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事件記録:残酷なるショータイム

 東京湾に浮かぶ退廃と無法が支配する異形の街――東京アバディーン――

 その街の中心にして支配力の中枢となる場所、それが多国籍大規模企業グループ『白鳳グループ』が支配する金色の伽藍『ゴールデンセントラル200』である。


 地上200mの高さを誇る高層ビルで円筒形状をしている。また外壁表面の高耐久性ガラスの表面に施された鏡面保護コーティングによりビル全体が金色に光り輝いている。

 東京アバディーンの住む者ならば、この壮麗なる支配の象徴の巨大ビルの輝きに対して、この東京アバディーンと言う退廃の街の支配者がだれであるのか、思い知らされずにはいられない。すなわち、このビルを所有する白鳳グループであり、そして、その影に存在する集団である翁龍オールドドラゴンである。そのビルの輝きが意味する物の正体に思い至るたびに、人々は心のなかに恐れを抱くこととなる。


 ゴールデンセントラル200――それはこの街の支配の象徴である。


 そのゴールデンセントラル200の32階フロア、通称『円卓の間』と呼ばれる集会フロアがある。とある特別な存在である7つの組織が、定期的に会合をする間であった。

 翁龍、緋色会、ブラックブラッド、ゼムリ・ブラトヤ、ファミリア・デラ・サングレ、新華幇、そしてサイレント・デルタ――

 人種も文化背景も、世代も、組織形態も、活動方針も、犯罪レベルも、全く異なるこの7つの組織は、この円卓の間にてとある人物によりひとつにまとめられていた。


 サイレントデルタ・メインアドミニストレーター

 IDナンバー555、通称『ファイブ』

 総銀無垢のボディを三つ揃えの高級スーツで包んだ怪人物。サイボーグともアンドロイドとも言われるがその正体は全くの不明。

 だがその優れた情報掌握能力とネットワーク能力から、円卓の間に集う闇社会の住人たちと対等に渡り合い、抗争と勢力争いに明け暮れていた彼らを、意見調整の場所として円卓の間に結びつけることに成功した人物だ。

 彼の手により産み出された意見調整機関は、〝七審〟――またの名を〝セブン・カウンシル〟と呼ばれる。

 ファイブ――かれこそはセブン・カウンシルの要なのである。


 

 @     @     @


 

 ファイブは今、歓喜の入口にあった。彼の手の届く範囲に、一つの獲物がかかったからだ。

 その獲物の名は『特攻装警第6号機・フィール』

 現時点で全特攻装警の中で唯一の女性型であり、飛行能力と空戦能力を持つ戦女神。

 その愛らしくも凛々しいルックスは警視庁を象徴するマスコット的存在であり、彼女の登場がアンドロイド警官と言う、ともすれば警戒されやすいコンセプトである特攻装警の持つ社会的イメージを、どれだけ改善し、どれだけ人々に馴染みやすくさせたのか、計り知れないものがある。

 その彼女に向けられているのは〝好意〟であり平穏な社会への〝願い〟だ。

 フィールはある種のヒロインであるのだ。人々にとって紛れもなく〝正義の味方〟といえる存在だったのである。

 そのフィールを自らの作戦展開エリアへと捕らえたのが、サイバーマフィア・サイレントデルタを統べる〝ファイブ〟である。ファイブは自らの周囲に3次元ホログラムによる空間ディスプレイを展開している。

 そして、円卓の間の中央に、今これからはじめられようとしている〝余興〟のための準備を始めようとしていたのである。


「さて皆さん、少々退屈でしょう? 今からちょっとしたお遊びを始めたいと思います。お付き合いいただけますか?」


 ファイブが楽しげに、円卓の間に残留していた人々に声をかける。

 この場に残っていたのは翁龍の王之神老師と翁麗沙女史、ファミリア・デラ・サングレの首魁ペガソと、その秘書兼愛人のナイラだ。

 ママノーラとウラジスノフは作戦活動中、緋色会の天龍は活動拠点へと引き返して行った、ブラックブラッドのモンスターはママノーラの依頼を受けて何処かへと向かい、新華幇の伍志承と猛光志は、これ以上残留しても益なしとして立ち去っていった。

 王之神とペガソは、まだこの部屋にて得られる情報に期待して、ファイブとともに待機していた。なにしろ、ここには電脳と情報犯罪の権化であるファイブが控えているのである、今、この東京アバディーンの土地にて起きている事件や騒動について情報を得るには最適な状態であった。

 ましてや、今、あのベルトコーネを巡って混沌とした状況が続いているのである、いたずらに動くよりもじっと待機する方を選んだ者が居たとしてもなんら不思議ではなかった。その〝待つことを選んだ者たち〟に向けてファイブはさらに告げた。


「少々悪趣味ではありますが、美しいモノが散華するさまをご覧に入れましょう」


 そう語りながらファイブはヴァーチャルコンソールを操作した、彼が起動させた100体以上の空戦ドローン、軍用にも適用可能なだけの戦闘力を有した悪意の象徴――、それをまるでオーケストラの楽団員をタクト一本で操る指揮者のごとく、勇壮に、華麗に、操り始めたのである。


【 BGM演奏開始             】

【 曲名:オペラ「ニーベルングの指環」   】

【   :第二部第三幕前奏曲        】

【    『ワルキューレの騎行』      】

【 作者:リヒャルト・ワーグナー      】


 壮麗かつ悲壮なオペラ楽曲がBGMとして流れ始める。それをバックに、まるでベトナムの密林地帯を焼き払うヘリ部隊の如くに、漆黒の闇夜の東京アバディーンの魔窟の街から、黒いシルエットのドローン体が、闇夜を舞うコウモリかカラスの如くに、そこかしこから舞い上がっていく。

 それはまさに魔物の如くだ。

 魔窟の街の上空に迷い込んだ一人のワルキューレを悪夢へと誘う魔物たちの葬列である。

 大仰かつ、凝った趣向を展開するファイブに対してペガソが口元を歪ませながら楽しげに語る。


「いい趣味してんじゃねえか、ファイブ。ナチスがヒトラーを讃える席で流した曲で、あの日本警察が誇るヴァルキュリアを血祭りにあげようってわけか」


 ペガソの言葉にファイブが笑いながら答える。


「その通りです、ミスターペガソ。ボクの悪趣味に少々お付き合いくだされば幸いです。なにしろ――」


 ファイブは語りながら両手の平を上へと向けて両肩の辺りにかかげながらこう告げる。


「この体ではこう言う形でしか快楽が得られないものでして。普段はタレントアンドロイドや、個人所有のメイドロイドやネニーロイドなどを捕らえて弄んでいるのですが――」


 そしてファイブはさらにヴァーチャルコンソールを操作し、東京アバディーンの街の各所から発信させた戦闘ドローンを上昇させ、包囲展開し、瞬く間にフィールを取り囲んで退路を断ちながら哄笑の叫びを上げる。


「今宵の獲物はあの戦女神! 日本警察が誇る特攻装警のフィール! 是が非でもこの手に捕らえたい! これほどの最高のチャンスを逃す手はない! さぁ、最高のショーをお見せしましょう! 悪食のこのボクにお付き合いいただけるのでしたらねぇ! ククククッ!」


 それまでの冷静な振る舞いが嘘であるかのように、ファイブは興奮気味に語り、そして耳障りな笑い声を上げる。その狂態に王麗沙は眉をひそめて王老師の背後へと下がり、ナイラはこれから起こるであろう惨劇を思い描いて怯えにも似た表情で視線を伏せた。

 王之神は黙したまま語らずじっと空間上のスクリーン映像を見つめている。

 だが、ただ一人――


「ファイブ」


 ペガソの呼び声に微かにファイブは視線を向ける。そのファイブにペガソがかけた声は賞賛と好意だった。


「いいねぇ。こう言う余興は嫌いじゃねえぜ。なにしろ首から下は味気の無ぇプラスティックボディ――徹底的に遊んでやるのが礼儀ってもんだぜ。獲物の毛皮をひん剥くようにな!」


 ペガソだけは喜びの声をもってファイブが繰り広げようとする残酷ショーを期待を寄せたのである。


「なぁファイブ、お前にとっちゃああの女は、マリリン・モンローかキム・カーダシアンでもレイプするような気分なんだろう?」


 ペガソはウィスキーの注がれているグラスを傾けながらファイブを賞賛する。


「見届けてやるよ。お前が獲物を味わうところをな」


 それは強烈なサディズム。そして、同じサディズムを嗜好としている者同士が感じ合うシンパシーの様なものだ。ペガソにとって女とは獲物でありトロフィーだ。その獲物を味わう瞬間こそが男としての本懐だ。フィールと言う至高のアンドロイドガールをその掌中へと収めたファイブをペガソは讃えた。それは闇社会という弱肉強食の世界に生きる者だけが得られる感覚だったのである。


「ミスターペガソ。あなたのご期待お答えしましょう――、とくとご覧あれ」


 ファイブはさらにコンソールを操作する。


【 サイレントデルタ総体システム群     】

【         管制プログラムシステム 】

【                     】

【 >空戦機能ステルスドローン       】

【 >SD0124 より SD0223   】

【 指定攻撃対象:特攻装警第6号機フィール 】

【 攻撃実行モード:            】

【        リレーショナルセミオート 】

【                     】

【 戦闘コマンド〔――実行――〕      】


 仮想ディスプレイの上でグリーンのコマンドが実行される。そのコマンドに込められた悪意とサディズムが乗り移ったかのように戦闘ドローン群は、野原の実りを食い尽くす大量発生イナゴの様に、羽虫のような作動音を響かせながら急加速していく。そのドローンどもが向かう先には――


「さぁ! 踊れ! 踊れ! 死に物狂いで逃げ回れ! 逃げ切れるのならばな! 特攻装警フィール! お前の翼はボクが全てむしり取ってやるよ!」


――白銀の翼のアンドロイドの少女が蒼白の表情で為す術無く佇んでいたのである。



 @     @     @


 

「……なに? あれ」


 フィールはその光景が信じられなかった。


「ドローン? なんでこんなに」


 数が信じられなかった。


「どうして出てくるの?」


 理由が信じられなかった。


「なんで、完璧に退路を絶とうとするの?」


 その緻密なまでの統率力が信じられなかった。その黒の群れはフィールの周囲を濃密に取り囲み、まさに黒の外壁と呼ぶにふさわしい障壁を構成していた。


「これ――全部――」


 そして目の前で展開された機能が信じられなかった。

 それは半円形の黒いシルエット。直径は60センチほどで一見すれば皆同一の形状である。ホバリングファンは内部に内蔵式でありローターを損傷して墜落する可能性は低い。ましてやその半円形の形状が防御力と耐久力を高めるための物であることは一目でわかる。


 あるドローンは、左右に分かれて内部からレーザー銃口を露出させる。

 あるドローンは、機体の4箇所から空間放電用の高圧端子を展開させる。

 あるドローンは、機体下部の円周部から回転式のノコ刃を露出させる。

 あるドローンは、機体を旋回させながら金属製のワイヤーを放射する。

 あるドローンは、ペッパーボックス式の散弾発射装置を展開させた。

 そしてあるドローンは太い筒状の器具を露出させる。直径5センチ程度でそこから放たれたのは赤く輝く炎で、それは火炎放射器と呼ばれるものだ。


 射抜く、放電する、切断する、絡める、撃ち抜く、焼く――


 おおよそ考えられるだけの悪意がそこには並べられていた。その数100体。単なる量産用機体だとは考えられないバリエーションだ。そしてそこに込められた執念と狂気を感じずには居られなかった。


「――――」


 フィールは完全に言葉を失う。もはやそこから感じられる恐怖は言葉では表現できるものではなかったのだ。


――ブゥゥゥゥン――


 重く響く唸り声、それはドローン内部に組み込まれたエアダクトファンの音だ。だがそれが100機分以上も集まることにより、まるで地響きを立てて迫りくる怪鳥の羽音のようにも思えてくる。今、フィールが汗をかく機能をもっていたとしたら、全身いたるところから冷や汗をかき、心臓はこれまでにないくらいに鼓動を早めていただろう。

 そして、フィールは今まさに生まれて初めて〝心の底からの恐怖〟と言う物を味わいつつ有ったのだ。


「に、逃げ――」


 かすかにつぶやき眼下を見る。だが下からもドローンの群れが密集形態で退路を遮断している。反射的に頭上を仰ぐ。するとそこにかすかな隙間が有る。それはまさに絶望の中の僥倖のように思えただろう。


――まだ間に合う!――


 そう直感して全速力を頭上の一点からの脱出へと向かわせる。

 マグネウィングを、電磁バーニヤを、フルで作動させて急加速する。


――お願い! 間に合って!――


 絶望を必死に振り切ろうとするフィールの思いが最後の望みへとつながろうとしていた。そしてそこにしか希望はなかったのだ。だが――


〔かかった――〕


 不気味な、それでいて他者を見下した、嫌味な声が響く。それは音声の発信元を特定さえ無いように、全てのドローンの中のいずれかから無差別にランダムに変化を繰り返しながらメッセージが発信されている。フィールはそれを耳にした時、強烈な不安と共に、背筋に冷たいものが走るのを感じる。


「え?」


 フィールがそう呟くと同時にソレは悪意の牙を剥いたのである。

 数十メートル程の等間隔距離をおいて離れた位置に、6つの方向に端正な六角形を描いて特別なドローンが待機していた。


――指向性放電兵器――


 かつてあの南本牧の事件で、スネイルドラゴンの悪名高き幹部ハイロンが用いていた殺人用途の放電兵器だ。それを仕込まれた機体が他のドローンの群れに隠れ潜んでいた。唯一残された退路へとフィールが逃げ手を伸ばしたさいに、6つの方向から一直線に青白い紫電がほとばしったのだ。電圧のレベルもあのハイロンが装備していたものとは比較にならないくらいに高いものだ。

 ソレはまさに天使を射抜く悪魔の弓矢。6条の放電はフィールの体を一瞬にして貫く。

 左手、首筋、背面、左腰、左太腿、そして右足首。それらの箇所が細く絞られた高圧放電により焼かれ、プロテクターで覆われていない場所は構成素材のバイオプラスチックを焼損する。そしてその下地となるメッシュフレームは露出して、その内部メカニズムを無残にも晒すのである。

 フィールにも痛覚システムはある。

 痛みは肉体のトラブルを知らせるためには最も効率的でわかりやすいシステムである。それをアンドロイド開発の過程で必要なものとして取り込んだとしても何ら不思議ではなかった。だが――


「ギャァッ!!」


 壮絶な悲鳴がなりひびく。6条の青白い紫電の直線光はフィールの体表を焼いたのみならず、その防護構造をやすやすと突破して内部メカニズムを浸潤する。それは筆舌に尽くしがたい苦痛を伴ってフィールの体を犯していくのである。


【   体内機能モニタリングシステム    】

【    <<<緊急アラート>>>     】

【  ―各部主要部分障害及び破損発生―   】

【                     】

【1:左手首貫通創発生           】

【  左指系統小指薬指駆動系破損発生    】

【                     】

【2:首部右後方外部焼損          】

【  内部予備プロテクター構造により    】

【            重要機能部破壊阻止】

【                     】

【3:背面電撃傷発生、           】

【  損傷度軽度              】

【                     】

【4:左腰部体表、開放損傷発生       】

【  内部動力B系統露出          】

【  高圧動力ケーブル予備系統軽度損傷発生 】

【              絶縁能力低下中】

【                     】

【5:左太腿貫通損傷            】

【  左大腿部内部予備フレーム軽度損傷   】

【         >左股関節部運動障害発生】

【6:右足首関節部放電受傷         】

【  オプショナルギアプロテクター     】

【        による保護成功、損傷度軽微】


 それら6ヶ所のうち致命的だったのは左腰だった。腰はその運動機能の重要性から首と並んで保護しにくい場所の一つだ。それも体表部が露出している部分が破損してしまったのだ。内部メカはまだ破損していなかったが、そこが弱点となり敵の狙い目となるのは明らかだった。そしてなにより――


「しまった!」


 残る数多のドローンがフィールの頭上を塞いでいく。それはまるで、自由への扉を閉ざされ、絶望の牢獄へと引きずり込まれる光景のようであった。退路は完全に絶たれた。今、フィールを取り囲んでいるのは100を超える数の敵意、そして邪悪なる歓喜。その絶望の群れがフィールへと話しかけてくる。


〔日本警察がほこるアンドロイド警官、特攻装警――、その紅一点にして白銀の天使――、ようこそ終末の舞台へ。ようこそ処刑の空間へ、まずは君を迎えられた事を光栄に思うよ! まずは挨拶と行こうか。私の名は〝ファイブ〟――字名をシルバーフェイスのファイブ――、以後お見知りおきを!〕


 ファイブ――その名を耳にした時、フィールはかつて、ディアリオや情報機動隊の人々に聞かされた話を思い出していた。


「ファイブ? 聞いたことがある。またの名をトリプルファイブ――、最近、首都圏の電脳犯罪界隈を賑わせている新型の組織、サイバーマフィア、サイレント・デルタのメンバーね?!」


 フィールは内心から沸き起こる恐怖と戦いながらも気丈にファイブに対して毅然とした口調で問い掛けていた。そこにはまだ恐怖や絶望に折れたような素振りは微塵も見られなかった。その気高さと強さを評して、ファイブの言葉が続く。


〔ほう? 君に知っていただけてるとは光栄だね。その通り、ボクが率いる組織はサイレント・デルタ――、世界でも類を見ないサイバーマフィアだ。ハイテクの未来世界を掌握し、その未来を食い尽くす新時代の〝悪〟だ! いずれは君たち特攻装警とぶつかりあうことになるだろう。それは他のサイレント・デルタのメンバーたちも意見を同じにするところだ。だが僕はかねてから君だけに強い関心を持っていた。なぜだかわかるかい?〕


 フィールは答えなかった。強い嫌悪感を抱いていたためでもあるが、到底理解できない理由であることは明白だったからである。


〔つれないなぁ、そう無視されると無理やりにでも聞いて欲しくなる! 僕はね、美しい女性型アンドロイド――ガイノイドが大好きでねぇ! 自分の支配下に置き、その存在の全てを踏みにじりたくなる! 君のように気高く雄々しい女性はなおさら欲しくなる! 全ての存在をこの手に掌握し支配し、そして指先から頭脳の中心に至るまで破壊したくなる! 体の末端から切り刻み引きちぎり、恐怖におののき、誤作動とエラーと作動障害に苦しむさまはたまらないくらいに美しい! 敵意を剥き出しにし逃げ惑う姿は、もっと愛してやりたくなる! 手足を全て分解し、頭部と胴体だけになった姿で、攻撃を加えながら生きながらえさせると、もっと愛おしくなる! 最後は頭部と最低限の動力だけにしてその頭脳中枢をダイレクトにハッキングし、頭脳の中の基底プログラムの最後の一行に至るまでいじりまわしそのAIや人工自我が許しを請い、人工知能としては禁断の自殺願望を発露させる姿は絶頂を覚えるくらいに素晴らしい! さぁ、君も愛してやるよ! 僕のこの100体の分身を駆使してね! 最期の亡骸はボクが組み立てなおしてオブジェにして飾ってやるよ! 麗しき白銀の戦乙女フィール! さぁ、最後に何か告げる言葉は有るかい!? そうさ! 遺言と言うやつだ! ククク――アーッ ハッハッハ!〕


 ファイブの口から溢れ出したのはおぞましいばかりの狂気と破壊衝動。そして、歪みまくったフェティシズムだった。理解も同意もできない吐き気を催すばかりの歪んだ情念だ。それをこの人工の体のアンドロイドへと向けようなどと言う嗜好が到底理解できなかった。それでもなお吐ける言葉があるとするならたった一つだ。


「ゲス野郎!」


 フィールは精一杯の抵抗として悪態をついた。今、この状況となってはソレしかできないだろう。だが――


〔ありがとう! 最高の褒め言葉だ! ならば最高の礼儀を持って君をもてなしてあげよう! 特攻装警フィールの処刑ショーでね!!〕


 そしてファイブはコマンドを実行する。


【 戦闘ドローン群、総括制御プログラム   】

【 攻撃対象:特攻装警第6号機フィール   】

【               (指定済み)】

【 攻撃モード:セミオート         】

【 >ヴァーチャルコンソール経由にて    】

【     攻撃手段、攻撃対象範囲を適時指定】

【 破壊攻撃コマンド            】

【      〔――実行――〕       】


〔さぁ始めよう! アイと破滅の宴を! さぁ! 踊れ! 踊れ! 踊れぇ!〕


 ファイブの狂声が闇夜にこだましている。

 そして、100を超える狂気と悪意は一斉にフィールへと襲いかかったのである。


 

 @     @     @


 

「始まったな。残酷ショーが」


 ペガソがグラスを傾けながら、フィールの処刑ショーの映像を眺めていた。もとよりナイラへの仕打ちから分かるようにサディストであり残虐性のある男だ。このようなイカれたお遊びも決して嫌いではなかった。

 そのペガソの傍らではナイラが嫌悪感を必死に堪えながら目を背けている。これから起こるであろう惨劇を目の当たりにすることは、彼女のトラウマを強く目覚めさせるのだろう。いかにも辛く苦しそうに自分の胸の心臓のあたりを押さえていた。

 さらにその背後では王老師の腹心の部下である王麗沙女史が蒼白な顔で、その光景を眺めている。やはり女性として同じ女性のシルエットをもつフィールが迎えるであろう悲惨な光景を想像するに至って冷静ではいられないのだ。

 最後にその麗沙を背後に立たせた王老師が憮然としてその中継映像を眺めている。王老師は何も語らなかった。ただ事の経緯を見守るだけである。そこには四者四様の有様が展開されていたのである。


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