思い出したくないけれど
そして新しい事件が――
有明事件が終わり、その後の事後処理が全てが終わって私はSPとしての任務を解かれることになり、大変お世話になった警護課の人々に丁重にお礼を言いながら私は捜査部へと帰ってきた。
私には犯罪捜査と空からの監視と、ときたま命じられる厄介な非常戦闘に対応する日々が戻ってくる。
そして記憶の片隅にあったメリッサたちのことが思い出が薄れ始めていた、そんな翌年の3月のこと――
運命の歯車は再び回り始める。
そしてもう一つ厄介かつ大変危険な事件が動き出そうとしていたの。
後の人々はこの事件をどう名付けるだろうか?
――東京アバディーン――
そう呼ばれる洋上スラムがある。
埋立地に作られた新興都市。外国人居住者が首都圏中から集まり、有象無象が寄せ集められたごった煮のような場所が出来上がった
そしてそれは戦後日本最悪の犯罪スラムとしてその悪名を世界中に轟かせることになるのだ。
思い出してもあの時の不安と絶望は未だに拭いきれない。
アトラス兄さんが、ディアリオ兄さんが、エリオット兄さんが――、消息を絶った。連絡が不能となりその所在が明らかにならなくなってしまった。
さらにセンチュリー兄さんが右腕と両目の機能を失うと言う危機的状況――、まともに動けるのは私と弟のグラウザーだけという状況が起きてしまったのだ。
当然、私は今すぐにでも救援に駆けつけたかった。
誰が私には待ったがかかった。
疑問と不安が私を襲うが、警察という巨大な組織の中では個人の意思など何も意味は持たない。
組織の論理と集団的エゴイズム、それに押しつぶされそうになりながらも私と私の上司である大石さんは事件空域の上空監視と言うギリギリの選択を無理やりにもぎ取ってきたのだ。
それは仕方のないことだった。
私の兄である四人のうち、三人が行方不明となり、一人が大破。残されているのは私ともう一人だけという状況では私まで失うわけにはいかないのだ。
せめて私だけでも安全に残したい。そういう考えが出てきたとしても決して不思議ではなく、その判断を非難する権限は私にはなかった。
でも、それでもどうしても私はそこに行きたかった。なぜなら、全ての特攻装警は私たちの兄弟であり家族なのだ。
だってそうでしょ? 家族なら、家族を助けに行きたいと思うのは当たり前のことじゃない!
だから私は旅立ったの。あの瘴気の立ち込める猥雑な街の上空へと。兄弟たちを探し出し救い出すため――
だがそれは巨大な悪意の罠が私を待ち構えていることに他ならなかった。
そしてその存在に気づいた時、もう取り返しのつかないところまで来ていた。
サイバーマフィア・サイレントデルタ――
そしてその最重要幹部の一人、字は〝ミラーフェイスのファイブ〟
思い出すだけでも吐き出すような品性下劣な彼、その底なしの悪意と悪趣味に私はとらわれてしまったのだ。
そして私は、絶体絶命の窮地に陥るのである。
その時になって私の脳裏には上司である大石さんの言葉が鳴り響いていた。
「いいか? 上空監視に専念して絶対に地上に近づくな!」
緊急事態とはいえそれを犯してしまった私に降りかかったのは災難などという言葉では語り尽くせない最悪の事態だったのである――