偽りの繋がり
第七章
教室へ戻って、私は丸美と伊都香に声をかけた。
「ちょっとお前ら、美冴があんな目に遭ってるのに、心配もしないのかよ」
「えっ・・」
丸美が少し引いたようにそう言った。
「えっ、じゃねぇよ。今までさんざんつるんどいて、なんだよそれ」
「そんなこと言ったって・・クラスのみんなは私らにも冷たい目で見てるし・・・」
伊都香がそう言った。
「はあ?信じらんねー。それが友達の言う言葉かよ。それにお前らがさんざん虐めやっといて、それはねーだろ」
「じゃあ、どうすればいいって言うの!」
「逆切れかよ、丸美。まずお前ら四人で虐めをやってたってことを、先生に言え」
「えっ!」
「実際、高峰は見てるんだから、お前らがそう言えば高峰は認めるしかねぇよ」
「・・・」
「それからもう、二度と虐めはするな」
「・・・」
「わかったか!わかったなら返事をしろ!」
「う・・うん・・」
二人とも頼りない返事をした。
「それから保健室へ行ってやれよ。美冴、落ち込んでるぞ」
「わ・・わかった・・」
そう言って二人は教室を出て行った。
そして私は、教壇の上に立ち、みんなに向かって話した。
「みんな!聞いてくれ!」
クラスのみんなは、大きな声で口を開いた私の方を注目した。
「美冴の椅子に画びょうを置いたのは誰だ!」
誰も何も言わない。
「見たやつだっているだろ!誰だ、置いたやつは!」
「知らねーっつーの」
一人の男子がそう言った。
「嘘だ!知ってるはずだ!」
「こういうのって、自業自得っていうんじゃねぇの?」
別の男子がそう言った。
「なんだ、それ」
「だって、今まであいつら何をやって来たんだよ。画びょうくらいなんだってんだよ。当然の報いってもんだろ」
「はあ??お前らがそれを言うか。今まで見て見ぬふりをしてきたお前らに、あいつらを責める資格はねぇよ」
「ってか、お前、さんざん虐められてたのに、今更なんだよ。ひょっとしてあれか?脅かされてんの?」
男子がそう言ったことで、クラスのみんなが笑った。
「笑ってんじゃねぇ!!」
私はそう言って教壇を降り、笑ったやつらに「画びょうを置いたのはお前か!」と首根っこを掴まえて問うた。
どいつもこいつも、知らねぇ知らねぇばかり言いやがって。
なっんてやつらだ。
「秋川、座れ」
振り向くと高峰が立っていた。
「先生、今朝、美冴の椅子に画びょうが置かれていました」
「そうか・・わかった・・」
私がそう言うと、高峰は私を睨みつけた。
なんだ、こいつ。普通、先公は生徒が悪いことをした時に睨むんじゃねぇのか。
なに考えてんだ。
「先生」
私は手を挙げてそう言った。
「なんだ」
「このクラスの虐めや、今朝の画びょうのことはどうするんですか」
「他の先生たちと相談する」
「他の先生にちゃんと話したんですか」
「ああ・・」
「ほんとですか!?」
「もういい!お前は余計な口出しするな!」
「はあ??なんだよそれ!」
「うるさい!もう授業が始まる」
そう言って高峰は出て行った。
「クソがっっ!!」
「千菜美ちゃん・・落ち着いて・・」
菜々絵が心配そうに話しかけてきた。
「菜々絵ちゃん、お前、よく我慢できるな」
「・・・」
「私は絶対に納得できねぇ」
「高峰先生・・なんか事情があるんじゃないかな・・」
「事情?」
「うん。わかんないけど・・・先生の評価っていうのかな・・それを気にしてるのかも・・」
なるほど。そういえばそんなこと聞いたことあるな。
いやいや、評価を気にして臭いものに蓋をするなんて、本末転倒じゃねぇか。
そんなの先公の資格なんてないよ。
私はこうなったら、校長へ直談判することに決めた。
高峰は、もう完全にダメだ。
あいつを当てにしたって、らちがあかねぇ。
下校時間になり、私は保健室へ行ってみた。
「美冴、大丈夫か」
「あ・・千菜美・・」
「丸美と伊都香は?」
「知らない。帰っちゃったんじゃない」
「なっんだ、あいつら」
「いいんだって。どうせ友達じゃないもん」
「じゃ、私と一緒に帰ろうよ」
「うん・・」
頷いて美冴は泣き出した。
「泣くなって・・」
「ごめん・・今までごめんね・・千菜美・・」
「いいってば」
「私・・・本当に酷いことしちゃって・・」
「だからいいって。もう気にしてないよ」
「うん・・」
「さっ、帰ろう」
そして私たちは学校を後にした。
「なあ、美冴」
「なに?」
「丸美と伊都香のことだけどさ、あいつらもきっと、淋しかったんだと思う」
「・・・」
「だから、今度会った時は、お前から声かけてやれよ」
「うん・・」
「みんなガキなんだし、欠点だらけだ。でもそれでも支えあっていくのが友達だと思う。そうしていくうちに、お互いのことも分かり合えるようになるよ」
「千菜美って・・なんか余裕っていうか、大人だね」
「そんなことないよ。私だって欠点だらけだ」
「それにしても・・・変わったよね。千菜美・・」
「そっか?」
「うん、変わったよ。何がきっかけでそうなれたの?」
「きっかけ、ね・・あはは」
「なに笑ってんのよ」
「別に。きっかけなんてどうでもいいじゃん。人間って変わろうと思えばいつでも変われるんだよ」
「そうなんだ・・」
「だから美冴も変われるよ」
「うん・・」
美冴って、ほんとはいい子なんだな。
中学で虐められたことで、心がちょっと歪んでしまっただけなんだ。
きっと、新しい高校生活が怖かったんだな。
「じゃ、また明日な」
「うん、また明日」
「お前、絶対に学校休むんじゃないぞ」
「あはは、千菜美、先生みたいだね」
「あはは、そかな」
美冴は笑って帰って行った。
私も若い時は不安と不満を、周りに当たり散らすことで心の均衡を保ってたけど、美冴たちも同じだ。
毎日、手探りで生きてるんだな。
大人になって初めてわかることなんだよ、これって。
みんなまだガキなんだ。
そのガキたちを、正しい道へ導くのが先公ってもんだろうが。
その先公があれじゃ、ガキはいい大人になれねぇよ。
「ただいまー」
「おかえりー」
千菜美の明るい声が、とても嬉しく思えた。
「お母さん、今日は、特製ハンバーグにしたよ」
「おおっ!いいねー」
千菜美は、パートしながら家事もこなしていた。
私はいいって言ったんだけど「私はお母さんだから」とか言って、私の真似をしていた。
「うまそうじゃーん」
「でしょー」
「いただきまーす」
うわっ・・マジでおいしい。すごいな、千菜美は。
「これ、どうやって覚えたの?」
「今はネットが何でも教えてくれるからね」
「へぇーそうなんだ」
「で、お母さん、その後、学校はどう?」
「ああ~、それな。今日さ、美冴の椅子に画びょうが置かれててさ」
「ええーー!」
「ったく・・誰だよ、そんなことするの」
「酷いなあ・・」
「あ、それでさ。私、美冴と友達になったから」
「ええっ!」
「驚くことないじゃん。いいんでしょ?」
「うん・・それはいいけど・・」
「なによ」
「いや・・お母さんが・・あの美冴と友達になったって・・信じられない・・」
「どうして?」
「だって、お母さんなら、とことんまでやり込めることはあっても・・友達って・・」
「なんだよー!私だって一応、大人なんだからね」
「でも、すごいよ。お母さん」
「へ?」
「美冴を見捨てなかったんだね。すごいよ」
「っんなー。別にすごくないって」
「ううん。ありがとう。私、嬉しいよ」
「そっか。それならよかった」
よかった。千菜美、すごく安心してる。
なんていい子なんだ、千菜美は。
「あ!それよりね」
「なに」
「今日、スーパーで万引きがあったのよ」
「なにぃーー!」
「それで、私、思わず追いかけちゃって」
「ええっ!」
「中年のおばさんだったから、すぐに追いついちゃって、私」
「で、どうなったの?」
「盗んだのは、たいしたものじゃなかったんだけど、なんか色々と事情があったみたいで」
「どんな?」
「家族はいるんだけど、なんか一人ぽっちみたいでね・・」
「そっかあ」
「泣いて反省してたから、店長は許してあげてね・・」
「そうか」
「そしたらまた三原さんが、余計なこと言って・・」
「なんて?」
「最初が肝心だから警察へ突き出すべきだー!とか」
「あのババア。温情ってもんが無いんだよ」
「で・・私「うるせえよ」って言ったの」
「あっはは、また言ったのか」
「そしたら黙っちゃった・・三原さん」
「千菜美の威力、すげーな」
「私じゃないよ。お母さんだよ」
「あはは、そうなるか」
「それにしても、お母さん・・」
「なに」
「私たち、いつ元に戻れるんだろう・・」
「それだよ・・」
私たちは落ち込んで、その日は終わった。
第七章END




