ヒーロー誕生!
プロローグ
欲望の無い人間など、この世界には居ないと俺は思う。
「アルファフィニッシャー!ハァッー!!!!!」
全身全霊の力を脚に込め、必殺の一撃をテュポーンに撃ち込む。
だが、その一撃すら片手で受け止められ、そのまま投げ飛ばされる。
「こんなものか、お前達の想いというのは。」
「正一くん!!!正一くんの力でもダメとか.....。」
霞はそう呟きながら、膝から崩れ落ちていく。霞に向かってテュポーンが光弾を打ってくる。だが、その光弾は誠の左手によって止められる。
「霞姉ちゃん!何諦めてんだよ!俺らが諦めたら、誰がこの世界を救うんだよ!」
「誠くん....。」
攻撃を受け止めている誠の左手はプルプル震えており、限界に近かった。
「クッ....。力が大きすぎて、吸収できない.....!このままだと.....。」
そんな誠の横をデカ物が通り過ぎる。
「いっけぇーー!!ダンガリオン!!!!」
その掛け声と共に、15メートル級のロボットであるダンガリオンがテュポーンの懐に飛び込む。
だが、相手はそれを軽やかに交わす。
「遅くなってめんご!こっからは、この静香様と相棒のダンガリオンに任せなさい!」
「ほう。この私に勝てると思っているとは。なら、こちらも取って置きのを見せてあげよう。」
テュポーンは、そう言うと左手を空に掲げる。
すると、魔法陣が出現し、そこから巨大な二つの顔を持つ黒い犬のようなものが出現する。
「出でよ、我が息子、オルトロスよ!」
オルトロスは、強力な光線をダンガリオンに向けて撃つ。そして、ダンガリオンに直撃する。
コクピットに乗っている、静香の悲鳴が聞こえる。
「次で終わりだ。放て、オルトロス!」
オルトロスはもう一撃光線を撃つ。
「エスペシャリーシールド!!!!」
オルトロスの光線は、霞の魔法によって跳ね返された。
「サンクス、かすみん。」
「大丈夫!?静香ちゃん!」
「なんとかね....。」
霞はダンガリオンのコックピットに駆け寄る。
テュポーンとオルトロスは宙に浮いて、俺らを虫けらのような目で見ている。
「さて、諸君。これで宴は終わりかな?ならば、これで終焉としようではないか。」
「ふざけんじゃねぇ。これで終わりなんかじゃない。俺、いや俺らがてめぇを必ずぶっ潰す!」
俺はそう言いながら、霞、誠、静香の顔を見る。
3人とも頷いていた。
そうだ、終わりなんかじゃない。
俺らが終わったら、それで世界が終わる。
終わっちゃならない!
何かになりたい。出したい。動かしたい。止めたい。創りたい。全ての事柄には、したいという欲望が詰まっている。
欲望が、人を動かす。
欲望が、世界を動かす。
欲望こそ、力なのである。
「そうだよな、アストレア。」
俺は、アストレアと出逢った日からの全てを振り返った。
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1話 全てのはじまりの日
雨の音が強く鳴り響く、真夜中。電柱のライトが時折点滅する。
2人の男が向かい合っていた。
「ここまでだ....。駿河!」
そう言いながら、美少年は腰に普通のバックルにしては、少々大きい奇妙なバックルを身につける。
「結局、お前と俺とではわかり合うことなど不可能なんだよ。なぁ、悟。」
駿河と呼ばれた、不良ぽい彼もまた奇妙なバックルを身につける。
「変身。」
そう言うと、カプセルを装填する。すると、悟と呼ばれた少年は仮面をつけた騎士に姿を変える。
「.....変身。」
駿河も気怠そうに同じ言葉を呟きながら、カプセルを装填する。彼も同様に仮面をつけた騎士に変わる。
悟の方は、白と青が混ざった姿。
駿河の方は、黒と赤が混ざった姿。
2人はお互い構える。
「駿河ぁーー!!!!」
「悟ぅー!!!!!」
名前を呼びながら、ぶつかり合う2人。
「やっぱ、かっけぇや。駿河のアルファは!」
俺の名前は、遠藤正一。大学2年生だ。誰に話しかけてるんだかわからないが、気にしない。
そこそこ普通な容姿で、身長も175センチとそこそこな高さ、都内のそこそこ有名な私立大学に通っている。
このテレビで戦ってる2人と違って、平凡なそこそこな人間だ。俺も中途半端に生きてるんじゃなく、こんな風に熱く、何かを守れる力が欲しいもんだよ。
「次回、マスカレーナイトオメガ。知られざる真実。これで決める!」
テレビの方から、次回予告のナレーションが聞こえる。
マスカレーナイトとは、大人気ヒーロー番組で、今回のオメガマスカレーナイトで18作品目までやっているシリーズだ。
「変身!ハァーーー!」
俺は変身ポーズを取る。俺もあんな風に変身して、誰かを守ってみたいな。
「ふあーぁ、ねっむ。そろそろ、寝るかな。」
今日は寝ておこう。
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朝という時間はとても苦手である。なぜなら、眠いからである。
「続いてのニュースです。昨日深夜2時頃、東京都渋谷区の駐車場で男女5人の遺体が発見されました。遺体の状況から、何者かに刺された事による失血死ということで、5日に起きた通り魔事件の関連があると見て....」
「東京は物騒ね、最近。正一も気をつけなさいよ。」
「ぅ...うん。ふあーぁ。」
母親の忠告に、眠そうに答える。
「本当だらしないわね。もう少しシャキッとしなさい。」
そんな簡単にシャキッとできたら、苦労しない。
テーブルに置かれてある食パンを口にする。
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「ふあーぁーあ。寝みぃ、、、」
「なんだ、徹夜でもしてたんか?」
眠そうな俺に、話しかけてくる太っちょのこいつは峯田透。同じ大学に通う友人だ。
「まぁな。マスカレーナイトを一気見してたら、朝になってて。」
「お前本当好きだよな、マスカレーナイト。あんな子供番組つまんないだろ。」
はいはい、出ました。ヒーロー番組を子供番組扱いする奴。
「うっせぇ。見てから言え。」
「いいや、見ないね〜。見ても時間の無駄なんだもん。」
お前とのこのやり取りがまず時間の無駄だ。俺は今にもぶん殴ろうとする右腕を抑える。
「そういや正一さ。今日のニュース見た?アキバに隕石が落ちたとかなんとか。」
「あー、見たよ。」
「絶対アレ、宇宙人だよ!とうとう地球に攻め込んで来たんだって!」
どうしてこいつは、そんなsfチックな事考えるのに、ヒーロー番組はダメなんだよ。
「普通にないだろ。それにニュースでは、隕石の落ちた形跡はないって。」
「夢がないな、正一は。いいか、宇宙は可能性に満ち満ちている。宇宙人の1人や2人はいるに決まってる。」
このデブは、やれやれという言わんばかりの仕草をする。お前の頭にやれやれだよ。
「なんで、そんなにロマンにありふれているのに、ヒーロー番組はダメなんだよ。」
「あれはそのなんていうのリアルじゃないというか。なんかダメ。」
こいつの頭に隕石が落ちないかなと考えているうちに大学に着いた。
明堂大学。略して明大。東京に3つのキャンパスを構えるそこそこ有名な私立大学である。
にしても、今日はなんかキャンパス内に人が少ない気がする。
「今日いつもより少なくない?休講とかじゃないよな、、、、。」
「いやーまさか。ちょっち、休講情報見てみるわ。」
そう言うと、透は携帯を取り出し、大学のポータルサイトを開く。
「うわ!まじかよ!今日、休講かよ、、、。関の野郎、もっと早く情報を出せよ。」
関とは、これから受けようとしていた授業の教授である。
「だから、今日そんなに人いないんか。」
今日は土曜日である。土曜にもあまり多くはないが、授業があり、特に再履修枠の授業が主である。再履修とは、必修科目の授業を落とした者がもう一度受けなければならないもので。自分と透はその再履の授業を受けに今日来ていた。
「どーする?俺は夕方バイトあるから、一回家に帰るけど。」
透は身体をすくめながら聞く。わかるよ、その気持ち。
「自分は買いたい物があるから。アキバに行くかな。」
「おっ?まじ?ならさ、どこに隕石落ちさたか探してきてよ!」
「嫌だよ。それに隕石なんてありえねぇから。」
この時はまだ、知る由もなかった。
隕石以上のものが、この地球に落ちてきてる事を。
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オタクにとっての聖地。秋葉原。
ここはありとあらゆる趣味を持った人間が集まる。
アニオタ、ミリオタ、ドルオタ、鉄オタ...etc
そして特撮オタク。通称、特オタの俺もお世話になっている。
アキバに到着した俺は、まず始めにやる事がある。
そう、アキバの空気を思いっきり吸い込む事だ。
「今日もいい空気だ。」
アキバは、特撮に特化した街ではない。中野のブロードウェイの方が多いと思う。
でも、俺はアキバを選ぶ。
趣味が街になったような、この異常さが凄く好きだからだ。
「いつも通りのアキバだな。隕石なんか落ちてるわけがないな。」
さて、透の妄想などに付き合ってる暇はない。
俺には目的がある。マスカレーナイトアルファのベルトを買うという目的が。
別にベルトを買うなら、地元のデパートでも済む。だが、アキバで買いたい。自分でもおかしいと思うさ。でも、アキバで買うんだ。
アキバで買うことに意義があるのだ。
まぁ、ただ単にアキバに行きたかっただけなのかも。
「さーてと、シンバシカメラにでも行ってみるか。」
俺は、シンバシカメラの6階に向かった。
マスカレーナイトのコーナーに向かう。
当然のことながら、主人公のマスカレーナイトオメガのベルトは山積みされているくらいある。
ヒーロー番組の主人公系のアイテムは人気で、需要もあるが供給もその分多い。主人公だから、当然である。
だが、サブのヒーロー達のアイテムは、生産数が少ない場合もあり、特に今回のマスカレーナイトアルファは敵役。いわばダークヒーローアイテムである。
この場合、一度生産した後はどんなに人気でも追加で生産しないことがある。そのヒーローのノルマのラインが越えれば、企業としてはそれでオッケーなのだから。変に多く生産して売れ残ったら、せっかくの黒字も赤字になってしまう。
だからこそ、欲しいのであれば、発売したらすぐ買うのが鉄則である。
そして、その鉄則に従い、俺は発売日である今日、アルファのベルトを買いに来たのである。
だが、どこを見渡しても。
無い。無い。無い。無い。無い。
レジの横に移動している可能性もある。そうだ、そうに違いない。
だが、無い。
「あのすいません。」
「はい!何でしょうか!」
店員さんに聞くのが1番、手っ取り早い。
「その、今日発売の、マスカレーナイトオメガに出てくるマスカレーナイトアルファのベルトのアルファドライバーってありますか?」
「あー、アルファですよね?今日入荷はしたんですけど、すぐ売り切れになってしまいまして。大変申し訳ございません。」
申し訳なさそうに謝る店員さん。店員さんが悪いわけじゃない!悪いのは、ベルト争奪戦に負けたこの俺なんだ。
「いや、大丈夫ですよ!ありがとうございます。」
仕方ないので、俺は他のお店を回ることにした。
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結論から言うと、無かった。
どこのお店に行っても売り切れであった。
どうやら、入荷数が少ないらしい。
おのれ、マンダイめ。どうして、もう少しくらい多く作らないんだ。ネットを見ても、転売ヤーにより倍以上の値段で売られている。転売ヤーめ、滅びろ。
「はぁ.....。まさかどこも無いなんて....。」
ここまで無いと、ますます欲しくなってくる。
ネットを閉じ、ケータイをポケットに入れようとしたら、手を滑らせて、ケータイを落としてしまう。
「うわっ!やべっ!割れてないかな.....。」
急いでケータイを拾う。液晶は幸い割れてなかった。うん?何か落ちてる。
「なんだ、これ?」
光り輝く、透明な石のような。でも、石にしてはツルツルだ。何より綺麗だ。なんか吸い込まれそうな。
思わず、俺はその石のようなものをポケットに入れた。なんか良いことがありそうなそんな気がした。
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だが、そう簡単には起きなかった。
拾った後も色んなお店を巡ってみたが、売り切れであっと。
どこか穴場でもないかなという思いで、あまり行かない路地裏に足を踏み入れる。
路地裏に踏み入れた途端、なんか嫌な感じがした。
でも、気のせいだろ。
穴場ないかなという一心で、歩く。
ぶらぶら歩いてるといつの間にか公園の方まで、来てしまった。
「とりあえず公園でひと息つくか。」
と呟きながら、公園に入る。
その瞬間であった。
今でも俺はこの日を忘れない。記念日だ。
そう、俺の日常が非日常へと変わった記念日である。
バケモノが人を殺してるというSFのような事が起きてるところを見てしまったのだ。
血。血。血。辺り一面に広がる血。
そして、その血の中心に立つ、異形のバケモノ。
特撮ヒーローの見過ぎで現実と空想の世界を区別できなくなったのかと思い、目を擦る。
だが、目を擦っても視界が一瞬ボヤけただけで、すぐにくっきりと赤い景色とバケモノが目に映った。
これは現実なんだ。夢なんかじゃない。
俺はバケモノの方を見る。
豹のような顔、豹の体と革ジャンが混ざったようなボディー、鋭く尖った長い爪、そしてその爪で突き刺されている女の人。他にも子供やサラリーマン、お爺さん、お婆さんなど横たわっていた。
「なんだよ....これ。」
つい声を出してしまった。それくらいに情報量の多い光景だ。隕石の方がまだ良かった。
バケモノは突き刺していた女の人を投げ捨てる。
よくこういうシーンを見ると吐くのが一般的だが、逆に現実離れすぎて吐き気など起きなかった。
そうこうしてると、バケモノは俺の方を見てきた。
やばい。
「あれ〜?まだ遊んでくれる人が来てくれたみたい。二ヒヒヒヒ。」
喋った。女の声だ。なんだよ、あいつ。二ヒヒヒヒとかどんな笑い方だよ。
「あははは、あれ?待ち合わせ場所間違えたかな~?」
ダメだ、ここから早く逃げないと。
俺は、こけながら全力で逃げる。
「逃げちゃうの?あーなるほど。鬼ごっこかっ!いいよ。付き合ってあげる。」
後ろからそんな声が聞こえてくる。
付き合わなくていいって!
俺は、後ろを振り返らず、必死に逃げる。
「すいません、どいてください!」
他の人達を掻き分けながら、走る。
「イャッフゥー!」
バケモノは爪を立てて、俺に飛びかかって来た。
俺は何とか、ジージャンの右腕の方が少し裂ける程度で避けられた。
俺が避けたので、バケモノはそのまま自販機に突っ込む。
「ハァハァハァ....。なんなんだよ、あいつ。」
今の内だ。
バケモノが突っ込んでいる間に、俺は曲がり角を曲がって、真っ直ぐ走り、そしてまた曲がり角を曲がって、曲がって、真っ直ぐ走った。
とりあえず、どこかに隠れるよう。
どこかないか、俺は必死に探す。
左のほうを見る。隠れそうなところはない。
右のほうを見る。あれ.....?
「こんなところに、神社なんてあったけ?」
週に一回は秋葉原に行く。
だから、秋葉原のだいたいのことなら知っている。
だが、そんな俺でもこんな場所に神社があったなんて知らなかった。
「坊やは、どこかな〜?」
声が聞こえた。まずい、早く隠れないと。
俺は急いで神社に駆け込む。
どこだ、隠れる場所!早く早く!見つけないと!
後ろはどうなってる?少し振り返ろう。
振り返ると、そこにはバケモノがいた。
「ざーんねん。ゲームオーバー。」
そう言うと、バケモノに蹴り飛ばされる俺。
「ぐはっ!」
ぐはっ!とか漫画のようなセリフをマジで言う日が来るなんて。
蹴り飛ばされた俺は木にぶつかる。痛い。凄っく痛い。
「ねぇ、坊や。人ってさ、なんであんなに弱いんだろうね。こんなすんごい街、テクノロジー、芸術作品を作っておいて、いざ、こういうのになるとすぐに死ぬ。」
「知るかよ!お、お前は何なんだよ!人間じゃないのか!」
「うーん、私はある人に作られた創造物って感じかな?その人はこの世界を壊したくてってそんな話を君にしても意味ないでしょ?」
何だよ、創造物とか。あー、今日死ぬんか俺は。
「ねぇ、命乞いとかしないの?」
「命乞い?」
「そう、命乞い。聞いてよ、さっきの人間の命乞いなんて傑作だったんだよ。私の事はいいんで!この子だけは、この子だけは!って命乞い。だから、私ね。先にその子を殺してあげたの。最高でしょ?二ヒヒヒヒ。」
死ぬっていう恐怖と同時に、怒りが湧いてきた。なんで、こんな意味のわかんないやつに殺されなきゃならないんだ。なんで、こんな意味のわかんないやつに他の人の幸せを奪われなきゃならないんだ。
でも、やっぱり怖い。怖い。たまらなく怖い。
「そしたら、その命乞いした女、わんわん泣き喚いてさ〜。もう最高に興奮する。人の絶望は本当たまんない。」
バケモノは身体をソワソワしてる。すごく楽しそうにしてた。それが無性に腹立った。
「あとはー。おじいちゃんとおばあちゃんとかのも最高だったなー。」
「ふざ....けんな。」
「えっ?なになに?命乞いする準備できたの?」
「ふざけんな、このクソ野郎!って言ってんだよ!」
俺は勇気を振り絞って言った。
「それが君の命乞い?ちょっとつまんないかな。」
あぁーあ。こいつをぶん殴れるチカラがあればな。
こいつをぶん殴れるチカラを持つヒーローになれたら.....。あ、そーだ、これだけは言っておこうかな。
「変身ベルト欲しかったなぁーーーーー!!!!!」
その時である。ポケットが光り輝く。厳密に言えば、そのポケットの中にある、先程拾った石が光っている。
(貴方なら、この世界を救える。)
なんだ、頭の中から声が聞こえる。
(貴方の思い、伝わりました。)
俺の思い?
(そう貴方の思い。殺された人達を思い、殴りたいと怒る気持ち。そんな貴方なら平気。)
何が?
(この力を使いこなせる。)
力?
(イメージして、貴方が欲しいと思う、その変身ベルトを。)
ベルト!?
(さぁ、イメージするのです!)
は、はい!俺は言われた通り、イメージする。
(後は貴方次第です。)
そして声は聞こえなくなった。光が止む。
「眩しい、何よ.....。」
バケモノは動きを止めている。
それにしてもなんか俺の右手に何かあるな。俺は右手を見てみると、そこには。
「アルファドライバー.....。」
「なになに?それは?」
もう何がなんだかわからない。だけど、それでも、俺はこのベルトを巻かなきゃいけないと思った。
「俺にもわからない!だけど、これだけはわかる!俺はお前を許せないって!人の命を平気で踏みにじるお前を!」
ベルトを腰につける。すると、ベルトは自動的に装着した。
「じゃあ、許せないならどうにかしてみなさいよ!!!」
バケモノは爪で突き刺そうと走ってくる。
このまま行けば、俺は死ぬ。
だけど、俺は。俺はここでは死ねない!
「変身!」
アルファカプセルをベルトに装填する。
[マスカ!ヌゥアアアイト!アルファァァア!!!!!!]
電子音と同時にベルトから衝撃波が出る。
「何!?」
バケモノは吹き飛ばされる。
俺の体はみるみる変わっていく。
足、胸、腕、肩、首、そして顔にアーマーが装着される。
俺はこの姿に見覚えがある。
そう、俺はマスカレーナイトアルファに変身した。
この日、俺は夢だったヒーローになったのだ。
「ここから先は、俺の戦場だ!」
マスカレーナイトアルファの決め台詞を言ってみた。
「何よ、それ!!!」
バケモノが飛びかかってくる。俺は、右足に力を込める。
「ハァアアアーー!!!!!」
バケモノを蹴り飛ばす。
俺は尽かさず、バケモノの懐に飛び込み、右の拳でスイングする。
「ぐはっ!!!」
先程のぐはっのお返しだ、このバケモノ野郎!
「食らいやがれ!!!」
そして左の拳でアッパーをする。
「なんなのよ....。この力。バケモノめ!!!」
爪で切りつけてくる。それを交わす。
もう一度切りつけてくるが、右腕で受け止める。
「バケモノはお前だろ、バケモノ。」
左の拳に力を入れ、腹に一発お見舞いする。
「そろそろフィニッシュだ。」
カプセルを一度外し、もう一度装填する。
全身に力がみなぎってくる。
[アルファ!アルファストライクゥウウウ!]
電子音と共に俺はジャンプし、必殺技のキックを繰り出す。
「テヤァアアアアアアア!」
バケモノに的中する。
「キャアアアアアアアアアアアア!!!!!」
バケモノは悲鳴と共に、爆発する。
「ハァハァハァ、やったのか。」
疲れがどっと出てくる。力が一気に抜ける感じがして、倒れる。
生きてる。俺は生きてるんだ。
「お疲れ様です。正一さん。」
「へっ?」
綺麗なお姉さんが俺を覗き込んでくる。
長く艶のある金色の長髪。なんか甘い香りもする。
肌は白く。すべすべで白く輝く真珠のようだ。
スタイルは出るとこは出ている。
絵に描いたような美人。
「あなたは......?」
「私は、アストレア。女神です。正一さん、貴方の力を私に貸してくれませんか?」
にっこりと微笑みながら、手を差し伸べる女神。
これが俺とアストレアの出逢い。
そして、その出逢いが俺の平凡な人生を大きく変える。
今日この日、俺はヒーローになったのだ。
(続く)