恋を、どうにか隠しながら元来た道をたどり、入り口の作業員に礼を言って工場を後にした。




