2話 ヒーローになる時
「それで、あのバケモノは何ですか?」
俺はアストレアという神様と話している。
馬鹿げてると思うが、どうやら本当らしい。
「もふもふもふもふで、もふもふなんです!」
俺の目の前にいる神様は、モックのハンバーガーを頬張りながら喋っている。
俺はあの後、腹を空かせた神様のためにモックに行き、ハンバーガーなどを買って来て、境内で食べながら話している。てか、モックでよかったんかな。
「飲み込んでからでいいんで。ゆっくり食べて下さい。」
神様はうんうんと顔を上下に動かしながら、ごくりとした。
「人間界の食べ物が美味しくてつい。私、ここに来てから何も食べてなくて!こほん。私もあのバケモノが何なのかははっきりとはわかりません。ただ、1つ言えるのはアレはテュポーンの力によるものだと思います。」
「テュポーン?あのギリシャ神話に出てくる魔神の?」
「そうです。そのテュポーンです。」
マジかよ....。魔神とか、アニメやゲームの世界だけの存在じゃないんかよ....。
まぁ、まずポテトでも食おっと。って、ない!?
「ごめんなさい!このポテトが凄く美味くて!全部食べちゃいました。」
てへという仕草をする神様。本当に前にいるのは神様なのか?本当はただ単に食いしん坊な女の人だけなんじゃ。
「あっ!私が神様じゃないんじゃ?って思ってませんか〜?ひどいです....。正一さんを助けてあげたのに。」
すいません、思ってました。
「そうそう!どうして俺はアルファ、あの姿に変身できたのか教えてほしいです!」
未だに信じられない。あのアルファに変身しちまったなんて。どうやってか凄く気になる。
「正一さん、石みたいなのを拾いませんでしたか?」
「あー!拾いました!拾いました!」
「あれは、エルピスの鍵。あれが貴方に変身の力を与えてくれたのです。」
「エルピスの鍵?」
「パンドラの箱というのはご存知でしょうか?」
「一応は知っています。」
「開けてはならない箱。だが、それを開けてしまった神がいた。その箱を開けると様々な災いが飛び出し、人間界に降り注ぎました。そして、苦しめてしまった。だけど、箱に残ったものがありました。」
「それは?」
「希望です。数多くの災厄が来ようとも、希望があれば人間は絶望しないで生きることができる。人間1人1人の奥底にはそれがあるのです。」
「俺にも?」
「もちろん。だから、貴方は変身できた。災厄を消し去る力を持つヒーローになりたいというのが貴方にとっての希望なのです。」
「それって希望というよりはどっちかっていうと欲望では?」
「希望は言い換えれば、欲望とも言えます。何かをしたい。出したい。変えたい。動かしたい。創りたい。人間というのはしたいという欲望によって動いています。そして、その欲望がある限り人間は絶望をしない。こう言うと、わかりますよね?」
「まぁ、確かに。」
「そして、その欲望、希望は無限大でして、人間にあらゆる力を与えてくれます。だけど、それには眠っているそれを呼び覚まさないといけない。それを可能にするのが、このエルピスの鍵ということです。」
へぇ〜、そんな力がこれにはあるのか。とポケットに入ったエルピスの鍵を触ろうとした。
「あれ?ない。そのエルピスの鍵ってのがない。」
「エルピスの鍵は、正一さんが持つそのベルトへと形を変えたので、もうないのです。」
「へぇ、なるほど....。エルピスの鍵は、一つしかないんですか?」
「いいえ、あと6つ存在します。だけど、どこにあるのかはわからなくて。」
「アストレアさんが持ってきたんじゃ?」
「はい。しかし、テュポーンとの闘いで、落としたのです。」
「えっ!?」
驚く俺。
「ごめんなさい....。あの時は、ああするしか。」
「いやいや、仕方ないというか。てか、そのテュポーンと闘ったんすか!?」
「はい。元々、テュポーンはお父様であるゼウスの力によって封印されていたのですが、その封印が何らかの原因で解かれて、復活したのです。そこで、私はお父様の命に従い、テュポーンを止めようとエルピスの鍵を手にし、人間の皆さんの力を借りようとしたのです。しかし、探してる途中でテュポーンと出くわしてしまいました。激しい戦闘の末、私は敗北し、せめてこの鍵を盗られるのだけは避けたいと思い、落としたのです。そして、私も意識を失い、気づいたら人間界に落ちていました。」
「あの隕石は、アストレアさんだったのか。」
「お恥ずかしいながら。私は、テュポーンから身を隠す為、固有結界を張り、この場所で隠れているというわけです。」
「それがこの神社というわけか。もう夢のような話で俺の頭はキャパオーバーだ....。」
「でも、夢ではなく現実なのです。正一さん、今私が頼れるのは貴方しか居ません!どうか、テュポーンを倒すため、私に力を貸してください!」
「いやいやいや!俺はそんな大したもんじゃないし!俺、大学二年生ですよ?単位すら、打ち勝てない俺に、魔神と戦えって....。少し、考えさせて欲しいです。」
いきなりやれと言われても、そこまですんなりと受け入れるほど俺はお人好しでもないし、主人公タイプでもない。平凡を人の姿にしたのが俺だ。勘弁して欲しいってのが素直な感想だ。
「わかりました....。そうですよね。いきなりそう言われても困っちゃいますよね。無理言ってごめんなさい。」
「いやいやこっちこそ、すんません。」
顔を下げる俺。そうだ、このベルトは返しておこう。
「正一さん、そのベルトは貴方が持っていてください。それは貴方のものです。それに、あのバケモノみたいなのがまた貴方を襲って来るかもしれませんですし。」
「でも....!」
「私、正一さんには無事でいて欲しいんです。あの時、自分とは関係のない人の事を思って、勇気を振り絞った貴方が凄く素敵でした。そんな素敵な人は生きていて欲しいんです。」
「アストレアさん.....。」
俺は自分のカッコ悪さが悔しくて、手を強く握りしめる。
「私はいつでも、ここにいます。エルピスの鍵を手にした人はこの場所を見つけることができるので。」
俺は、アストレアさんと別れた。
なんで俺が選ばれたんだ....。どうして俺なんかが。
こうして俺にとってのいちばん長い一日は終わったのだった。
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日曜日でせっかくの休みだが、俺は電車に揺られている。
サークルの用事で学校に向かっていたのだ。
俺は、映画製作サークルに所属している。監督、脚本、カメラ、音声など全て自分達で行なっている。
「ふぁーぁあー。ねむっ。」
眠い。昨日の夜は、眠れなかった。あんな事があったから、当たり前だろう。起きた時は、長い夢から覚めたんだと思ったが、枕の横にアルファドライバーが置いてあり、改めて現実なんだと認識した。
俺はどうすればいいのか。テ、テュポーンだっけかな。そいつと闘うべきなのか。てか、まずどんなやつなのか見たこと無いからわかんねぇけど。
[次は、中野。中野。]
電車のアナウンスが聞こえた。
さて、降りるとするか。
「センパーイ!正一センパーイ。」
俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「おー、可奈ちゃん。おはよう。」
この子は、窪田可奈ちゃん。同じサークルの後輩で、一年生である。
「おっす!おはようっす!」
可奈ちゃんは、敬礼する。
「朝から元気だな、可奈ちゃんは。」
「先輩が元気ないだけですよ!また寝てないんですか?」
「あーうん。ちょっと色々あってね。」
「もしかしてもしかして、恋愛ですかぁ?」
可奈ちゃんは、俺の顔を覗き込む。
近い。ドキってするからやめいと思うが、いい匂いするし、もっとやって良し。
「ちゃ、ちゃうわ!恋愛とかよりももっと凄いことたよ。」
「なんだろ....。凄いことかー。うーん、わかんないや!」
だろうな。俺が怪物に巻き込まれ、変身して倒して、神様とお喋りしたなんて想像もできないだろ。
「おっ、正一と可奈やん。」
「おはよう、健。」
「健さん、おはようっす!」
彼は前田健。同じくサークルに所属する、同期だ。
今日はこの健が監督・脚本する映画の撮影だ。
「なぁ、健。今日はどこのシーンやるの?」
「今日は、美香と萌先輩が隼人先輩を巡って、言い争うシーンをやろうと思ってるよ。」
「カメラとかは誰がやるんですかぁー?」
こんな風にいつも通りのやりとりをしながら、学校へ向かう。昨日のことがあったからだろうか、この何気ないやり取りがすごくかけがえのないものなんだなと思えた。
そーいやアストレアさんは、何してんだろ。
飯食べれてないんかな....。今日も行ってみるか。
「おーい、正一。聞いてんのか?」
「えっ?あっ、うん。聞いてなかった。」
「まったく、正一は。今日は、お前がカメラな。」
可奈ちゃんと健はまったくと言わんばかりの感じだった。
「お、了解。」
そんなこんなで、学校に着いた。
またこのキャンパスに来れて、よかったと思う。
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カーテンで閉め切られ、光が一切入って来ない暗い部屋。
机に置いてあるライトだけが光を発している。
「我が主人よ。ヤグアロスが、敗れました。」
イノシシのような顔をした、人型の怪物は跪きながら、そう話す。
「そうか。誰にやられたかわかるか?」
フードを被った、青年はイノシシの怪物に目も向けずに筆で何かを書きながら答える。
「いえ。」
「まぁ良い。私の計画に変更はない。アグリオグルノよ、お前に頼みたいことがある。」
フードを被った青年は筆を止め、くるりと回転し、アグリオグルノの方を見る。
「ハッ!この命、我が主人のために使わせていただきます!」
アグリオグルノは、ずっと跪いたままである。
「グリュプスの作戦を監視してもらいたい。を倒したやつが現れるかもしれんからな。判断はお前に一任する。注意して、取り組め。どうやら、我ら以外にも力を持つものがいるみたいだ。」
「御意!」
アグリオグルノは、影に包まれ消えていく。
「誰であろうと、この私を止めることはできない。」
フードを被った青年は、止めていた筆をまた動かし始める。
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「カット!音声チェックします。」
健は、音声グループと共に音をチェックしている。
「正一、カメラの方は平気そう?」
「あぁ。ノイズもないし、良い画だと思う。見るか?」
「いいや、お前がオッケーならオッケーだろうよ。よし、じゃあこのカットはオッケーです。一回休憩にしましょう。」
健は満足そうな表情だった。
「てかてか、今日なんか騒がしくないすか?」
可奈ちゃんは音声を聞く用のヘッドホンを取りながら、俺に聞いてくる。
「軽音サークルの定期ライブとかじゃなかったけ?知り合いが確か言ってた気がする。」
知り合いというのは、透だ。太っちょなのに、軽音サークルでボーカルを担当してるらしい。しかも、人気とか。まじ意外すぎる。
「まじすか。音声に支障ないといいんですけど。」
「正ちゃん、それほんと?私、ちょっとライブ見に行ってみたいな!」
俺たちの会話に参加してきた、この女の人は飯塚萌先輩。三年生だ。美人でスタイルも抜群、昨年のミス明堂の準グランプリをとっている。そして何より明るく誰にも優しい。密かに狙っているのだが、俺なんかじゃ無理だよな。
「は、はい。じゃあ、少し行ってみますか。」
「私も行く行く!」
可奈ちゃんも手を挙げながら、主張してくる。
こうして、俺と萌先輩と可奈ちゃんはライブ会場に向かった。
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振動がすごく伝わってくる。中からは、歓声のような悲鳴のようなよくわからない声が聞こえる。
「俺の〜唇ぅーを奪って〜。」
男性ボーカルの歌声が聞こえてくる。
「さぁさぁ!2人とも中入ってみよ!」
「あ、ラジャです。はぁ.....、人めっちゃいそうですよね......。」
俺は人混みが少し苦手だ。人の波にのまれて、息が苦しくなるような、あの感じが特にキツイ。
「ほらほら、正一先輩行きますよ!」
「うん.....。」
ドアを開けた瞬間、むわっと来る熱風。
俺らは後ろの方でステージを見ることにした。
「あれ?正一じゃん!どーしたの?」
透だ。汗びっしょりだ。どんだけ汗っかきなんだ、お前は。
「よ。いや、萌先輩が見たいって言うから、少しだけ顔を出しにきたんだよ。」
「どーもでーす。」
萌先輩はピースピースとしながら言う。
「あと、こっちは後輩の可奈ちゃん。」
「こんちわーす。」
敬礼する可奈ちゃん。
「うっす。俺はこいつの友人の透です。以後お見知り置きを。にしても、両手に花だな。正一さんよ。」
透は馴れ馴れしく肩を組んでくる。
「汗!そんなに汗かいてるってことは、もうお前の出番は終わったの?」
「いや、これから。」
何したらここまで汗が出るんだよ。
「正ちゃん!ほらほら、次のバンドさんよ!」
俺は透の腕を解き、ステージの方を見る。
ドラムの人がまず来る。ベース、ギター次々に来る。
だが、ボーカルがなかなか来ない。
「遅いっすね〜。なんかあったんかな?」
可奈ちゃんは、背が低いためステージを見るためにジャンプし続けてる。
「蘭先輩、何してんだろ。」
透も心配そうにしてる。
すると、その蘭先輩は鳥みたいな化け物に首を絞められながら、現れた。
「あ、あう。あぁ.....。」
蘭ちゃんの苦しむ声が聞こえる。
またかよ.....。くそ!
「おい!何してんだよ!」
透は慌てて、ステージの方に行く。
「透!」
俺は透を止めようとしたが、透の方が素早かった。
このままだと....。透や沢山の人が.....。
「てめぇ!」
ギターの人が飛びかかる。
「フン!」
バケモノの左手から、槍みたいなのが飛び出しギターの人を串刺しにし、壁に突き刺さる。
観客達の悲鳴が飛び交う。
「ちょ、ちょ何がどうなってるの。」
可奈ちゃんは逃げ出す客に飲み込まれる。
「正ちゃん、あれはドッキリとかだよね?」
萌先輩は、青ざめた顔をして、俺に聞いて来る。
俺は、パニックしている萌先輩の両肩を掴む。
「萌先輩、早くサークルのみんなを連れて学校から出て!」
「えっ?正ちゃんは?」
俺も逃げたい。だけど、このまま何もしなければ、透や可奈ちゃん、萌先輩、健やサークルのみんなが殺される。
「俺も後から合流するんで!」
俺は、ステージの方に走った。
鳥野郎は、蘭さんを連れて、裏口に出て行った。
ステージの方には、透と蘭さん以外のバンドメンバーが倒れていた。ギターの人は......意識がもうなかった。俺はまず透の方に駆け寄る。
「透!透!」
「しょ、う、いち、か.....。」
どっか刺されたとかじゃなく、頭を打って意識が朦朧としているだけみたいだ。
「無理に喋んなくていい。とりあえずお前が無事で良かった。」
透は俺の肩を強く握った。
「たの....む。しょ...ういち。蘭先輩を....蘭先輩を!」
そのまま透は気絶した。蘭さんはお前にとって大事な人なのか。
「わかったよ....。」
俺は鳥野郎が出て行った方へ走って行った。
裏口から外に出ると、鳥野郎と蘭先輩がいた。
「我が主人の命に従い、貴様を八つ裂きにしてくれる。」
「このぉー!!!」
俺は鳥野郎に向かって飛び蹴りした。不意打ちだったからか、直撃した。鳥野郎は、蘭さんの首を離した。
「ゲホォゲホォ!」
どうやら蘭さんは平気らしい。
「貴様.....。」
鳥野郎は羽を一つむしり取る。すると、その羽は剣に形を変えた。そして、剣先を俺に向ける。刺さったら痛そうだ....。
「て、てめぇ何でこんな事をする!」
「我が慕う主人がそう望むからだ。理由はそれだけだ。」
そんだけの為に、人を殺すのかこいつらは。
拳を強く握る。正直怖い。怖いけど、それと同時にこいつがムカつく。
「ふざけやがって。その主人ってのが望むって理由だけで、罪のない人を殺していくのか!てめぇらは!」
「それがどうした。理由にしては、十分過ぎる。逆に、大義の為に死ねるのだ。有り難く思う事だな。」
「許せない。俺たちの命は、てめぇらに殺される為にあるんじゃない.....!」
「ほう?なら、どうする?お前に私を止めることが出来ようと?こちらも貴様を許さない。ただじゃ済まさんぞ。まず貴様を八つ裂きにし、それからそこいる女を殺し、この学園の人間全員を殺していく。」
ポケットの中のカプセルを強く握り締める。
なんで俺なんかが選ばれたとか、俺には関係ないとか、俺はそんな大層な人間じゃないとか、世界を守れるようなそんな大それたことができる人間じゃないと考えていた。
でも、今そんな事を考えてる場合じゃないんだ。
みんなを救えるのは俺しかいない。
俺がやらなきゃ、目の前の人達が死ぬ。
なら俺がやるしかない。
やってやる!俺はカプセルとベルトを取り出す。
「止めてやるよ。俺が。」
ベルトを腰につける。スゥーハァーと息を吸って吐く。
「変身!」
カプセルをベルトに装填する。
[マスカ!ヌゥアアアイト!アルファァァア!!!!!!]
男性の声の電子音と同時にベルトから衝撃波が出る。
俺は、マスカレーナイトアルファに姿を変えた。
「何!?貴様、何者だ!」
「俺は、マスカレーナイトアルファ。さぁ、ここから先は俺の戦場だ。来い!鳥野郎!」
力が全身に漲ってくるのを感じる。力が漲ってきて思わず、ポーズを取ってしまう。
「おのれぇ....。私は鳥野郎などではない!グリュプスだ。我が羽よ、弾丸となり愚かな者に鉄槌を!」
鳥野郎は、羽を多く毟り取り、それを空中に投げた。無数の羽は鉄の玉となり、俺の方に飛んでくる。
「うわっ!」
俺は何とかそれを交わす。あぶねぇ〜。
グリュプスか。テュポーンといい、ギリシャ関連の名前が多いな。
にしても.....。あの攻撃があると、近づけねぇな。
「どうした?威勢の良さだけが取り柄か?」
どうにかしないとだな。弾丸を弾く、剣。そうだ!剣だ!俺はグリュプスの前に立つ。
「死にに来た。我が羽よ、弾丸となり愚かな者に鉄槌を!」
来る......!
「ムラサメ・セイバー!」
俺はそう叫ぶと、手元に光り輝く刀が現れる。
その刀を一振りすると、弾丸を真っ二つとなり、俺の元には来なかった。
「我が羽が!このぉ!!」
グリュプスが俺に斬りかかってくる。その攻撃をムラサメ・セイバーで受け止め流す。
「テヤァアアアアアアア!!!!」
横に斬りつける。敵の鎧が破壊され、火花と血が飛ぶ。嫌な感触だ。あの時の虎のバケモノの時にも感じたが、俺はこの感触は好きではないみたいだ。
早く終わらせよう。
「ハッ!」
俺はグリュプスを蹴り飛ばす。
「んのぉれ!!!」
蹴り飛ばされながら、何かを言っている。
「お前には悪いが、ここで詰む。」
カプセルを一度外し、またベルトに装填する。
[アルファ!アルファスラッァアシュ!」
刀身が七色に光る。力が集まってるのか、少し重く感じる。刀をちゃんと構える。
「ハァアアアアア!」
下から斜めに斬りつける。すると、光の衝撃波がグリュプスを襲う。グリュプスの倍の高さはあった。
「ギヤァアアアアアアア!」
断絶魔が聞こえた。グリュプスは爆発した。
「スゥーハァ。」
生きてる。息を吸い、生を感じた。
ドッと疲れが来た。変身を解除する。
とりあえず、蘭さんの方に向かおう。
早く透を安心させてやるか。
俺は蘭さんの所に向かった。
だが、そこにいたのは.....。
ハンマーを片手にしたイノシシのバケモノと血だらけの蘭さんだった。
えっ?えっ?えっ?
自分の血が引くのを感じた。
「グリュプスは死んだみたいだな。あいつめ、目的の一つもこなせないとはな。アルファマスカレーナイトと言ったか、全て見させてもらったぞ。」
カプセル.....。バックル......。
「ヘェ!ンシン!!!!!!!!!」
許サナイ!許サナイ!許サナイ!!!!
「ハァアアアアア!」
パンチパンチパンチパンチ!
「今日はお前と闘うつもりはないんだがな。」
アタレ!アタレェ!当タレ!当たれよ!
「ムラサメェー!!!!」
斬りつけてやる!
「仕方ない。」
速い!?どこいった!?
「ヌァアアアアアアア!」
うっ!
後ろから、ハンマーの一撃を食らッ.....
「--んな--ものか。次---きに--、強--てる--の--を--待------。」
待...ち.......やが................................................。
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「ねぇねぇアグリオ〜。何であいつ殺さなかったの?」
仲間のガレオスが俺に尋ねてくる。
子供っぽく、馴れ馴れしいやつだ。
「俺が授かった命令にそのような事は含まれてなかったからな。」
「でも、御主人様はアグリオに判断を任せるって言ってたじゃん?だったら、今の内に叩いておいた方がいいと思うし、僕がアグリオだったら殺してたよ?その方が後々楽じゃん。」
いちいちうるさいやつだ。
だが、確かに何故俺はアイツを殺さなかったんだ。
計画の成功を確実にするためには、アイツを殺すのが1番だ。悔しいが、こいつの言うとおりである。
しかし、それを俺はしなかった。
なぜか?答えは出ていた。
「ふん。行くぞ。」
「えっー!アグリオー!教えてよぉ〜!」
マスカレーナイトアルファ、次会う時までには殺し甲斐のあるくらいには強くなってることを期待してるぞ。
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瞼が重い。身体が凄く痛い。
俺は目に力を集中し、目を開ける。
萌先輩や可奈ちゃん、健などサークルのみんながいた。
「俺は.....。」
「正ちゃん、倒れてたんだよ。凄く心配したんだから....。」
そうか、俺はイノシシのあいつに負けたんか。
「すんません。そういや!蘭さんは!?」
「亡くなりました......。」
可奈ちゃんがいつもの元気はどこに行ったのかという程に凄く悲しい顔で言う。
俺は、彼女を助けられなかったのか.......。
「そうか....。透は?」
「隣の病室の方にいます。正一さん以外にもかなりの人が怪我して。」
「可奈ちゃん、ありがとう。皆、本当に迷惑かけちゃってごめん。俺はもうこの通り、元気だから!皆も疲れてるでしょ?俺は平気だからさ。」
俺は元気がある素ぶりをする。
サークルの皆は帰って行った。
俺には透に会いに、隣の部屋に向かった。
透は窓側の方のベッドで横になっていた。
「透......。」
「正一か。お前、もう身体は大丈夫なのか?」
「俺はもう大丈夫だ。それより.....。蘭さんを助けられなくて、本当にすまなかった.....!」
「お前は悪くねぇよ。お前がまず無事で何よりだ。なぁ、蘭先輩はなんで死ななきゃならなかったんかな。」
「それは.....。」
「蘭先輩はさ、俺によくアドバイスしてくれてさ。趣味も合うし、話してて楽しかった。俺の歌声とか聴いたら褒めてくれてさ、とにかく優しくて、そんな先輩に俺は恋してたんだよ。あの日、本当はライブ後に告白しようって思ってて....。」
「透.....。」
「あの優しい蘭先輩がもういないなんて.....。あぁあああああああああああああああ!」
透は泣き叫ぶ。胸が苦しくなった。
俺は透の背中をさする事しかできなかった。
この悲劇を止めてやる.....。俺は背中をさすりながら、そう心に決めた。
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俺はアストレアさんのいる神社に向かった。
「正一さん!来てくれたん....って、その怪我どうしたんですか!?」
アストレアさんは、俺の顔の傷を見て慌てた。
「いや、もう大丈夫です。それより......アストレアさん!」
「は、はい!?」
俺がいきなり呼んだからか、すごく驚くアストレアさん。
覚悟を決めるときなんだ。
俺はもう逃げない。自分は向いてないとか、もうそういうのを考えるのはやめた。やるんだ。この悲劇を止めるんだ。俺が救うんだ。
だから、俺は......。
「俺、闘います。テュポーンと。この世界を救う手伝いをさせてください!」
俺はこの日、ヒーローになることを選んだ。